「北海道讃歌」を探せ!
2006/2/13
伊福部先生が亡くなった翌々日、いつも朝、出勤前に聴いているHBCラジオで、HBCラジオの放送開始の音楽が伊福部昭作曲ということで、紹介されていた。http://www.dict-keyword.com/14/5939.html(リンク切れ) によると、以下の通りである。
「かつては開局当初からジャンクション音源として、アイヌ民族の伝承音楽をイメージした『ウポポ』(作曲:伊福部昭)という曲を1日の放送の基点となる早朝5時と日曜日深夜(月曜未明)の放送終了時に演奏していた。また、ジャンクション時には各放送局ごとにコールサインを放送していた(周波数はコメントしていなかった)。」
なんと、平成14年2月まで50年間もそのジャンクション音楽は流されらしい。
ウポポは、ハープの伴奏に乗ってオーボエ、フルートなどの木管が吹奏楽曲「吉志舞」の第1主題(他にもたくさん引用があると思われるがすぐには出てこない。)を吹いている36秒の音楽だった。アイヌの古謡からとられたと解説があった。番組で2回流され、伊福部先生を偲んでいた。
こちらで録音を聴けます。http://www.youtube.com/watch?v=d49IgQFx4CM
歯を磨きながら、私もしみじみとラジオに聴きいっていたが、ふと、HBCといえば、と、思い出したことがあった。
それは約2年前の2003年12月に、私はHBCに対し、以下のようなメール照会を行った。
はじめまして、道内在住の音楽ファンです。TVも大好きでHBC系列の番組も多々観ております。
さて、私は北海道出身の作曲家・伊福部昭のファンでCDもたくさん集めているのですが、1961年に伊福部昭が作曲した「北海道讃歌」という作品がHBC交響楽団で初演されております。不勉強ながらどのような経緯の音楽なのかは存じませんが、北海道の宝物として、後世まで記憶されるべき音楽なのに間違いはございません。
いま、伊福部昭の音楽は1944年のフィリピン国民に贈る祝典序曲が復活録音されているなど、その人気は高まるばかりです。
純粋に音楽ファンとして北海道讃歌を聴いてみたいこともさることながら、北海道人としてこの素晴らしい(であろう。)音楽を埋もれたままにしておくのは非常に忍びません。
おそらく楽譜は一式HBCに保存されているのではないかと推察いたします。もし楽譜がみつかれば、キングレコードで進めている「伊福部昭の芸術」シリーズでの録音も可能になります。札幌交響楽団での復活演奏に関する番組も企画できるでしょう。
どうかこの音楽に関することをお調べいただきたく、メールいたします。
データ
1961年作曲
北海道讃歌(管弦楽/混声合唱/2管編成)
1961.4.2伊福部昭指揮HBC交響楽団/森みつ 詩
何卒よろしくお願い申し上げます。
これに対し、特に有効な情報を得られぬまま時は流れ、ついに伊福部先生がこの世を去ってしまった。私はラジオでウポポを聴いてもう一度問い合わせをしてみようと思い立ち、ラジオを聴いた2006/2/10深夜に、同じ内容の照会をHBCへ行った。すると、HBC広報部の方の調査で、以下の通りの情報を得ることができた。
1.HBCには残念ながら北海道讃歌の楽譜等の資料は残っていない。
2.2001年に、新冠(にいかっぷ)町教育委員会で「新北海道讃歌」と題して現代風に編曲され演奏された。
3.ピアノ譜が北海道庁の文化振興課に残っている。また北海道文化賞の授与式では、今でも演奏されている。
特に2は私も驚いた情報であり、伊福部昭の年表で、見た事が無いものだった。当時、伊福部先生の許可を得て、東京在住の作曲家・山下美香氏が編曲したというが、単純に編成を変えた編曲なのか、まったくの新曲なのかどうか、現代風とやらがどんなものなのか、HBCさんの調査結果を待ちたいと思う。(作詞の森みつさんが新冠町の出身という関係での催しだったそうです。)
3に関してはまさに灯台もと暗しというか………。ぜんぜん知らなかった。
ピアノ譜には、当時の北海道知事町村金五の挨拶文が以下の通りあるという。
「私はかねてから、老いも若きもいっしょになって歌える歌、道民の郷土愛を燃え上がらせるような、勇壮にして荘重な歌がほしいものと考えておりましたところ、北海道賛歌制定委員会と、北海道新聞社、北海道放送が共催で、全国から募集し、応募2,384編という多数の中から、北海道の森みつさんの作品が最優秀作と決定、北海道出身の伊福部昭氏の作曲により完成されました。本年五月植樹祭において天皇、皇后両陛下が来道され、その御前で高らかに合唱してお聞かせ申し上げることになっておりますが、この機会に、この賛歌が道民の歌として末長く愛唱されるよう祈ってやみません。」
そして、楽譜は全音から発行、著作権者は伊福部昭とあるという。
全音から発行!? 出版されていたのか………!?
