第6回 「リトミカ・オスティナータ考」

 聴き手 九鬼 蛍(以下「九」という。) 
 語り手 堀井友徳(以下「堀」という。)

 日時 2009年2月15日午後3時ころ 
 場所 北海道某所

 リトミカ・オスティナータについて


1/23-24 札幌交響楽団定期演奏会による演奏

 九「先日の札幌交響楽団の定期演奏会ですが、私は両日とも聴きましたが、堀井さんは2日目は聴かなかったのですね」

 堀「そうですね、2日目の方が良かったとか。しかし飯守さんと横山さんは既に名古屋フィルと関西フィルで演奏していますし、より板についていたという気がしました。恐る恐る振っていませんでした」

 九「後で団員の方に聴いたのですが、リハーサルのときも解釈にブレが無く、芯が通っていたと。このコンビでは、満を持して札響でやりました。札響では、私は音更で聴いて、そして今回の定期で聴きました。しかし、良い悪いは別にして、札響の伊福部は軽いですね」

 堀「そう、軽い。12年前(1997年)の音楽祭でも、軽かったです。しかし演奏自体は悪くなかった。釈迦と、舘野さんの協奏風で。あの協奏風は良かったですね。演奏会では、戦後初のステージ演奏でした。舘野さんはあれをコンサートでやりたがっていたんです。録音のときに、インタビューで。今日は録音だけれど、演奏会でやったらお祭りみたいで面白いんじゃないですか、と、おっしゃってました」

 九「舘野さんは元気だったころの十八番がハチャトゥリアンのピアノコンチェルトだったというから、そういう元気が良いのがもともとお好きだったんですね」
 
 堀「そもそも、札響ではどうしてリトミカをやることになったのでしょう?」

 九「それは分かりませんが……指揮者がやはり、やりたいと云ったのではないでしょうか?」

 堀「飯守さんは関西フィルで大澤さんも取り上げていますね」

 九「そうですね。小交響曲の入ったショスタコーヴィチの5番のCDを買いましたよ。そういうご当地作曲家というのは大事だと思います。(大栗裕もやってほしいな)」

 堀「飯守さんは伊福部に向いていますね」

 九「そうですね。もっと他の曲も振ってほしいと思いました。雄大な雰囲気が良く表現できていました」

 堀「リトミカを生で聴くのは初めてでした。客席がP席だったので打楽器が大きく聴こえましたが。伊福部先生のオーケストレーションは、それでなくとも、打楽器が過剰に入っているように聴こえますね。日本組曲の盆踊りも、凄いでしょう? しかし先生としては律動感を得るためにあえて入れている可能性があります。先生は絃が聴こえなくなったりするのをちゃんと分かって入れている。あえて力強さを優先して、膜物の打楽器を三人も使っていると思います。凄い圧力です。日本組曲もそうだし、タプカーラの最後や、ラウダもそうですね。先生は膜物の打楽器が好きだった。先生としては、あの膜物の土俗的な響きが欲しかったのでしょう」


オーケストレーション/改訂について

 九「打楽器といえば、伊福部先生は金属系の打楽器が嫌いだったとか。それはとても意外でした。云われてみれば、特撮系以外にはほとんど入っていませんね。けっこう色々な曲でシンバルやドラが鳴っている印象がありますが、いかに交響ファンタジーなどの特撮ものに特化されて認識しているかの証左です」
 
 堀「そうなんてす。クライマックスとかでも、よくサスペンダーシンバルでクレッシェンドして盛り上がったりするじゃないですか。そういうのは大嫌いだった。常套手段すぎて。特撮物は、映画の効果音としてどうしても必要だったから使ったにすぎなくて、純音楽作品では品がよくないとしてシンバルなどは入っていません」

 九「武満さんが逆に膜物の打楽器が嫌いで、金属系が大好きでした」

 堀「そうです。好みが対照的で、間逆で面白いですね。伊福部先生はティンパニが好きだったけど、武満さんはティンパニが大嫌いだった。リトミカではカウベルが入っていますが、例外です。日本狂詩曲も初期の例外です。トライアングルも嫌いだった。映画でも滅多に入っていません。リリカルなシーンでも絶対に入れない。ヴィブラフォン、シロフォンも嫌いでしたね。マリンバは、低音が好きだったようですが。打楽器のオーケストレーションはセンスが必要で難しいですね」

