夢想神伝流 居合道

 ここでは神伝流の全技の読みと簡易な解説を行います。

 
夢想神伝流(むそうしんでんりゅう)


初伝 大森流(おおもりりゅう)

 正座の部。すべて正座姿勢より行われる。
 
1 初発刀(しょはっとう)
 敵の害意を感知するや、機先を制して敵の胸部またはこめかみに抜きつけ、敵がのけぞるか、倒れようとするところを真向正面から斬下して勝つ技。

2 左刀(さとう)
 初発刀と同じ意味をもって行う技。自分の左側にいる敵をくるりと回って斬る。

3 右刀(うとう)
 左刀の右バージョン。
 
4 当刀(あたりとう)
 初発刀を真後ろにクルリと回って行う技。真後ろバージョン。
                
5 陰陽進退(いんようしんたい)
 自分の正面に座っている敵へ初発刀の要領で抜きつけたが不充分なため、敵が後退しようとするのを立ち上がりながら左足を踏み込んで、真向から斬り下ろし、納刀しようとすると、二人目の敵が迫ってくる。そこを後ろへ一歩引きながら抜刀し、敵の腰の当たりを斬り、さらに振りかむってその敵を斬下する。合わせて二人の敵を倒す技。

6 流刀(りゅうとう)
 自分とやや離れて左側に座っていた敵がやおら立ち上がって自分の頭上に斬りつけてくるのを、その敵の刀を自分の刀にていったん受け、それからおもむろに左へ受け流し、敵が前にのめるところを正面よりやや左に向き直り、敵の腰を鞘ごと斬る技。

 ※流刀のタイミング
 ダメ      ダン−ダン−ダン 大正14年生まれの先生曰く 「爺ッコの居合」 敵が逃げてしまう。
 自分の限界 ダン−ダンダン   これ以上早くするとまだ体が崩れます。
 理想      ダン−ダ・ダン   ムリ。足さばきだけならできる(笑)
 ダンダン−ダン という流れのやり方もあり、こちらはどちらかというと、敵の攻撃を完全に受けるのではなく制定居合の3本目のように受け流し気味です。
 
7 順刀(じゅんとう)
 士分の切腹者の首を介錯する技。大会や祝いの場では介錯は凶の技ということで行わないしきたりである。

8 逆刀(ぎゃくとう)
 敵が正面から斬りこんでくるのを、一歩後退しながら敵の刀を左にすり落とす心持ちで受け流し、返す刀で第一撃を顔面に与え、敵が後ろに逃れようとするのを追い込んで斬撃し、倒れた敵の喉を掻っ切ってトドメをさす技。
 
9 勢中刀(せいちゅうとう)
 自分の右側から上段に斬下してくる敵の両肘(手首)にしたより抜きつけ、敵が後退するところを追足で踏み込んで真向から斬下する技。
 
10 虎乱刀(こらんとう)
 初伝唯一の立ち技。前にいる敵へ初発刀の要領で斬りつけ、あとずさりに逃げようとするのを追いかけてトドメをさす技。

11 抜打(ぬきうち)
 自分と敵は互いに接近して向かい合って座っている。敵の害意を感知するや、急速に抜刀して正面より敵を斬下する技。敵との距離が近いとの想定で、真横に刀を抜き、反動で真上に振りかむって斬る。

12 陰陽進退替技(いんようしんたいかえわざ)
 5本めの陰陽進退と同じであるが、敵の第2撃が自分の足にくるとの想定で、右脛を囲うようにして敵の刀を受け払い、さらに振りかむって敵を正面から斬る技。


中伝 英信流(えいしんりゅう)

 中伝はすべて「立膝」より行われる。立膝(たちひざ)とは安座の変形のようなもので、左足の踵がオケツの真下にくる。昔日、具足(鎧甲冑)を着たときに、椅子ではなく水平な場所にはこの座り方で座ったといい、その姿勢よりの甲冑居合。
 
