第7回 「タプカーラ交響曲について」

 聴き手 九鬼 蛍(以下「九」という。) 
 語り手 堀井友徳(以下「堀」という。)

 日時 2009年7月18日午後3時ころ 
 場所 北海道某所

 タプカーラ交響曲について


 堀「また半年ぶりくらいですが、さっそくタプカーラのお話をしましょう。いつも天気が悪いですが……」

 九「悪いですね。今日も雨です。それでは、タプカーラ交響曲の構成としては、いかがですか?」

 堀「1954年の最初のバージョンでは、1楽章がアレグロから始まります。第1主題がいきなり、登場する。1小節だけ、序奏がつきます。タタター、という。伊福部先生は、ワンバウンドつけて主題が始まるパターンがよくあります。ラソラー・ソファミレ……」

 九「その第1主題は秀逸だと思います。すごい好きです。1楽章はソナタ形式ですか」

 堀「先生としては、交響曲と名のるからには1楽章はソナタ形式でなくてはダメだという概念をお持ちだったのです。2楽章は3部形式。3楽章はロンドっぽいですね。3楽章は改訂版と原典版とそんなに違いはありません。1楽章がいちばんちがいます。序奏がつきました。第1主題を二倍に延ばしたテンポの、レーラーソファミレという、ゆっくりなメロディーです。そして、ドンと第1主題が出ます。それが決定的な違いです。ソナタ形式といっても、純然たるものではなく、西洋音楽のソナタ形式を変形したような感じですね。第2主題に相当するのはおそらくミュートトランペットから始まる部分でしょう。ギロが出てくるところ。それからアンダンテの中間部が展開部と思います。アレグロに戻って再現部です。その辺も、改訂版と原典版はあまり変わっていないと思います」

 九「しかし、細かい部分はけっこう変えてあるのでしょうね」

 堀「細かい部分はかなり変えてあるでしょう。大まかな流れは変わってないと思います。とにかく、それをアメリカで初演したときに、演奏のテープを聴いて、譜面だけ送って練習にも立ち会わないとこんな風になっちゃうのかと、先生はけっこうショックだったみたいです」
 
 九「それが現代でもナクソスで証明されました(笑)」

 堀「そうなんですよねえ(笑) その後、東京交響楽団で本邦初演されました。林光さんが酷評したようですが(笑) しかし原典版はやはり粗削りな印象があります。当時は、先生も一所懸命書いたのですけども。お弟子さんに、先生、いまどきこんな曲を書いていて良いのですか、と云われていたということで、先生も書きつつも内心は少しぐらついていたのかなあ、という感じは受けます。迷いという意味でね」

 九「改訂したのは、けっこう後ですね。芥川さんの新響ですか」

 堀「1979年ですから、20年以上も経っています。よく改訂しました。あれは時間が経ったから改訂できたと思います。先生が還暦をすぎたころです。元は先生がちょうど40歳のときの曲です。ゴジラと同じです。ちょうど芸大をやめたときの。人生の節目の時ですね。いつかは改訂したいと思っていたのでしょうけど」

 九「あれは、芥川さんのほうから改訂の申し出をしたのでしょうか、それとも先生の方からでしょうか」

 堀「分かりません。新響の作品展をするにあたって、お二人で相談しているうちに、どちらからともなくタプカーラの話になって、やるのなら……ちょうどよい機会だからと、なったのだと思います。先生が自主的にしたのか、芥川さんが改訂を薦めたのか、それはちょっと分かりません。でも、改訂して良かったと思います。先生の初期のころはだいたいアレグロでいきなり主題が立ち上がるじゃないですか。あれは先生はやっぱり若気の至りだったと云っていましたよ(笑) 還暦をすぎてからは、だいたいレントの序奏がついたりしています」

 九「タプカーラは代表作になりましたね。3楽章制というのはフランスを意識しているのでしょうか?」
 
 堀「どうでしょう、ふつうは4楽章ですからね。あと、土俗的三連画と異なるのは、同じ北海道を題材した曲になっていますが、土俗がいま住んでいるその景色を写し取ったものなのですが、タプカーラは東京で書きましたから、これはノスタルジーとして書いたのだそうです。それが特徴です」