 九「使えば良いというわけでもないですからね。いかに効果的に使うか、という。話は戻りますが、二人の作風にも通じるかと思いますが、打楽器の用法の認識の違いだと思います。武満さんは星の煌めく様子とか、水の滴る音、木の擦れ合う風の音、石の転がる音、そういう自然音そのものを表現しました」

 堀「伊福部先生は、そういうのは大嫌いだった(笑)」

 九「伊福部先生はだから、伊福部音楽はよく大自然の音楽と云われるかもしれませんが、実は大自然の中に生きる人間の生命力の讃歌なのではないかと。太鼓というのは(自然音ではなく、人間が叩くものなので)その象徴だったと思います」

 堀「なるほど。リトミカでは、ティンパニ、トムトム、キューバンティンバレスの他には、カウベルと、クラベスです」

 九「この3と1/2というのはなんですか?」

 堀「これはインチですね」

 九「カウベルにサイズの指定があるんですか(笑)」

 堀「2つ、使うんですよ。そういえば(札響の)真貝先生は1つでやってましたね。本当は2つなんですよ。あとは普通の3管編成です。オーソドックスな3管です。(スコアの最後に)1972年て書いてありますね。でも、若杉さんの最初のレコーディングは71年ではなかったですか? 初演は1961年で、それからすぐ後に再演されたらしいです。そして71年にレコーディングされたと……たしかそのような事を云っていました」

 九「それは伊福部先生が云っていたのですか?」

 堀「そうです」
 
 ※各CDのライナー等を参考するに、61年初演、69年再演、71年に若杉盤の録音となっている。出版用に、レコーディングの翌年に改めてスコアを書いたのではないか、ということである。

 堀「それで、練習のときに、ピアニストが独自に2人で合わせたいからということで、同時に2台のピアノ版も作ったのです。しかしそれは出版を前提にしていなかったので、長くお蔵入りになっていましたが、それが、数年前に出版されたのです」

 九「しかし、スコアのこれ(最後の部分)は凄いですね。音符で埋めつくされています」

 堀「初めて見ると、戸惑うかもしれませんね。でも見慣れるとそうでもないかと。(新譜の)山田令子さんは、このアクセントにかなり忠実でした。それは凄いと思いました」

 九「最初は、だんだん速くなるのでしょう? 今回の札響のは、最初からかなり速かったですが」

 堀「そうです。そういう指定です。さいしょは、どれくらいでしょうか。ポコアポコアッチェレで、8分音符176までもってゆきますね。さいしょはアレグロです。それでアッチェレですから、かなり速いです。それから、ハープと木管の高い音と同時にクラベスが鳴ります」

 九「日本の太鼓にも出てくる、笙のような『みゃーん』という音は、どのようにやってるんですか? 絃楽合奏ですか?」

 堀「絃楽ですね。絃でヴィブラートをかけないでポルタメントをすると、『みゃーん』という笙のような音が出ます。あ、ここです。モルトグリッサンド、ノンヴィブラートと書いてあります。絶妙なオーケストレーションですよ、これは。トロンボーンとピッコロとか……使い方を間違ったらだめです。これは絶妙です」

 ※現在は絶版だが、かつて全音から出ていたフルスコアをお持ちの方は、15P練習番号23及び90P練習番号104の箇所を参照されたい。なお、トロンボーンとピッコロが同時にソロを奏でるというのは、同じく73P練習番号82の2小節前より、7/4拍子(4+3)(3+4)の箇所である。

 九「最後のゲネラルパウゼが最高に好きです」

 堀「そうそう。これは1人でもここで飛び出したら、大変なことになりますね(笑) ところで、初演の後に改訂されたというのはご存じですか?」
 
 九「いいえ」

 ※各CDのライナー等には、初演の後一部改訂、などとある。

 堀「初演は、今より10分くらいも長くて、総じて不評だったとのことです。アレグロの部分がもっとずっと続いて、曲は良いのだけど、しつこいとか疲れるとか云われたようです」

 九「本当ですか!? アレグロの部分がですか!? それはしつこい(笑)」

 堀「正確にどの部分、というのは分かりませんが……そういう話でした。全部で30分くらいあったということで、ちょっとやりすぎちゃったんですね。いずれ、公式ホームページのアーカイヴで明らかになるでしょうけど……」

 九「しかし、この最後の部分は凄いです……見ていて酔ってきますね。目がどうにかなりそうです」
 
 堀「これは書いてても酔ってきます(笑) アリの大群のようです……中国で、洞窟の様なところで、壁一面に小さな仏像がびっしりと並んでいるのを見学して、それに感銘を受けて書いたということですから、そういう風景の印象なのでしょう。アリの大群というのも、アリもたくさん集まると、象も殺してしまう、と。そういうミクロの集合体のパワーという」

