第15回座談会 「伊福部昭生誕100年を振り返って」
語り手 九鬼 蛍(以下「九」という。)
語り手 堀井友徳(以下「堀」という。)
日時 2015年1月3日午後3時ころ
場所 北海道札幌全日空ホテル喫茶店にて
演奏会
九「1年たつのは速いもので、昨年はじゅにあ君と鼎談をやりましたが、あれからもう1年で、今回は第15回の記念の座談となりました。以前はネタも多くて年に2回やってましたが、ここのところは年に1回です。昨年は2014年で伊福部先生の生誕100
年記念ということで、たいへん盛り上がりましたが、拾える範囲内でやっていきましょう。まずは演奏会から。私や堀井さんが関係したものやじっさいに聴いたものをメインで」
堀「2月に横浜のみなとみらいでやった、井上さんと日フィル、安倍圭子さんの『ラウダ・コンチェルタータ』他は、私は聴きに行きました。次は、5月のキタラホールでやった『シレトコ半島の漁夫の歌』の合唱版ですね。これは1月に初演して、5月に再演しました」
九「私も聴きに行ったのは、再演なんですね」
堀「本当は5月が初演の予定だったのですが、繰り上がって1月にやりました。これは、北大の現役の合唱団の演奏会にOBの方々もゲスト出演することになって、急遽そこでお披露目することになったのです。1月は札幌教育文化会館です。製作の経緯は、九鬼さんのサイトにOB合唱団の方から連絡が行って、そこから私に連絡がきて、北大合唱団の創立100
周年記念演奏会で歌いたいという話でした。当時、50年前の記念演奏会で伊福部先生に委嘱して歌った本人からのお話でした。本当は原曲の通りオーケストラ伴奏でやりたかったそうですが、諸事情で断念し、ピアノ伴奏ということで」
九「合唱ピアノ版は、独唱ピアノ版と合唱オケ版の折衷で編曲したのでしたっけ?」
堀「そうですね。オーケストラ版の伴奏は、実はユニゾンが多くて、そのままピアノにするとちょっと物足りないというか。それで、独唱版の伴奏とうまく組み合わせて、再編曲したような形です。もう2年前ですね。2013年です。九鬼さんがYouTube
にアップしてますので、興味のある方はどうぞ聴いてほしいと思います」
参考:シレトコ半島の漁夫の歌(合唱版)
九「思うのですが、『合唱頌詞オホーツクの海』と、この『シレトコ半島の漁夫の歌』合唱版と、『北海道讃歌』と、伊福部のオーケストラ伴奏合唱曲(カンタータ)がせっかく3曲そろったのだから、これでプログラムを組んでもらえるのが夢ですね。ちょっと『オホーツク』が、特殊編成だそうですから、難しいかもしれませんが」
※『オホーツクの海』のオーケストラ伴奏は、ストラヴィンスキーの『詩篇交響曲』とほぼ同じく3管オーケストラからヴァイオリンとヴィオラを欠くという特殊な編成。
堀「オーケストラ版の『シレトコ』は50年前に演奏されてから1回も演奏されてないそうなので、演奏されると良いですけども、規模も大きいし、もともとは独唱用の歌曲なので、いわゆる通常の合唱曲とは毛色もまったく違いますし、こちらもなかなか難しいかもしれませんね」
九「1月の次が、3月の和光市の第3回伊福部昭音楽祭ですか?」
堀「そうですね。これは吹奏楽の編曲で参加しました。まず万博の『三菱未来館』の音楽から『嵐』と『火山』を吹奏楽に編曲しました。これは以前の座談会でもふれましたが、キングレコードのシリーズのときに、私がこの『三菱未来館』の音楽を交響組曲にしたらどうでしょうと伊福部先生に提案したのですが、諸事情によりボツになりました。その話を関係者が覚えていてくれて、ここで吹奏楽でやったらいかがですか、という話になりました。『嵐』と『火山』の2曲が『ゴジラ対ガイガン』という映画の戦闘シーンに流用されているので、特撮がらみでもあるということで。ちょうど良い機会だし、ぜひやらせてほしいということで、やりました。『火山』という曲にはティンパニが6台(6音)使われていて、どうやって演奏したのか、ちょっとよく分かりません」
