「オブジェシリーズ」についての回顧録
私が「トロッタの会」にて書き続けてきた器楽曲「オブジェ」シリーズが全部で5作を数えました。
その経緯ですが、それまでは委嘱作品を通じてほとんどが「調性がある」「メロディ主体」「情緒的」な作品を多く書いてきて、そういう傾向の創作に辟易感を強く覚えていたところでした。
そんな時期を経て「トロッタの会」へ参画して、自分自身を真にさらけ出した(やりたかった)作品を書けるチャンスを得て、ここぞというばかり企画したのが「オブジェ」です。ここでは「抽象的な音楽物体」というような意味で名付けています。
このシリーズの最大の特徴はこれまで調性ものばかりだったのが、ここでは無調で抽象的にシリアスな発想で描かれています。なので初期の自分の作品を知っていた方からはかなり変わってしまった印象を持たれたでしょう。
一番最初は「三人のフルート奏者のためのオブジェ」(2013)で、この時はまだシリーズ化は決めていませんでしたので番号を振っておりません。フルートのアンサンブルも書きたかったのでこの編成にしましたが、初演後は意外にも好評を多くいただき再演もありました(それも見ず知らずの方々から)その後、気を良くしてシリーズにしてみようと思い立ちました。
★トロッタの会:3人のフルートのためのオブジェ
★フルートアンサンブルResonance:3人のフルートのためのオブジェ
次に書いたのが「木管三重奏のためのオブジェII」(2017)で、これは当初オーボエとファゴット二重奏で書き進めていたスケッチにクラリネットを加えて木管三重奏としました。オスティナートを主体とした全曲中最もシリアスさが希薄なイメージです。
★トロッタの会:木管三重奏のためのオブジェ II
同じ年に続けて「ピアノ三重奏のためのオブジェIII」を書き、これは学生時代に師である伊福部昭先生との会話で「ピアノ三重奏曲には近現代にはこれといった傑作が少ないから書いてみる価値はある」と言われたことを思い出して、これぞチャンスとばかりに書き進めたものです。全作中、最も熱くダイナミックな曲調になったと思います。
★トロッタの会:ピアノ三重奏のためのオブジェ III
「ギターのためのオブジェIV」(2018)は久々のギター曲でしたが、これも以前は調性曲だったのが無調でのギター曲ということで、音の動きや和音の掴み方など苦労しながら書きました。
★ギターのためのオブジェIV
「ピアノのためのオブジェV」(2020)は意外にも演奏会用作品としては初めてのピアノソロ曲になります。「トロッタ」で初演予定でしたがコロナ禍のため中止になってしまいました。まだ舞台初演されていませんが、これまでを総括したようなイメージになっています(曲後半で第一番のオブジェの一部が引用されています)
★ピアノのためのオブジェV
同じシリーズを5作も続けて書いたのはこの「オブジェ」シリーズだけで、それだけに自分自身の内面を表現したキャラクターがにじみ出ていたものとして大変愛着もあり、通して聴いていただきたいものです。(堀井友徳 記)
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