 九「なるほど、ノスタルジーですか。2楽章なんかはまさにそれですね」

 堀「そうですね。今だから云えますが、2楽章は聴き初めのときはちょっと難しかった。情緒的すぎるというか。間延びするというか。長ーいメロディーにハープが単音でタン、タン、タン……と。あれは西洋音楽に慣れた耳には辛いと思います」

 九「土俗もそうですが、伊福部音楽の緩徐楽章は、なんか、明確な終結部もなく、フッ…と終わりますね」

 堀「あれは次の楽章へのアタッカのつもりなのだと思います。土俗はティンパニが弱音でボンボン、と終わります。洒落てますね。タプカーラはコーラングレとあれもティンパニです。ピアニッシモだからCDでは聴こえづらいかもしれませんが」

 九「実演ではティンパニが見えますので、分かります」

 堀「伊福部音楽を聴き初めのころは、知り合いの伊福部ファンもみんな2楽章が苦手だったと云いますね」

 九「分かります。耳に入らなくなっているというか、聴こえなくなるというか。気づいたら3楽章になっている(笑)」

 堀「3楽章はテンポが速くなりがちです。気持ちは分かりますが(笑) いちばん正確だったのは石井真木さんだった。あの人の指揮は好きですね。伊福部作品のテンポはいちばん的確です。釈迦もいいです。あれはお父さんの関係だから尚更です。SF交響ファンタジーも良かった。伊福部先生は石井漠さんを大尊敬していました。石井真木さんは、ご自身の作品はけっこう現代調ですが、伊福部作品の理解は凄かったです」

 九「それが、面白い現象ですよね」


 堀「タプカーラは、CDでの録音はどれくらいありますか」

 九「私はプライベート盤をのぞいては、だいたいあると思います。私の所有リストをどうぞ」

 手塚幸紀/東京交響楽団    1984年ライヴ
 芥川也寸志/新交響楽団    1987年ライヴ
 金洪才/大阪シンフォニカー  1987年ライヴ
 石井眞木/新星日本交響楽団  1991年喜寿ライヴ
 井上道義/新日本フィルハーモニー管弦楽団 1991年ライヴ
 原田幸一郎/新交響楽団  1994年傘寿ライヴ
 広上淳一/日本フィルハーモニー交響楽団 1995年セッション録音
 石井真木/新交響楽団  2002年米寿ライヴ 
 本名徹次/日本フィルハーモニー交響楽団  2004年卒寿ライヴ(アンコール演奏3楽章のみ)
 ヤブロンスキー/ロシアフィルハーモニー管弦楽団 2004年セッション録音
 野中図洋和/陸上自衛隊中央音楽隊  2005年セッション録音(吹奏楽版)
 本名徹次/日本フィルハーモニー交響楽団 2007年第1回伊福部昭音楽祭ライヴ

 堀「こんなものでしたっけ。もっとあると思っていました」

 九「交響譚詩やSF交響ファンタジーはもっとあるのですが、意外と無いですね」

 堀「そうなんですね。尾高忠明さんのものが、セッションでは初録音なんですよ。これは持っていますか?」
 
 九「いえ……そんなのがあるんですか」

 堀「1980年くらい、東京交響楽団です。セッション録音で。放送用で録音したようです」

 九「尾高さんとは珍しい。それは聴いてみたいです。芥川さんによる改訂版初演の模様はLPだけですね。あと話によるとマンドリン版があるようです」

 堀「マンドリン版はありますね。このなかで、九鬼さんのベストはどれですか」

 九「私は意外と広上さんの日フィルが好きなんですよ」

 堀「これはセッションで丁寧にやってますからね。このころの広上/日フィルは私は堅いと感じます。緊張してるというか」

 九「広上さんは交響譚詩が伊福部作品の中でいちばん好きなのだそうです」

 堀「私はこの録音は全部立ち会いました。これは確かに、時間をかけて丁寧に録ってますから、良いと思います。しかしライヴと違ってノリが少ないでしょうか」

 九「新響が多いですね。多いですが、やはりアマオケですので、芥山さんや石井さんの演奏も好きなんですが、技術的にアンサンブルやフレージングに限界を感じます。原田さんのはちょっと印象に残りません」