九「6台は凄いですよね(笑) 私も『火山』の原曲のCDを聴いて、どうやって叩いているのか想像がつきませんでした。2人で演奏しているのかと」
堀「1人だと思います。奏者の周りにぐるりと置いて、回転しながら演奏したのでしょうね(笑) 伊福部先生の曲で、ティンパニ6台はこれだけだと思います。先生は以前、ご自身であそこはティンパニは4台だ、6台も使ってないとおっしゃっていましたが、今回スコアを確認したら、やっぱり6台使ってますよ先生! という(笑) それはそうと、手配や演奏も難しいので、今回は4台に直させてもらいました。違和感なく仕上がっていると思います」
九「次が、『ゴジラVSキングギドラ』から3曲ですね」
堀「それは、さいしょから再演等も考えて、時間的にも演出的にもちょうど良いということで、キングギドラのテーマと、伊福部マーチと、ゴジラのテーマの3曲でやってほしいと依頼されたのです。原曲で7曲(前奏曲・ディノサウルス・ラゴス・エミー・キングギドラ・マーチ・ゴジラ)あるうちの、5、6、7曲目です。キングギドラのテーマは、吹奏楽でも映えると思います。これはライブCDも発売中ですのでよろしくお願いします(笑)」
九「続いて、5月31日に、東京、札幌、釧路とトリプル演奏会で」
※伊福部昭生誕100年記念コンサート 井上道義(降板)/東京交響楽団/山田玲子/野坂操壽
※札幌交響楽団第569回定期演奏会 高関健/札幌交響楽団/加藤知子
※伊福部昭 幣舞生誕百年記念祭コンサート
堀「凄かったですね」
九「我々がじっさいに聴いた、札響をメインに」
堀「そうですね。8月の定期でやった早坂文雄の『交響的組曲 ユーカラ』とからめまして、札響の演奏を振り返りましょう。
5月の伊福部は、私が30日に聴いて、九鬼さんが31日に。アンコールはありませんでしたね」
九「せっかくの定期演奏会ですし、アンコールはなくて正解でした。あれでゴジラをやると、逆に台無しです」
堀「なんといっても、『ヴァイオリン協奏曲第2番』です」
九「良かったですね。あれは今回出ましたキングのシリーズのCDで聴いても、音はきれいだし、演奏はうまいしで、言うことはありません。この曲はこれまで芥川さん指揮の新響のやつと、外国のオーケストラのやつしかありませんでしたので、貴重な録音です。ライヴですけど、セッションのような録音のきれいさです」
※これまでのヴァイオリン協奏曲第2番の録音
芥川也寸志/新交響楽団/小林武史Vn(1980年ライヴ)
井上善惟/アルメニアフィルハーモニー管弦楽団/緒方恵Vn(2000年ライヴ)
堀「これは『リトミカ・オスティナータ』もそうなんですけど、『ヴァイオリン協奏曲第2番』も東京ではまったく演奏されていないレア曲なのです。東京では、その芥川さんがやって以来、演奏されてないと思います。大阪で大友さんが演奏して、FMで流れたものがありましたが、生で聴く機会は多くありません。川崎の演奏会とハシゴして、東京から札幌に聴きにきた方も多かったと思います。この曲が伊福部曲として変わっているのは、いきなり無伴奏のソロから始まるところです」
参考:大友直人/関西フィルハーモニー管弦楽団/岩谷祐之Vn(2010ライヴ) 2010年9月19日(日)NHK-FM「FMシンフォニーコンサート」にて放送