また、音源としては、北海道讃歌は、ビクターのドーナツ盤で録音があるのみで、それの初CD化の企画も企画者病気で頓挫している状況のようです。
信濃の歌とやらは長野県民の愛唱歌として定着しているというのに、北海道の宝であるはずの北海道讃歌が、幻の音楽となっていることが口惜しくてならない。なんとか、蘇らせることができ、札幌交響楽団による追悼盤CD作成や、追悼演奏会にでも結実できたら、それに勝るご供養は無いと、道民として思っている。
2006/2/13 伊福部先生お通夜の夜、遠く北海道にて。
2006/3/15
HBCさんの調査の続報です!
1.昭和36年4月1日、市民会館での初演の映像はHBCのライブラリーに残っていたが、残念ながら無音だった。
2.昭和43年9月1日、北海道百年祭前夜祭で札幌交響楽団が演奏したが、札響には楽譜は無い。
3.昭和43年9月2日、円山球場で挙行された「北海道百年祭」で合唱で披露された。
4.「伊福部音楽資料室」のある音更図書館に聞いたところ、伊福部先生はフルオーケストラ譜を書かれているはずなので、ご遺族に問い合わせてくれることとなった。
5.レ・コード館から2001年に作曲された「新北海道賛歌」は、歌詞は同じものの旋律はまったく別物だった。
以上です。
もうおそらくこれでは、北海道にオケ譜は無いということが確実です。やはり、伊福部先生のご自宅の資料の山のなかに埋もれているのでしょうか。おそらく、ご遺族やお弟子さんたち等の関係者様がたが遺稿の整理を行っているはずなので、出てきたら幸いですね!
天国の伊福部先生。どうか、お導きください。
2006/4/20
こちらのコンサート情報より。http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2147/ (リンク切れ)
2004/6/16札幌市民会館にて陸上自衛隊北部方面音楽隊定期演奏会
「伊福部昭特集」として、「北海道讃歌」(合唱入り)が「シンフォニア・タプカーラ第3楽章」(吹奏楽:松木敏晃編)、 「アイヌ叙事詩に依る対話体牧歌」、「SF交響ファンタジー第1番」(吹奏楽:福田滋編)と共に演奏された。
えっ、北海道賛歌って吹奏楽曲だったのか!?(笑)
冗談です。松木敏晃さんが編曲したということですね。
しかし、おととしじゃねえか(笑)
こんなのやってたかなあ。新聞広告で見たような、見てないような……。
2006/10/23
キタラ小ホールで行われた、「伊福部昭の世界」 コンサートの懇親会において、伊福部先生の甥にあたる勇崎家の方が(お名前を失念!)挨拶で正式に
「これからは伊福部昭の映画音楽やコンサート作品だけではなく、人々の生活に根ざした、校歌とか、そういうものも聴いてみたい。また、一般で募集した詩に伊福部昭が作曲した北海道讃歌という曲があるが、それももういちど聴いてみたい」
とおっしゃっておりました!
北海道で北海道讃歌が甦る日を願って。
2006/11/29(完結編)
音更において、川上敦子さんのピアノによる追悼演奏会があり、お会いした陶芸家で伊福部昭先生の長女の伊福部玲先生に、直接聴いてみました。
すると、北海道讃歌のオーケストラ譜は 間ちがいなく伊福部先生の楽譜棚の中にある そうです!
