日本以外の作曲家による日本に寄せる小文
 


 日本人作曲家による、いわゆる国民楽派的な日本風音楽・日本を題材にした楽曲というのは、これは日本人の責務としても、ただたんにネタとしても、多数あるのは、ある意味当たり前だと思う。

 面白いのは、海外の作曲家から見た、「JAPAN」 だろう。

 これは日本に限った話ではなく、チャイコフスキーがイタリア奇想曲を書いたり、リムスキーコルサコフがスペイン狂詩曲を書いたり、メンデルスゾーンがスコットランド交響曲を……と、例は他にたくさんあるので、珍しい話ではない。単に、異国ネタを求めているだけだ。

 その中で、日本モノを探してみたい。いかにもジャポ〜〜ンなものから、どこが日本やねん、というものまで、海外ならではの面白さ。

 なお、自分で全曲・一部聴いたことのあるものを優先してとりあげます。本項にあるもの以外でも、探せばマニアックなものがまだまだあるでしょう。

 ※吹奏楽及び単純な編曲は割愛。


○プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」

 おそらく海外産の日本モノでもっとも高名なのは、この作品だろう。オペラは門外だしもともと小文の項なので、多くは書かないし書く必要もないほど高名だが、シナリオ、美術、演出、音楽、良くも悪くもジャポニズムの最高の権化。

○サリヴァン:喜歌劇「ミカド」

 蝶々夫人ほど高名ではないが、その筋には高名なイギリスの風刺の効いたオペレッタ。もはやジャポンなんだかシナなんだか、アジア風いっしょくたでとりまとまっているのも「お約束」だろう。

○ガイヤール:歌劇「戦争」

 これはオペラマニアでも、そうとう方向性の偏ったマニア以外には知られていないと思われる、フランスのガイヤールによる日露戦争を題材にしたマニアック歌劇で、最終場面には天皇賛歌として君が代を準用(流用)した1曲がある。

○R.シュトラウス:日本建国2600年に寄せる祝典曲

 皇紀2600年(西暦1940年 昭和15年)に日本が同盟国を中心に海外にも当時のクラシック作曲家に奉祝曲を発注し、けっこう集まったが、意外に純粋音楽だったり、なぜか鎮魂曲だったりし(笑) 内容も日本を題材にしタイトルにも日本がついているのは、ドイツ音楽院総裁のリヒャルト・シュトラウスの祝典曲のみであった。

 面白いことに、シュトラウス大先生、一切「日本風」な音色も音階も使わずw 完全にシュトラウス流のやり方で桜祭り、侍の突撃、天皇賛歌などが聴かれる。

 冒頭の旋律にお寺の鐘(お経のときに叩くやつ)の指定があるが、初演の時は音階を合わせるのが至難だったという笑えない話がある。現在は音階のある「クロマティックゴング」という打楽器で代用する。ドイツ初演では、電気で音を合成したという。さすが、ドイツの科学力技術力は世界(ry)

○ホルスト:日本組曲

 惑星のみが高名で他の曲は一気にドマイナーになるホルストに、これまたド珍品な日本曲がある。珍品という割には古い録音もあるし、YouTubeにもあるので興味のある方はぜひ探して聴いていただきたい。全6楽章、11分ほどの小品で、当時イギリスにいた日本人バレエダンサー伊藤道郎(1893〜1961)の依頼によりバレエ音楽として作曲され、伊藤より口笛(鼻歌も?)で日本の民謡を教えてもらい、全編に配した。ホルスト先生大真面目に作曲し、けっこうな佳品に仕上がっているが、いかにもトンチンカンな部分もあって微笑ましい。

