第5回 「自作演奏会とCD録音について」


 聴き手 九鬼 蛍(以下「九」という。) 
 語り手 堀井友徳(以下「堀」という。)

 日時 2008年12月14日午後3時半ころ 
 場所 北海道某所

 ヴァイオリンとチェンバロのためのロマンツァ(2000)
 チェンバロのためのノクチュルヌ(2003)
 カスタネット、ヴァイオリン、ピアノのためのコンサート・アレグロ(2007)
 カスタネット、ヴァイオリン、マリンバ、ピアノのためのパミール・ラプソディ(2008)

 ※当日は、ロマンツァとノクチュルヌはピアノで演奏した。

 ギターのためのモノローグ(2003)


九「では引き続き、私が主催し、10月12日に行われました、札幌交響楽団打楽器奏者、真貝裕司さんのカスタネットコンサートの第2部、堀井友徳の世界についてですが」

堀「逆にお聞きしますが、いつごろこの企画を?」

九「3月ごろに会場を予約しましたらもう10月しか空いてなかったので必然的に日時が決まりました。それから詳しく企画を進めました。本当は、個人的にコンサート・アレグロがどうしても聴きたくて(笑) 真貝先生のカスタネットコンサートと抱き合わせれば、ちょうど良いと考えました。堀井さんが今企画のためにパミール・ラプソディも作ってくれたので、それならばと、第2部ということで独立させました。ロマンツァはすぐ決まりましたが、本当は2曲目にマリンバとピアノのための八重山幻想譜を持ってくる予定でした」

堀「そういえば、そうでしたね」

九「しかし諸事情でそれがボツになり、そのうち堀井さんが、マリンバのための大聖堂幻想譚を予備にして、間に合えばピアノの新作を書くとか云って、けっきょくそれもダメに(笑)」

堀「それでけっきょくノクチュルヌになりましたね(笑)」

九「堀井さんとしてはいかがでしたか」

堀「自分の作品をこんなにたくさん、一度に聴いたのは始めての経験だったので、ある意味、勉強になりました。じっくり過去の曲も聴いて、もう一回それを見つめなおして、なおかつ新しい要素も発見できた。それが原動力となり、いま書いている新作にも役立ちました。4つ中3つ、ロマンツァ以外は私も初めて聴いた」

九「ロマンツァというのは、良い曲ですね。初期の作品の中ではダントツなのではないですか?」

堀「それは他の人にも云われました。これがうまくいった要素というのは、ヴァイオリンとチェンバロという編成の、特にヴァイオリンという楽器のせいだと思います。ヴァイオリンというのは基本的に歌う楽器なので、あそこまでメロディアスに書くことができた。一方、動くこともできるので、後半のアレグロも書けた。チェンバロというのも、ふだんなかなか使われない楽器なので」

九「今回はまあ、チェンバロの部分はピアノで演奏したわけですが」

堀「ピアノでも違和感はありません。ですが、あまりピアニスティックではないですね。チェンバロは、あまり派手にできませんので」

九「むしろそれが逆にピアノでやる場合の魅力にもなっていると思います。構成も良いですね。さいしょはメロディアスで、中間部はカデンツァで、最後はアレグロ。ベターなのですが、なんかいい」

堀「これは再演としてはもう、5、6回はされてます。クラリネットにも編曲しました。B♭管なので、全音下げて書きました。会場で聴いていて、懐かしかったです。少し、若いなという感じはしましたが(笑)」

九「ノクチュルヌというのは、意外と良かったですね」

堀「意外と(笑)」

九「いや、チェンバロソロというので、もっと擬似バロックっぽいものを想像していましたが、ピアノでもない、チェンバロでもない、独特の曲想でした」

堀「これは(ギターのための)モノローグに似ていますね。モノローグのすぐ後に書いたので、余韻があったのでしょう。微妙に日本的な音階、ハーモニーを入れてあります。さりげなくね。私も初めて聴きました。演奏も良かったですね。いや、この機会じゃないと聴けないなと思って、ここぞとばかりに持ってきましたが」