九「演奏の順番としては『日本狂詩曲』『ヴァイオリン協奏曲第2番』『土俗的三連画』『タプカーラ交響曲』ですが、『日本狂詩曲』も良かったですね。テンポ設定が抜群でした。『土俗的三連画』をやったのも良かった。『日本狂詩曲』では、東京のプロフェッショナルレンタル打楽器店から楽器を頼んだら、拍板(パイパン)がなくて沖縄の三板(サンバ)がきたそうです。これらの、指に紐で挟んでカタカタ鳴らす楽器で、16分音符をやるには、あまり速いテンポだと難しいので、1・2楽章とも高関さんのテンポくらいがとてもちょうど良いと思いました」
堀「速いものも、ノリがあって良いですけども」
九「祭は、テンポが速いとノリが出ますね。速いものと、ゆっくりなテンポと、両方合って面白いです。そもそも伊福部先生は、喜寿の演奏のときの『日本の太鼓』も、自分で指定したテンポのとおりに振らないし(笑)」
堀「そうそう、先生はそういうところがありました。キングの録音のときも、日本組曲とか、ここはそんなに速くないんだよなあ、とおっしゃって。先生、自分で指定したテンポじゃないですか、とか(笑) 日本狂詩曲の2楽章も、本当に札幌まつりのテンポなので、ゆっくりだとおっしゃっていました」
九「お祭りの行進の、歩きながら吹く横笛のメロディーだから、けっこう遅い。あれをそのままやるというわけではないでしょうが。また行列によっては、速く吹く人もいるかもしれませんけども」
堀「話は戻りまして、『土俗的三連画』も良かったし、『タプカーラ』もすばらしい演奏でした」
九「そうですね『土俗的三連画』もプロの演奏はなかなかありませんし、演奏自体も良かった。みなさん上手でした。『タプカーラ』も、演奏も良かったし、CDもとても録音が良いです。あの感動がけっこう忠実に録音されています。お客さんも入ってましたし、なにより定期会員のお客さんがけっこう喜んでいたのが嬉しかった」
堀「加藤さんのヴァイオリンも、ベテランの渋さがよく現れていました。高関さんは探求肌ですし、よく研究されていたと感じました。この演奏会の前に、東京フィルハーモニー交響楽団で『日本狂詩曲』と『タプカーラ交響曲』をテレビ放送もしましたしね。あの録画が先にあったので、高関さんの研究がより深くなっていたのかもしれません」
九「8月の定期演奏会の、下野竜也指揮の早坂文雄『交響的組曲 ユーカラ』もすばらしかったです」
堀「早坂さんの『ユーカラ』はヤマカズさんと日フィルのCDしか録音がないのですが、ヤマカズさんなので、けっこうテンポを動かしているというか、表現が濃い感じです。下野さんの端正で静謐な感じが曲とよく合っていたと思いました。スコアを見てないので、なんともいえませんが。あと速い部分での、下野さんの迫力が凄かった」
九「本当に良かった。あの『ユーカラ』はCDにしてほしいくらいです。あと前プロの『スターウォーズ組曲』も面白かった(笑)」
堀「あの『スターウォーズ』も良かったです(笑) 集客にも貢献したのでは? あと早坂といえば、早坂・伊福部の組み合わせというのは、ありませんでした。あと同じく生誕百年だった小山清茂さんは、けっきょく、めだった演奏会は何もありませんでしたね」
百年紀シリーズ
九「では次に、堀井さんも関わりました、百年紀演奏会シリーズです。これは、1から3で終わったのですか?」
堀「年内は終わりましたが、同じような企画は今後もあるかもしれません。この企画は、2013年からありました。私の役割は基本的に楽譜のチェックです。作曲家の鹿野草平さんがお一人で楽譜を清書して、私が原曲にくわしいというので、それをチェックしました。1は、本番は行けなかったのですが、2はリハーサルを聴けました。3では合唱も加わって、盛り上がったようです。アンコールでお客さんもいっしょに『キングコング対ゴジラ』のテーマを歌って」
九「楽譜も音楽ソフトを使ってきれいになって、曲数も豊富だし、今後の演奏会でも取り上げられると良いですね」