 九「芥川さんのエローラ交響曲や、松村先生にも通じますね」

 堀「細かい音がいっぱい連なっている。話は戻りますが、札響も評判が良かったようですね。みんな喜んでいました」

 九「初日は思わずブラヴォーを云ってしまいました(笑)」

 堀「あ、あれは九鬼さんだったんですか(笑) 休み時間に、隣の女性のお客さんが、ゴジラのムラ祭りみたいだと(笑) でも面白かったと」

 九「あれは名演でした。CDになりませんかねえ。しかしこの曲でゴジラ?」

 堀「ドシラドシラって出てきますから。協奏風の第1主題です。だから、リトミカが完成してしまったずっと後に、協奏風が出てきて、後になって協奏風を聴いたわけですね、我々は。ですから、ちょっと複雑です」

 九「他に、この曲の特徴とか、ありますか?」

 堀「特徴というか、それこそ武満さんがこの曲を聴いたときに、ゆっくりな部分がなければいい曲だと云ったそうですが」

 九「それはまた、微妙な批評ですね」

 堀「それはつまり、伊福部先生のゆっくりな部分というのは、情緒すぎるということらしいです。ちょっと緊張感が無くなるというか。松村先生から聴いたんですけども。完成する前に芥川さんや黛さんに見せて、先生これは良い、面白いと褒められたそうなんですが、いざ初演すると、けなされはしなかったけども褒められもしなかったそうで」

 九「それは、その、長かったから?」

 堀「おそらく。ヴァイオリン協奏曲の1番も最初は3楽章だったけども、長いという批判で2楽章をカットした。先生はちょっと長くしすぎちゃうのかなあ」
 
 九「構成は良いのですが。急緩急緩急、ABA'B'Aですね。確かに、そのA'の、2回目のアレグロが終わる部分も、絃がジャンジャンジャンジャン……と無くなってゆきますが、なんか、とってつけたようで違和感があります(笑)」

 堀「ああ、そこね(笑) バランスが悪いのでしょうか。エグログは緩急〜で、先生にはちょっと珍しい。ラウダはマリンバのアドリヴが長いです。最後は鬼の三連符で……ミニマルみたいになりますね。吹奏楽版だと特に管楽器ばかりなので、(演奏する人は)面白いみたいですよ。ヴァイオリン協奏曲の2番は、オーケストレーション的には薄いですね。枯淡系の響きです。リトミカは先生が元気だったころの代表的作品ですが、いちばん洗練されています。シャープというか。先生もなんだかんだと、変遷をたどっていますね! 分からない人が聴くとみんな同じに聴こえますが、聴く人が聴くと、けっこう違います。あと、先生は改訂がたいへん多いです」


各種のレコードについて

 堀「東京では、フォンテックの協奏三題の時の、井上さんと藤井さんの演奏(1983年)以来、一度もリトミカは演奏されていません。けっこう、レアな曲です。さいきんようやく、名古屋、関西そして札響、たまに海外で演奏されるようになってきました。新響も無いし、新日星・ヤマカズさんもやってない。みんなだから、けっこう、生で聴いたことがないんですよ」

 九「アマチュアながらも栃木でやったのは、凄かったんですね」

 堀「そうです。東京の人がだから、そういう地方に聴きに行くくらい、珍しい曲なんです。リトミカは(オケで)何種類録音がありましたっけ?」

 九「若杉盤、井上盤、ヤブロンスキー盤、そして栃木の早川盤ですね」

 堀「栃木の演奏は良かったと思いますが」

 九「良かったですよ。かなり良かった。アマチュアではかなりの高レベルでした。でも、ちょっとあの、遅れるのが……そこまで頑張ってなんで遅れるかな、という。むしろズレたほうが潔い」

 堀「それはしょうがありません。絃とピアノの集団ですので、絃とピアノではアタックタイムが違いますから、どうしてもズレる」

 九「だから、それは絃が突っ込んで弾かなくてはならないのでしょう?」
 
 堀「そうです! 突っ込んで気持ち速く弾かないといけない。打楽器もそうでしょう?」
 
 九「打楽器もそうです。ティンパニとか、指揮の通りに叩いたのでは音楽を引きずってしまいます。気持ち先に入らなくては。でも、速すぎては意味がありません。とにかく、あそこまで上手にできて、なんでそんなところでつまずくのか、という……」