遺稿の権利関係、浄書関係等の整理というのは、非常に大切なことなので、ご遺族、関係者様で充分に協議、論議、整理を重ねて頂いたうえで、世に出るのであれば、ファンとしては、それに勝る喜びは無いのであります。
何者かが勝手に持ち出し、勝手に演奏会、録音などが行われるというのは当たり前ですが必ずトラブルの元になり、けして許されるものではありません。
私の北海道讃歌探しの旅も、およそ9か月をへて、ここにその所在が判明したので、終わりにしたいと思います。
いつの日か、音になるのを願って。
2007/8/31(予備)
某有志より、1968年(昭和43年)に行われた、北海道百年記念祝典記録 というもののソノシート(!)をmp3にしたものを頂きました!
その中に、町村金五北海道知事(当時)や、佐藤栄作総理大臣(当時)の挨拶、昭和天皇のお言葉に加えて、会場で歌われた北海道讃歌の1番がおさめられていました。
わたしは、勝手な想像で、北海道讃歌はオホーツクの海(原典版)のような、10分ほどのカンタータかと思ってましたが、どうも、ふつうの町歌や市歌のようなもののようです。
それにしても、讃歌というと、もっとアップテンポで高音が高らかに響くというイメージがあるが、なんという重厚な讃歌なのだろうか……!!(笑)
さすが伊福部先生である。すごい歌いづらさそうだし(笑)
2012/12/14
2012/9/1に、ピアノ譜により、はじめて北海道讃歌が正式にリリースされました!!!
しかも、全4番を歌うという完全版です。
残念ながら、ブックレートに歌詞が載っていないので、ここに転載します。
北海道讃歌
作詩 森みつ
1
朝のひかり はるかなる海を照らし
きらめく波 北国の岸を洗う
嶺は天を指して 太古の歌をうたい
森は 風を抱いて みどりの雲を巻く
美しき国
ゆたけき国
おおわが北海道
2
雪は深く 生けるものすべてを包み
凛烈の風 北国の空をめぐる
遠く 大地(つち)を展(ひら)き 大地にねむるもの
オリオン 高くかかり 先人の意思を告ぐ
美しき国
ゆたけき国
おおわが北海道
3
春の息吹き 尾根をわたり原野にあふれ
いのちの歌 北国の歴史を伝う
花は地にひらき ひかりを湛(たた)え
風雪に耐えしもの いま力みちて立つ
美しき国
ゆたけき国
おおわが北海道
4
若き夢 輝くところ 地は甘く熟れ
われら讃う 乳と蜜流れる郷と
鐘よ 高くひびけ この国のみのりのために
鐘よ 高くひびけ この国の希望のために
美しき国
ゆたけき国
おおわが北海道
道民も道民でない方も、CDを聴いて歌の練習をしましょう!
さて、この曲はアンダンテ・グランディオーソ(Andante grandioso=壮大な/堂々としたアンダンテ(の速度で))の指示があるそうなのだが、60年に来たる北海道開拓百年祭で天皇皇后両陛下の御前で初披露し、北海道知事町村金吾(当時)の 「いつまでも歌い継がれる、普遍的な、壮大で重厚な」 賛歌を、という注文となれば、こうなるのは仕方ないというか、これこそ真の北海道賛歌であると云わざるを得ない。
当世風ともなればえてしてポップ調の歌いやすいもの、親しみやすいものを作りがちだが、儀式で歌う賛歌ともなれば、格調高く、藝術的で、重厚なものが相応しい。北海道賛歌をポピュリズムから護り伝えてゆく義務と責務が、道民の伊福部ファンでありクラシックファンの我々にはあると感ずる。
また、昔は、聴いたことがなかったので、この曲はオホーツクの海のような10分〜15分のカンタータかと思っていたが、普通の歌曲形式と知り、なんだやはりよくある校歌や市歌などと同じ部類か、などとも思ったが、4番までで7分を数え、賛歌に相応しい最重量級の「歌」だと実感できる。演奏も素晴らしい。メゾソプは大地をしっかりと踏みしめ、伴奏も負けていない。
北海道賛歌をじっくりと聴いていると、しみじみと心に染み入る。自分は我が祖国が大好きなのだが、チェコ人が聴く我が祖国はこんな感じかと錯覚する。染み入りすぎて幽体離脱するようだ。
願わくば次はオーケストラと合唱で、生演奏で聴いてみたい。
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