堀「珍しい『ドゴラ』とか、『佐久間ダム』とかが楽譜になりましたから、演奏されると良いと思います」
九「10年くらい前より、私は、映画音楽の組曲は、もっと通常の定期演奏会等でのコンサートに登ると思ってましたが、いまいちですねえ。メジャーどころでは、プロコフィエフの『キージェ中尉』とか、『アレクサンドル・ネフスキー』くらいですか」
堀「映画音楽コンサートは、増えてきたように感じますけども」
九「映画音楽コンサートではなく、定期演奏会とかで、交響曲などといっしょにステージに登るという意味です。バレエ音楽の組曲はもうすっかりステージ音楽として定着していますが、映画音楽の組曲はさっぱりです」
堀「バレエ音楽は、純音楽に近いと思いますから、そのせいでしょうか。映画音楽は娯楽としてとらえられているとか」
九「バレエも映画も、芸術と娯楽と両方の要素がありますし、音楽だけになると、バレエは芸術で、映画は娯楽なんでしょうか。その意味で、札響の下野さんのプログラムで、『ユーカラ』に『スターウォーズ組曲』が定期演奏会に登ったのが凄くびっくりしたんですよ。英断も英断、『ユーカラ』も英断だし、『スターウォーズ』も英断だと思いました。早坂つながりで『七人の侍』というのならまだ分かるのですけども」
堀「あの演奏会では、邦人作品がトリになったのも驚きました。ふつうは、前半プログラムなんですよ」
九「百年紀に戻りますが、よく3回もやりました」
堀「伊福部先生は映画の数が多いですから、ネタはいくらでもあります。セレクトするのが大変だったようです。この一連の演奏会を通じて分かったのは、ゴジラファン、伊福部ファンというものの特徴です。ゲーム音楽のコンサートをやると、お父さん世代から子供たちまで幅広く来るのですが、ゴジラ、伊福部だと、お父さん世代がほとんどです。そして男性がほとんど。しかも、ゴジラファン、伊福部ファンに別れて、伊福部ファンにも(特撮)映画音楽ファンと純粋音楽ファンがいる。それらを跨いでいる人もいるけど、やはりどちらかがメインになりますし、そもそも跨いでいる人は少ないです。多くの人が、どこかのカテゴリーに分類されます。そういう傾向がはっきりと分かりましたので、今後の企画に参考になると思います。あくまで大きな傾向ですけども」
九「伊福部の純粋音楽の聴き手を増やすには、今回の札響の演奏会でゴジラをやらなかったように、完全にゴジラから離れて、交響曲や協奏曲、管絃楽曲で、ふつうのクラシックファンを取り込む努力をするべきなんでしょうね。ゴジラ=伊福部というのは、もうかなり知れ渡っていると思うので、その次の段階に進まないといけない気がします」
テレビ番組
九「まず、昨年私が録画しました伊福部関連の番組は以下の通りです」
2014年
1/19 題名のない音楽会 伊福部昭 テレビ朝日
5/30 クラシック倶楽部 日本人作曲家名作選 伊福部昭 BSプレミアム
7/6 音で怪獣を描いた男〜ゴジラVS伊福部昭〜 BSプレミアム
7/8 名曲アルバム「ゴジラ」 Eテレ
8/8 100年の音楽「ゴジラ」 テレビ東京
8/30 伊福部昭の世界〜「ゴジラ」を生んだ作曲家の軌跡〜 NHK総合
10/24 にっぽんの芸能「作曲家 伊福部昭の世界」 Eテレ
11/1 NHK映像ファイル あの人に会いたい「伊福部昭(作曲家)」 NHK総合
堀「私が録画したのもほとんど同じです。中には見ていないのもありますが、順番に振り返りましょう。題名のない音楽会は『日本狂詩曲』の2楽章と、『タプカーラ交響曲』の3楽章という抜粋の演奏でしたけど、黛さんが司会のときに同じく伊福部先生を特集したときの映像も出て、資料的にも良かったです。佐渡さんの演奏も良かったと思います」