 堀「うーん、そこまで余裕は無かったと思いますが。そこらへんが難しいですね」

 九「若杉盤がセッション録音だから、そういうのはかなり正確ですね。それに速い!」

 堀「あれは2日かけて録っています。テンポ指定にかなり忠実ですよ。凄いです。読響ですしね。時間もお金もかかってますよ。先生はあの録音は嬉しかったと思います。これはみんないいって云いますね。さいしょLPで出たとき、松村先生の前奏曲と、カップリングがいっしょでした。ジャケットが真っ赤で、なぜか沖縄のシーサーで(笑) 当時から評判は良かった。それから再発売のときにカップリングが変わりました。小山さんと外山さんになって、民族楽派一絡げになってしまいました。あれは松村先生のほうが良かったかな(笑)」

 九「あの(小山・外山との)3曲では、短いですよね(笑)」

 堀「あれも、元はLPなんですよ。LPのLPのCD化です。あの演奏は超えられないとみんな云いますね。和田さんでしたか、あのレコードを聴いて伊福部に目覚めたとか。で、次が協奏三題です。自分はあれで初めて聴いたのかな」

 九「自分もそうです。井上盤で初めてリトミカを聴きました。しかしこれはちょっと厳しい」

 堀「厳しいですね。ピアノも滑っているし……音質も良くないです」

 九「途中で目茶苦茶になっています。この演奏を初めて聴いたので、リトミカはよく分からない曲という印象でした。併録のエグログは良いのですが」
 
 堀「井上さんのエグログは良いですね。井上さんはエグログが好きみたいです。このあとは?」
 
 九「ヤブロンスキー盤です」 

 堀「ヤブロンスキーは演奏もそうなんですが、ミックスが悪くありませんか。トランペットとか、変に大きく入っている」

 九「あれは、ですから、そういう風に指揮したのではないかと思っていましたが。タプカーラとかも、なんか変なところでトランペットが入っているでしょう? ロシア人には、そのペットが主旋律に聴こえたのではないかと思ってました」

 堀「そうなんですかねえ。でも、同コンビで、他の深井さんとか大澤さんとかは、そういうふうになってないんですよ。伊福部先生だけなんか変だ」

 九「それは……伊福部の後で、ナクソスに苦情が殺到したとか(笑)」

 堀「いや、なんか変ですよ、あれは。ピアノも、ミニマルを弾いてるみたいに、妙に軽くありませんか」

 九「外国人が聴いたら、リトミカはミニマルに聴こえるということでは?」

 堀「その可能性はあります。ヤブロンスキー盤のリトミカは、ですから、妙にあっさりしています。淡白というか」

 九「SF交響ファンタジーもそうですね」

 堀「そう、あれは酷い(笑)」

 九「音楽が死んでいます。映画も知らない、音楽も知らない人らですから」

 堀「楽譜しかありませんからね、分かりませんよね」

 九「しかし、ですよ。話は飛びますが、たとえば、プロコフィエフのキージェ中尉をやるとします。とうぜん、映画のキージェ中尉など、今では容易に観れない、誰も観た事がないわけです。でも、キージェ中尉は、それなりに音楽になりますよね」

 堀「それはですね、我々には既に、プロコフィエフに対する前情報があるからです。オケとか、指揮者とかにも。知らない曲でも、プロコフィエフの音楽を知っているのです」

 九「では、また例えば、オネゲルとかはどうですか。オネゲルは、プロコフィエフに比べたら、あまり有名ではないと思いますが、マニアックな映画音楽組曲とかありますが、そういう場合も、普通にできると思います」

 堀「それは、つまり、知らない人でも、西洋音楽の語法・流儀で通るからだと思います。つまり、それで云うと深井さんも大澤さんも、初めてなのに上手だったでしょう、ヤブロンスキーは。それは西洋音楽の流儀だという事ですね。伊福部はある国にかかると、ぜんぜん解釈が異なる。アルメニアフィル(のVn協奏曲2番)もそうだったでしょう」

 九「と、いうことは、ですよ。伊福部というのは、よくロシアっぽいとか、アルメニアのような、西部スラブというか、あっちのほうの音楽感性と似ていると云われますが、向こうの人にしたら、やっぱりぜんぜん違う、似てないのでしょうか」