 堀「それは仕方がありません。割り切って聴かないと。でもあの熱さは買います。自信が伝わってくる」

 九「石井さんの新星日本は良いですね」

 堀「石井さんは(新響と)両方良いです。テンポ感が抜群です。井上ミッチーさんも良いです」

 九「ミッチーさんは速いですね(笑) それにやたらとドライです。日本組曲の初演もドライです。都会的な、旋律に粘っこさが無いというか。打楽器もストレート。ショスタコーヴィチとか得意だから、そういう芸風なんでしょうけど」

 堀「洗練されていますね。洗練されすぎているとも云えます。伊福部作品は土俗的な作風ですので、やはり土がついていないと。スマート過ぎる感じです。でも、協奏三題(のCD)を振ってますから、リトミカとか非叙情的なものは得意なのだと思いますけど。本人はエグログが好きだということですが」

 九「ヤブロンスキーは良いとして……(笑) この吹奏楽版というのはどうなんですか?」

 堀「松木さんのものですね。これは良かったです。伊福部先生のお墨付きです」

 九「私は意外と……演奏は良いのですが、私は吹奏楽はオリジナル作品派なので、ちょっと絃楽の写し部分とかがチープかな、と……」

 堀「それは仕方がありません。編曲ものの宿命ですね。松木さんは交響譚詩も良いです……アレンジがうまいですよ。経緯としては、ちょっとイマイチな編曲が出回っていて……それで正式にちゃんとしたものを作ろうということになった。これがですから、出版譜で決定版です。絃を管に移すときの難しさはどのオーケストラ編曲ものにもありますね。だからほら、日本狂詩曲は誰も吹奏楽にしないでしょう。あれは、リクエストはあるのですが、冒頭からヴィオラのソロをどの楽器に移すのかでみんな悩む」

 九「なるほど……云われてみれば、例えば何に吹かせれば良いでしょうか」

 堀「ヴィオラはアルトの楽器なので、同じアルトのもの……アルトクラリネットとか、アルトサックスになると思いますが、雰囲気としてどうでしょうか。アルトの楽器で高い音を出す効果を狙っていますので。それが難しい。とにかく、アルト系の何かの楽器になるでしょうが、永遠の課題でしょうね。タプカーラに戻りまして、最新のやつは、本名さんのものですね」

 九「これはちょっと……いただけませんねえ(笑)」

 堀「卒寿のときはまだ良かったですけども、これはねえ、知ってる人は、みんないただけないって云いますね。おしまいがどの曲も速かったですし。しかし、本当に、意外と少ないですね。これなら私も殆ど持っています。私は、石井さんの新星日響が一番最初に聴いたものです。これがファーストインプレッションです」

 九「私もそうです。最初は、ちょっと3楽章とか鳴りすぎてうるさいイメージがありましたが。……いや、芥川さんのやつだったかな。忘れましたが、でもどっちかです。殆ど同時に聴いたと思います」

 堀「私も、2回目は芥川さんのこれです。その次が、大阪シンフォニカーかな……それにミッチーさんですね。原田さんというのは傘寿ですね。この時は、まとまって伊福部作品をしたのではなくて、4回の定期演奏会にそれぞれ必ず伊福部ものを入れるという企画でした」

 九「ラウダをドイツでやりませんでした?」

 堀「そうです。あれも石井さんだった。あれも良かったです。これは良い企画でしたね」

 九「石井さんといえば、2002年の石井さんのものは、もうお亡くなりになる寸前で、何とも云えなくて私は聴けないですね。何となくもの悲しいというか」

 堀「そうなんですよ。2003年だからこの翌年に亡くなって。私はこの新響のはけっこう好きなんです」

 九「CDでは90年代が少ないでしょうか。2000年代になってけっこう出てますね。でも本名さんで最後というのがちょっと……なんとかなりませんかねえ。伊福部作品集ではなくて、ミッチーさんだったらショスタコーヴィチでもいいから、何かのカップリングとかで出ませんかね」