九「佐渡さんの伊福部は以前からもっと振っているイメージがありましたが、意外とそうでもありません。演奏は、私もとても良かったと思います。ヤマカズ系の、熱い演奏でした。2014年の伊福部イヤーの幕開けに相応しい番組でした」
堀「高関さんと東フィルのクラシック倶楽部でも、基本的に札響の演奏とコンセプトが変わりませんでした」
九「ドキュメントでは、NHKで衛星放送と、地上波とで2種類あります。どちらも面白かったですね。BSプレミアムの方は、初代ゴジラ音楽を特集して、佐野史郎さんが司会で、再現ドラマもありました。宇部神社のお神楽まで出てきて、伊福部先生のお墓も映りました。地上波の方は作曲家として特集して、バレエ音楽とかやって。貴重なドキュメント番組となっていました」
堀「名曲アルバムのゴジラは、和田さんの編曲ですね。この 100年の音楽というのは? これは、私は見ていません」
九「テレビ東京の、ヴァイオリン奏者の川井郁子さんの番組で、毎週金曜日の22時55分からやってる5分間番組です。いろいろな小曲を川井さんのヴァイオリンソロとピアノや絃楽四重奏の伴奏に編曲して、川井さんが解説もしています。ふだんは小洒落たアンコールピースのような曲ばかりやっているので、ゴジラをやってびっくりしました」
堀「にっぽんの芸能では、鬢多々良と二十五絃箏合奏版の交響譚詩です。これも映像で見られたのは貴重です」
九「あの番組のあと、ツイッターでは伊福部にこんな曲もあるんだというツイートがけっこう見られました。私のYouTubeも紹介されて、嬉しかったです」
参考:鬢多々良(伊福部昭のインタビュー付)
堀「映像ファイルも、貴重なインタビューをたくさん見ることができました。NHKは、ああいうレアな映像をたくさん持っているんですよ(笑)」
CDについて
堀「CDは1月の『プロメテの火』を皮切りに、特撮も含めると、昨年は20枚くらい出たのではないでしょうか。特に5月に、先生の誕生日に合わせて集中して出ました。さすがに全部聴くのは難しく、いろいろ出た中で、我々のベスト3でもきめましょう」
九「いいですね」
堀「では、まず私から。ベスト3というか、3つ挙げるとすれば、まず古希記念演奏会の、座談会の模様の入った3枚組のもの。これはお弟子さんたちがオーケストラ編曲した『ギリヤーク族の古き吟遊歌』の初演が入っています。座談会の模様は本当に貴重で、先生もお酒が入ってかなりフランクな調子でした。それから岩城宏之指揮/東京都交響楽団の演奏会のやつ。岩城さんは打楽器出身のためか、かなりインテンポで淡々と薦める印象でしたが、かなり表現に幅のある、すばらしい演奏になっています。ヤマカズさんの揺らすタイプではなく、端正に攻めてくるというか。それと、ヤマカズ指揮/東京フィルハーモニー交響楽団で前橋汀子さんソロの『ヴァイオリン協奏曲1番』の第3稿のやつ。これは、岩城さんのCDにも小林武史さんのやつが入っていますけども、この『ヴァイオリン協奏曲1番』の第3稿というのは、色々と衝撃的でした。またこのCDには『箜篌歌』の初演の模様も入っていて、とても貴重です」
九「なるほど、さすがのチョイスですね。私はあえて重複を避けつつ、そうしますと、広上淳一指揮/東京フィルハーモニー交響楽団の『プロメテの火』と、高関健/札幌交響楽団の『タプカーラ交響曲』の最新ライヴ、上田仁指揮/東京交響楽団/金井裕ソロピアノの『リトミカ・オスティナータ』の初演のやつですね。これらは、それぞれ私にかなりの衝撃を与えたものばかりです。『プロメテ』は演奏会にも行きましたが、とにかく私の好みにぴったりの曲で、特に『火の歓喜』は、伊福部の中でも最も気に入っている1曲です。高関さんの『タプカーラ』は、私にとって究極の演奏です。これ以上のタプカーラは、しばらく出ないと思います。『リトミカ』の原典版は、以前の座談会でも私が指摘した、中間部の違和感が残る部分に、本来は異なるカットされた楽想が入っていたことが分かって、個人的にとても納得し、感動したものです」