 堀「似てないのだと思います。でも、チェコでは受けたらしいですね」

 九「チェコ音楽というのは、また、それらスラヴ音楽とも違って、日本人の感性に近いと聴いたことがあります。尾高さんがインタビューで云っていましたが、我が祖国とかモルダウとか、新世界よりとかを演奏すると、日本人はすぐにスッと入るのですが、それはチェコ人のようにスッと馴染んでしまうのだそうです。イギリスで新世界よりを演奏するときは、まずオケがなかなか乗ってこないみたいですよ。日本では新世界なんてアマオケでもできる簡単な曲、という印象があると思いますが、イギリスでは逆に異国流儀の難曲なのだとか。日本人とチェコ人の音楽感性というのは、とても似通っているらしいです」

 堀「新世界の2楽章の家路とか五音音階ですからね。イギリス人にはピンとこないのでしょうか」

 九「だから、ロシア人には意外と伊福部は分からないのかもしれません」

 堀「分からないのでしょうね。しかし残念でした。あれはみんな期待していましたから」

 九「私も期待していました。オケの技術自体は凄く良いのですが」

 堀「そう、奏者自体はうまい。もったいないですね。せっかく出た全世界盤であれですから、皮肉ですよね」

 九「初めて伊福部を聴いた人でも違和感を感じるようですから、よっぽどなんでしょう」


ピアノ作品集1の他の曲について

 九「最後に、では山田さんのCDの話を」

 堀「これはフタを開けてみたら、好評で、大手でも店頭発売がかかりました。演奏も良いし、内容も良いです。ピアノ関連作品を特集したというのは、これまでありませんでした。性格舞曲は、まさか聴けるとは思いませんでした。ああいう、鬢多々良のモチーフを使った曲だというのは、噂には聴いてました。3楽章形式で、後にソナタなどに使っているから、先生としては、ちょっと、という。まあ、だいたいそういう曲なのだな、というのは思っていましたが、意外にも特殊奏法が入っていたり。(公式HPの)アーカイヴを見ると、スネアドラムのイメージだったとか。譜面を見てみたいです。コルレーニョの変形みたいな奏法ですね。他にも3楽章が実験的ですね。協奏風みたいに、復調とかを使っている。1楽章は完全に鬢多々良のモチーフです。あのモチーフは良いですね。でも、そのために先生は、これは演奏できないと云っていた。何回も先生にこれ(性格舞曲)の演奏の打診はしたのですけど、ダメだって云いましたね。初演は、奏者にあまり好まれなかったようですが。アムステルダム・デュオという、ふだんモーツァルトとかばかりやっている団体だったとか」

 九「それは、ちょっと伊福部作品は厳しいでしょうか。そもそもどういう経緯で?」
 
 堀「それが詳しいことは分からないのですが、三浦淳史さん経由だったとか。立場的にも、協奏風交響曲にやはりスタンスが似ています」 

 ※公式ホームページのアーカイヴに、「作曲者にアムステルダム・デュオを紹介し、仲介したのは、残された書簡などから、故 三浦淳史であったと考えられる。」とある。

 九「しかし、ちょっと、試作という域を出ない気もします。演奏会のプログラムに乗せるには、やや物足りないかな、と思います」

 堀「それはありますね。1回、生で聴いてみたいです。でもソナタといっしょにやるのは難しいかな。メインディッシュにはなりませんね。ファンは聴いてみたいでしょうけど」

 九「火の歓喜はどうですか。譜面の存在は知っていましたか?」
 
 堀「いいえ、譜面は見たことがありませんでした。しかしあれはやはりオケで聴かないと。練習用というか、地方公演用だとか」

 九「あれをオーケストレーションすると、どういう感じになりますでしょうか」
 
 堀「やっぱりトゥッティだと思いますよ」
 
 九「後半の踊りの部分はトランペットが主旋律でもいいかなと思いました。群舞シーンらしい良い曲でした。やはり全曲がほしいですね。ピアノ版でもいいから。ピアノ組曲はどうですか?」

 堀「良い演奏です。参考演奏としては最適です。楽譜に忠実で。クラシックって云うのはまず楽譜に忠実でないと始まりませんから。いくら演奏家の人が個性を出すといっても、楽譜がまず最初です。それに解釈もあります。モーツァルトのアレグロとバルトークのアレグロでは同じアレグロでも全く解釈や奏法が異なります。盆踊りだってそのように(全く違った解釈で)弾く人がいる。リトミカのアレグロだってモーツァルトみたいに弾いてはいけないし。ぜんぜん違います。山田さんの盆踊りは、解釈としてもとても良かったですよ」