 堀「そうですね。何かと組み合わせて、他のクラシックの作品とかで良いので、無理に伊福部作品集ではなくて良いので、出ると良いと思います。ラウダはけっこうそのようにやっています。ラウダは安倍(圭子)さんが一所懸命やってましたから。あと吉岡(孝悦)さんのラウダも聴いたことありますよ」

 九「どこのオケですか?」

 堀「東京交響楽団です」

 九「東響って、けっこう伊福部をやってますね。原典版の本邦初演もそうですし」

 堀「そうですね。このCDの演奏会のときもだから、タプカーラと交響譚詩の他に、日本の太鼓とオホーツクの海もやっています。レコードにはなったのに、太鼓とオホーツクは(CDに)なっていないんです」

 九「なぜですかねえ、勿体ないですね。オホーツクは最新録音で聴きたいです。オホーツクこそ、ストラヴィンスキーの詩篇交響曲と同編成ですから、詩篇と一緒にやればいいのに」

 堀「存在を知らないのだと思いますよ。詩篇だってそんなにやらないでしょう(笑)」


 堀「ところで話は前後しますが、ナクソスのヤブロンスキーの演奏で、2楽章の最後のティンパニが落ちているのはご存じですか?」

 九「いいえ(笑) そうなんですか?」

 堀「落ちていると思います。確かめてみてください」

 九「あまり聴きたくない演奏ですけど(笑) でもオケはうまいんですよ。特に金管が」

 堀「そうです。金管は流石ですね。日本はやっぱり金管が弱いんですね。身体が日本人は小さいからだと思いますが。テクニックはあるのですが、根本的な音の響きが足りない」

 九「向こうはやっぱり、低音のトロンボーンやテューバがうまいですねえ。タプカーラは特に、トロンボーンとかが重要でしょう。これは大きいと思います。日本人の指揮か監修で、向こうのオケで演奏できると理想ですが。この録音の中では、新星日響がいちばんパワーがある印象です」

 堀「タプカーラもそうですが、伊福部先生の曲はちょっとプログラムに乗りづらい長さなのかもしれませんね。中途半端に長いかもしれません。いまちょっと、伊福部作品の演奏が減ってきまして、危機感があります」

 九「若い人が若い感性で伊福部をやってくれると良いですけども」

 堀「それ以前に、若い人に伊福部昭自体が忘れ去られそうで、心配です」

 九「それは邦人作曲家自体がそういう傾向にあると思います。武満さんだって、最近めっきりやらなくなっていると思いますよ。吉松さんが皮肉で、作曲家は死んでから認められるとか書いてますが、逆で、今の日本の作曲家は生きているうちが花という(笑) 学生もチケットやCDを買ってくれるし。不景気でCDが出ないのも痛いでしょうか」

 堀「CDも出ないし、楽譜も出ない。出たとしても売れない。最近の若い人はあんまりCDを買わないそうですね。我々が学生のときは、邦人作品のCDを買いまくってましたけど(笑)」

 九「私もです、あれはきつかった(笑)」

 堀「お客さんも入ったんですよ。湯浅さんや一柳さんがイベントをしたら、何千人も来たとか。現代音楽に力がありましたね。伊福部作品に戻りますと、若い人に興味を持たれていないのが心配です。20代のファンなんていないでしょう。……皆無ではないでしょうが。演奏会とかでも見たことない。少数派です。伊福部も好き、という程度で、超がつくほどのマニアはいないと思いますよ。我々の世代が最後の熱心なファン層かもしれない」

 九「でも、いまの子どもらはゴジラを知らない世代と云いますが、我々だって、ゴジラを知らない世代でしょう。10年間ゴジラをやってなかったし、伊福部先生が復活したのは大学生ですよ」
  
 堀「でも、先生がまだ生きておられたから……。真性ゴジラ世代も年をとってきました。もう盛り上がらないのかなあ」

 九「しかしタプカーラは録音が少ないです。良い曲なんですけどね。交響譚詩のほうが時間的にもやりやすいと思います」

 堀「早坂さんのユーカラといっしょにやりませんかねえ。私はユーカラを2回くらい生で聴いたことありますよ」

 九「凄いですね。でもユーカラは長いでしょう(笑)」

 堀「邦人作品は著作権や譜面の使用料も高いですから……景気が悪いとなかなか演奏されません。スポンサーも元気がないし……タプカーラを生で聴きたいですねえ。次はいつ演奏会であるのかな、という想いです。ちがう友人も云ってましたが、やっぱり亡くなったら忘れられちゃうのかなあ」