九「派手さはないが、渋く、ぴたっと収まった感じがしました」

堀「ノクチュルヌ(ノクターン)って感じはしました?」

九「ノクターンというよりセレナードという印象でした。ピアノだったからかもしれません」

堀「自分の中では、完全に忘れていた曲でしたが……ロマンツァと同系統の曲ですね。……この次のアレグロはすごかった(笑)」

九「アレグロは演舞組曲の、どれとどれですか」

堀「第1楽章と第5楽章、両端の曲がアレグロなのです。それをそのまま編曲しました。元が津軽三味線とチェンバロですので、ちょっと編成が特殊すぎますので、私はリライトはあまり好きではないのですが、この曲だけは機会があったら洋楽器にしたいと思っていました」

九「元の曲がそうだからというのもあるのでしょうが、フラメンコカスタネットという楽器でアジア的な響きを出せたのは、収穫だったと思います」

堀「私の曲の中で、こういうのは後にも先にもありません。やはりその、津軽三味線というのが、もともと、5音音階の楽器なので、必然的に、そういう民族調になったのです。洋楽器でもそれは、弾いていると日本的になっちゃうのです。さいしょからヴァイオリン、カスタネット、ピアノで新作をとなると、そういう風にはならなかったと思います。逆にそれが意表をついてウケたのだと思います」

九「旋律は日本的ですが、リズムはロックビートっぽく、良い意味で和洋折衷的な良さがあると思います」

堀「なんにせよ、私の中では異色の作品です。原曲はだから、苦労しました。リライトは、すぐに出きました。ちょっと報われた気分です。アレグロのみの編成というのも初めてです。これは書いて良かったと思いました」

九「同じアレグロ2つですが、アレグロの中でも差があって良かったです。パミール・ラプソディも良かったですね」

堀「オリジンとしてはこっちが先です。これはパミールの春という民族音楽の原曲があって、それをマリンバとピアノのためのパミールの響にして、今回、パミール・ラプソディにしました。ヴァイオリンが入ることによってよりエキゾチックな感じになりました」

九「これのカスタネットも良いですね。カスタネットはもちろんスペインの楽器ですので、民族的に使ったとしてもスペインのリズムを刻むのですが、それをぜんぜん感じさせない、アジアの打楽器みたいな音になっているのがいちばん感動しました」

堀「どちらにしろ、昔の曲を活かしてもらって良かったです。元はマリンバ曲ですが、どちらかというとマリンバは脇役になりましたでしょうか」

九「いや、でも目立っていました。タンバリンも、パミールの響のほうでは、正直必要ないのではないかと思いましたが、良いものですね(笑) 2人で叩き分けたので、マリンバとタンバリンの部分と、カスタネットとタンバリンの部分があって」

堀「これは、原曲も良いですからね。チャルダッシュのようでしたでしょう。さいしょはゆっくりやって、だんだん激しくなって。リストがハンガリー狂詩曲を書いたのと同じスタンスです。こういうのも、めったに書かないです。この2つは異色ですね」

九「でも、前半は西洋で、後半は東洋という感じで、良いプログラムでしたね」

堀「バランスは良いですね。私は、バリエーションのあるプログラムを組めるような作曲をしているということには自身があります。お客を飽きさせないと云いますか」


九「次は、哘崎さんの日本のギター曲集に収録されたモノローグですが」

堀「哘崎さんから、(ギター二重奏のための)バラータというのと、同時委嘱だったのです。バラータというのは、(二面の二十絃筝のための)譚章というもののリライトです。哘崎さんから、(ギターで)譚章をやりたいという話がありまして。しかし、譚章のギター版というのではなく、一から書いたものではありますが、中身は譚章と同じです。モノローグはまったく新しく書きました。モノローグも、自分が今まで書いた中では、変わった作風です」