 九「そもそもアレグロというのはどのくらいの速さですか?」

 堀「いや、アレグロやアンダンテはテンポ指定というよりも正確には発想記号といって、アレグロには元気な(快活に)とかいう意味があるし、アンダンテだって人の歩く速さで、となってますが人の歩く速さなんてみんな違いますし(笑) 山田さんの盆踊りは速さもぴったりでした。速すぎる盆踊りはちょっといけません」

 九「私はテンポはともかくちょっと堅いというか理詰めの印象がありました」

 堀「堅いというのは、リトミカもそうだったのですが、山田さんはおそらくあまりペダルを使っていないからなのではないでしょうか? 盆踊りもペダルを使ってないように聴こえます。ドライなタッチですね」

 九「だから、全体的にカクカクして聴こえたのでしょうか。そういう意味なんてすね。ずいぶん堅苦しい演奏だな、と思っていました」

 堀「リトミカのアクセントもかなり忠実です。強調する部分は私だったらペダルを踏みますが、山田さんは踏んでなかったのではないかなあ。でも全体的にピアノはとても良いですよ」
 
 九「繰り返しますが、オケがね(笑) でもアマオケですから、これは上々でしょうか」

 堀「アマオケにしては上々だと思いますよ」
 
 九「でも逆に、アマオケですから、たぶん半年くらいはコツコツ練習していたと思います。コツコツやればうまいアマオケだったら(むしろモーツァルトやベートーヴェンを音楽的に演奏するより)できると思います。プロオケは逆に2日か3日ですから、そりゃ崩壊もします。いま大学生のオケでもハルサイとか普通にやっちゃいますから(笑)」

 堀「そうですね、アマオケや音大生のレベルが凄い上がっているのは確かです。しかしとにかく、スリリングな曲ですわ」
 
 九「いや、ドキドキする曲です。聴いていてハラハラして、たいへん疲れます。先月の札響はこのあとにサン=サーンスのオルガンでしょう、中間部で爆睡ですよ(笑)」

 堀「先月は良かった。あれが成功か失敗かで、今日の我々のテンションもかなり違っていたでしょうね(笑)」

 九「そうですね。成功して良かったです。2日目は、音も濃くどっしりしていて、さらに良かったですよ。これぞ伊福部だと思いました」

 堀「時期が悪かったですね。東京の人ももっとたくさん来られたら良かったのですが、飛行機がね。変に吹雪いたら我々だって(笑) 去年、ほら九鬼さんが」

 九「そうそう、私はふだん1時間半のところ電車が止まって21時間かかりましたから(笑)」

 堀「ちょっと時期がねえ」

 九「来年度の札響の邦人曲は三善さんの交響三章だそうですよ」

 堀「あれも難しい曲です。リトミカとは難しさの質が違いますが。でもさいきんはそれもアマオケや吹奏楽で演奏されています。三善さんの交響三章とか矢代さんの交響曲とかは西洋音楽の流儀でできます。ショスタコができればできると思いますよ。リトミカはそうはいかない。他に類似例が無いから(笑) ミニマルともちょっと違います。ミニマルとリトミカを結びつけようとする人がいますが、ミニマルの隆盛より先ですし。ミニマルが盛り上がってきたのは80年代あたりからですよ。ミニマルの先駆です。それなのに、リトミカはミニマルの影響を受けているとか、変なことを書いている評論もあるくらいです」

 九「逆ですね(笑)」

 堀「この前の題名の無い音楽会で片山さんも云ってましたが、黛さんの饗宴が大胆にオーケストラへジャズを使っていて、バーンスタインがそれに影響されたのに、饗宴を聴いた人が、これはウェストサイドに影響されているとか云っている。作曲年代が逆ですから。日本ってそういう認識なんですよ」

 九「なんでも西洋を有り難がりますから」

 堀「そろそろ時間ですね。次回は何をしましょうか? タプカーラはいかがですか?」
 
 九「タプカーラいいですね」


オマケ

 これまでの考察等で判明した、伊福部昭の嫌いな楽器(例外的用法はある)

楽 器 理 由
金属系打楽器 品がよくない
鍵盤打楽器 マリンバの低音だけ良い
クラリネット いかにも西洋風の音がする
三味線、尺八 若いときのお座敷遊びを思い出すので純音楽にはちょっと
チェロ 音が甘くなる

以上





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