○ストラヴィンスキー:3つの日本の抒情歌

 それぞれ仏訳、英訳、独訳、露訳された日本の短歌3首(山部赤人、源當純、紀貫之)に、ストラヴィンスキーが曲をつけたもの。短歌や俳句に作曲するのは日本人の作曲家でもあるが、妙なリフレインで延々と引き延ばすのは愚の骨頂。曲も、スパッと終わらなくては、短歌俳句に作曲する意味が無い。せめて1回くらい繰り返すとか、そのていどだろう。ストラヴィンスキーの歌曲は他にもただでさえ短い曲が多いがここでも、1曲1分ほどで、3分半くらいで終わっている。

 どちらかというと印象主義、点描主義で、静謐・静寂を極め、日本風はおろか西洋歌曲としても、けっこう現代曲っぽい。ここで追求されているのは、精神としての日本であろう。春の祭典のオーケストレーションの最終段階作業中に作曲され、その対比を比べるのも一興。

○ストラヴィンスキー:歌劇「ナイチンゲールの歌」

 これは厳密には「中国もの」なのだが、日本の天皇からシナの皇帝への贈り物ということで、機械式のメカナイチンゲールが登場し、日本からの使者がそれを持って登場する。元はアンデルセンの童話なのだが、西洋の童話ですらメイドインジャパンが精巧精緻なメカなのが、いかにも寓話的で面白い。

○ショスタコーヴィチ:日本の詩による6つのロマンス

 ショスタコ20歳あたりのときの若い作品で、イギリスやフランスの詩によるロマンスもあるので、ロマンスシリーズといってもよいだろう。かのハンス・ベードゲ(マーラーの大地の歌の歌詞元)によるドイツ語「日本の春」のロシア語訳「日本の詩」からとられているが、後半は誰の詩なのかももはや不明で、こちらによるとインドのタゴールとの混同の可能性すらある。

 ショスタコらしいシニカルさが完全に確定される前の作品なので、ショスタコっぽい現代曲という印象もあるが、その中にも抒情が隠れている。全体に暗い。

○ホヴァネス:日本の木版画による幻想曲

 交響曲を67曲も書いたアメリカの現代音楽作曲家アラン・ホヴァネスは、そもそもアメリカ内での異国情緒(アルメニア、東洋趣味)がウリだったが、日本モノもある。奥さんが日本人(ソプラノ歌手)だそうである。

 15分ほどのシロフォン協奏曲がその名も「日本の木版画による幻想曲」で、木版画とは浮世絵のこと。CDもあるしYouTubeに音源もあるので興味のある方は聴いてほしいが、これがまあ、いかにも外人が好きそうなジャパ〜〜ンの極みww

○ペンデレツキ:広島の犠牲者によせる哀歌

 これは、ペンデレツキが原爆の犠牲者のために書いた感動的な現代音楽を代表する傑作……と思われがちだが、実は最初は単に「レクイエム」で、日本初演の際にただ集客のためにヒロシマをくっつけたという曰くがある「珍曲」であるといえようwww

○メシアン:7つの俳諧

 日本旅行の際にメシアンが、日本の風景や鳥の声にインスピレーションを受けて書いた室内楽曲。刀で斬られるようなホーーーァッ!ホケッッキョオォ!!が聴きもの。

 他にも、現代音楽作曲家に禅や俳句をテーマにした曲は多いが、聴く気がしないのが玉に瑕だ。

○ジョリヴェ:2台のピアノのためのパチンコ

 フランスの現代音楽作曲家、アンドレ・ジョリヴェが来日してなぜかパチンコにハマり、フランスへ帰って作曲した。これは未聴だが、楽譜を見たことがあるという友人の言によると 「チンチンジャラジャラという曲ではなく、普通の現代音楽」 だそうだw

〇ノルドグレン:小泉八雲の怪談によるバラード1番・2番

 フィンランドの現代作曲家ノルドグレンは東京藝大に留学経験もある日本通で、いろいろ日本を題材にした曲を書いているが、一部、舘野泉の委嘱によるバラード1番と、完全委嘱の左手のための2番のピアノ独奏曲はなかなか聴きごたえがある。作風としては派手すぎず淡々とした抒情があり、ちょっと日本テイストもありつつ、書法は現代という感じ。






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