 九「それは、武満さんですらそうなのですから……武満と伊福部って良くも悪くも日本音楽の両極端なので、もっと対でプッシュされても良いと思いますけどね」

 堀「プッシュする人がいないでしょう。そういえば、タプカーラではちょっと叙情的になりすぎたので、リトミカではそういうのを排したということだそうですよ。2楽章がやはり、センチメンタルでしょうか。だから伊福部が苦手という人は、そのセンチメンタルな節回しが苦手なのでしょう」

 九「やはり、リトミカなどがいくら非叙情的だとしても、本質はかなりウェットですか」

 堀「ウェットですね。晩年はさらにそうだった。お涙ちょうだいではありませんが……リリカルですね。そしてウェットです。哀感が漂っているというか」

 九「音楽が生々しいのでしょうね。リトミカは(ウェットではなくとも)バーバリーなメカニズムがありますから、それで、やかましいとか云われるのですから、(どっちにしろ)ちょっと難しい」

 堀「三善晃さんなんかは、そうとうやかましいと思いますが、そうは云われませんけども、その辺はどう思いますか」

 九「あれは、恐らくですが、印象や音調の話ですが、三善は一瞬に音響が炸裂して、花火みたいに瞬間に大音響が消えては現れするでしょう、しかし伊福部は道路工事みたいにうるさいのが、巨大なエネルギーが持続するので(笑)」

 堀「なるほど、そうか(笑) で、叙情的な面といえば、やっぱりノスタルジーなんですね。石井真木さんがおっしゃってましたけど、そういうむかし懐かしい感じがする曲です」

 九「懐かしい感じというのは、私は、日本狂詩曲や土俗とちがって、生の体験ではなく映像を見ているような、やはり遠くから遠い景色を想っているというイメージがあります」

 堀「ランドスケイプですね。ちょっと距離があります。やっぱり東京で書いていますから」

 九「方向性としては釧路湿原に近いと思います」

 堀「あれはもっと距離がありますね。記憶の彼方というか……」
 
 九「タプカーラでは2楽章が特にそういう響きがします」

 堀「2楽章はシンプルゆえにそうとう苦労したようですよ。さいしょも笛とハープしか無いでしょう。中間部も楽器が少ない。あれはムックリみたいなイメージがあったようです。ひたすら同じことを繰り返すでしょう。あれは強いて云えば、ムックリなのだそうです。さいしょはハーモニーも無いですし、ハープとフルートが、ぶつかったらいけない音があるとのことで、当時、オープンリールのテープデッキを買ったばかりで、自分でピアノで弾いて録音して、ひとつひとつハープで重なったらいけない音をチェックしながら書いていったそうですよ」

 九「そうなんですか、なかなか科学的な手法で作曲をしていますね」

 堀「(笑) いまだったらシーケンサーとか立ち上げて簡単にできますけど、当時はね。さいしょはハープがラソファミレド、ラソファミレドと進行しますが、メロディーが少し変わるので、ラソファミミドになっていたり、けっこう違います。そこが苦労したと。そこ以外にも、けっこう苦労している曲ですよ」

 九「まともにふつうの曲を作曲する方が、現代モノを造るより手間隙がかかりますよね」

 堀「かかりますよ」

 九「さて、タプカーラは録音も思ったより少なく、演奏もここ数年は我慢、試練のときということですね。最後になりますが、原典版の再演というのは望ましいですか?」

 堀「それはしない方が良いと思いますけどね。協奏風(交響曲)みたいにバラバラになったわけでも無いし、しない方が良いというか、しなくても良いと思います」

 九「次は何をしましょうか?」

 堀「次は、ちょっと趣向を変えて、キングの一連の伊福部昭作品集をしましょうか。曲ではなく、CDの批評ということで。ライヴ盤をのぞいて。私はセッション録音はぜんぶ立ち会っていますので、興味深いお話をすることができます」

 九「それは面白そうです、では、次はぜひそうしましょう」

 以上







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