堀「CDといえば、喜寿記念の演奏会の模様のドキュメンタリーDVD は見ましたか?」
九「見ました。私は、あの喜寿記念の演奏会が映像作品になっているというのを知らなかったんですよ。YouTubeにどなたかがアップしていたでしょう。あれで初めて見たんです。とても良かったですね。特に伊福部先生のテンポの『日本の太鼓』が良かった。先にCDで聴いていましたが、改めて映像で見ても良かった。堀井さんもそうでしょうが、私もこの喜寿記念のCDが初めて買って聴いた伊福部昭で、伊福部音楽のファーストインプレッションでした」
堀「私は当時、10,000円もするVHSのビデオテープを買いまして、何回か見たらヘッドにテープが絡まって見られなくなったんですよ(笑)」
九「ドキュメンタリー仕様でしたから、インタビューも貴重でしたが、しかし、『ゴジラVSキングギドラ』の演奏がブツ切りだったのはちょっと、と思いました。お弟子さんたちが伊福部先生に捧げた小曲も、初演のときは14人の室内楽が原曲でしたが、喜寿記念のときは絃楽がフル5部だったんですね。オーケストラ版となっていました」
総括
九「数年前の座談を読み返しますと、伊福部先生も亡くなって数年たち、なんか最近新しい演奏会もないし、そういう企画もないし、寂しいね、などと書いてありますが、昨年は一気にきましたね。どうしたんだろう、というくらい」
堀「きましたね。もう、我々の予想を良い意味で裏切りました。2014年は生誕100年で、少しは盛り上がるといいね、なんて言っていましたが、少しどころではなかった」
九「むしろ、やりすぎたくらいで(笑) 急に伊福部昭の名前がメジャーになったという感じがします」
堀「今まで、伊福部を聴いてなかったという人や、あまり評価していなかったという人が、見直したという話も聴きます。今まで聴かず嫌いで、聴いてなかったものが、これを機会に聴いてみたり、聴き直してみたりして、その良さに目覚めた」
九「伊福部先生ばかりが盛り上がって、同じ生誕100年の早坂文雄さんや小山清茂さんはいまいちだったのは、しかたないでしょうか」
堀「しかたないでしょうね。伊福部先生は、早坂さんに比べたら倍生きてますし、小山さんに比べたら録音物の数がまるで違いますし。昨年、さらに増えたことで、これからの伊福部受容に貢献すると思います。これから伊福部を聴く若い人たちは、もうCDやYouTubeがこんなにある。我々が学生だったころは、純音楽のCDなんて現在と比べるとほとんど無かった。数種類しかなかったです。あと、キングの伊福部芸術シリーズ、これは今年2015年で20周年なんです。このシリーズの録音で伊福部先生と最初から最後までずっといっしょだったのは、私だけです。このシリーズが、最近はライヴ録音主体とはいえ、ずっと続いているのも凄いと思います。このセッション録音の1から5は、未だにロングセラーなんですよ。だからこれで初めて伊福部を聴いたという人は多い。キングのシリーズも含めて、これから聴こうという人も、これから伊福部先生のファンになる若い人、小中高生の人達は、既に聴くものがこれだけある。20年前は考えられませんでした。20年前は幻の作品だったものがこれだけ出た。あと、私が関わった『ゴジラVSデストロイア』も20年です。20年というのはさすがに感慨深い」
九「伊福部昭は、これからもっともっと恒久的な、一般的という意味でメジャーな存在になるでしょうね」
以上
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