九「CDでは遅い演奏だったとか?」

堀「哘崎さんが、ゆっくり弾かれたのです」

九「あと、ギター作品は、フルートとギターのためのデュオローグでしたか」

堀「そうです、それは明るい作品ですよ。それも、どちらかというとそれまで書いたことのなかった作風です」

九「フルートといえば、フルートと二十絃筝のための萌黄色の朝への前奏曲というのがありますが、その両方とも、ギターや筝の作品というより、フルートの作品のように聴こえます。やはりメイン旋律をフルートが担当し、ギターや筝が伴奏にまわりがちだからでしょうか」

堀「それは視覚的にも聴覚的にも仕方ありません。フルートのほうが音が高いし、ギターや筝が伴奏をしているように聴こえます」

九「これらはいい曲ですね」

堀「私はフルートがいちばん好きな楽器なので、もっとフルートと縁があればと思うのですが、なかなか難しいです。木管が好きなのですが、木管とは縁が無い」

九「CDの話に戻りますが」

堀「CDは、あれにモノローグではなく、デュオローグが入っていたら、アルバムの性格がぜんぜん変わったと思います」

九「あのアルバムの中では、(伊福部先生を除き)他の人が小曲だったのもあり、存在感がありました」

堀「あれは、悪い意味ではなく、暗いねとか、重いねとは、よく云われました。あのころからですね、シリアスな路線に入っていったのは」

九「私は、特にシリアスだとは思いませんでした。まあ、ふつうのギター曲というか……シリアスの観念が違うのだと思いますが」

堀「音楽がシリアスというか、発想でしょうか、抽象度が高いと云いますか。創作の態度と云いますか」

九「なるほど、私にとってシリアスとは、たとえばベートーヴェンやショスタコーヴィチの最晩年の弦楽四重奏のような、ある種、晦渋的な、瞑想的な、なんと云いますか、そういった世界がシリアスなのです」

堀「伊福部先生のタプカーラだって、あれをシリアスという人もいます」

九「それはただ単に純粋音楽だからシリアス、という意味なのではないでしょうか? 伊福部作品でいえば、ヴァイオリン協奏曲の2番とか、蒼鷺とか、ああいうのが私にとってのシリアスです」

堀「ノクチュルヌはそういう意味では、ロマンツァとかに比べると、渋いと思います」

九「それは渋いです。メロディーがあからさまでは無いというか。でも、(モノローグもそうなのですが)シリアスではないですね」

堀「しかし、とっつきにくいと云いますか、初演のとき、ウケが良かったのはバラータのほうです」

九「モノローグは、通好みなのでしょう」

堀「自分はどちらかというとピアノ系なのですが、そのわりにはピアノ曲は一曲もありませんが(笑) かえって、自分が弾かない楽器だから自由に書けた、というのはあると思います。ギターも、筝も」


堀「今回の演奏会は良かったです。新作を書く原動力になりました。ここ2年ほど、何も新しいものは書いておりませんでしたので。正直、先生が亡くなったり、こちらへ来たりとかありまして、ダウンしていました。環境も変わりましたし……その中で過去の作品を見つめ直したのは良かったです。来年(2009)はデビュー15周年なので、いろいろやりたいと思っています。新作(2009年発表予定)で、自信がつきました。その意味でも、演奏会で過去の曲を見直すチャンスがあったのが良かったです。まあでも、終わってみれば早かったですね。演奏も良かったし」

九「コンサート・アレグロは本当に好きです。ああいう曲が元々好きなのです。ツボにハマるというか。私も企画・主催は初めてだったので、勉強になりました。真貝先生も喜んでおりました」

堀「新作を書くエネルギーになったというのは有難かったです」

九「そろそろ時間ですが、どうですか、総括といいますか」

堀「そうですね、今年はモノローグがCDになって、それで新しい出会いもありましたし、演奏会もありまして、やはりチャンスというか縁が大事だな、と思いました」


以上





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