 中伝は初伝と異なり敵との間合いが近いのを想定し、斬間(きりま)を自ら一歩引いて作る。引き居合。初伝は一歩前にでて間合いをつめるが、中伝は引いて間合いをとるのが異なる。
 
 初伝は腰、中伝は膝、との言葉がある。すなわち、初伝は腰を起点として技が始動し、中伝は膝を起点として技が始動することによる。

 10本。

1 横雲(よこぐも)
 初伝の初発刀と同じ要領の技だが、中伝では左足を大きく引いて敵との間合いを自ら作るのが違う。もちろん、間合いが遠いときは臨機応変に前へ出ても良い。
                       
2 虎一足(とらいっそく)
 初伝・陰陽進退替技と同じ要領で、敵が自分の右脛(右足)へ斬りつけてくるのを刀で受け、すり上げて敵の刀をはじく。敵が後ろへ逃れようとするのを追い込んで上段より斬下する技。

3 稲妻(いなづま)
 正面から上段に斬りこんでくる敵の肘(手首・右手の甲)へ斬りつけ、ひるんだところを斬り倒す技。初伝の勢中刀と異なるのは、敵が倒れるかうずくまるかしたのを想定し、地に膝をつけた折り敷く姿勢で斬る。

4 浮雲(うきぐも)
 自分の右側に接近して座っている者が敵であり、自分の刀をとろうとするので、体(たい)を開きながら立ち上がりそれをはずし、敵の胸部(右の二の腕)へ抜刀し、さらにその敵を右斜め後ろへ引き倒して、足で倒れた敵の刀や腕、着物等を踏んで動けなくし、首、または胸、胴を斬る技。斬る相手の想定が多数あり、なかなか分かりづらい。

5 颪(やまおろし)
 自分の右側に自分と同方向に(立膝で)座っている者が刀を抜こうとするのへ、その敵の刀を持つ手へ反りを打って柄当てし、さらに柄で顔(顎)を打ち、胸部へ抜刀して、そのまま敵を引き倒して、胴を斬る技。
 
6 岩浪(いわなみ)
 自分の左側に座っている者が刀を抜こうとこちらへ向くのを、機先を制して抜刀し、敵の胸部または鳩尾(みぞおち)を突き刺し、さらにその敵を引き倒して敵の背部へ斬下する技。

7 鱗返(うろこかえし)
 横雲の左刀バージョン。

8 浪返(なみかえし)
 横雲の当刀バージョン。
 
9 滝落(たきおとし)
 自分の後ろから敵が自分の刀の鐺(こじり)を掴もうとするのへ、その握りを刀を振って振り放し、ふり向いて敵の胸部を突き刺し、敵の倒れるところを上段より斬下する技。(立っても行えると思う)

10 抜打(ぬきうち)
 中伝唯一の正座。初伝の抜打と同じ技だが、より速く行うため、真横ではなく直に真上へ抜き上げる。


奥居合 英信流(えいしんりゅう)古伝居合

 座業(ざわざ)の部

 すべて立膝より足音をたてず無声の気合で行われる。

 8本。

1 霞(かすみ)
 立膝より、初伝・初発刀の要領で前へ抜きつけるが、ただちに右手をとって返し、のけぞる敵へ第2撃を加え、さらに上段より斬下する技。立っても行える。

2 脛囲(すねかこい)
 中伝・虎一足と同じ技だが、さらに速度が速い技。
 
3 四方切(しほうぎり)
 前後左右の4人の敵を、まず刀をやや斜め右前へ抜き、後ろの敵の左胸部を突き、受け流しに刀を振りかむって90度回って右の敵を斬り、ただちに180度回って左の敵を斬り、さらに90度回って正面の敵を斬る技。斬る順番や方向、足の踏み替え方などで、私の知るかぎり3つの替技がある。立っても行える。
 
4 戸詰(とづめ)
 自分の左右に戸(または襖)があり、その影に敵が潜んでいるのを敷居ごしにまず右の敵へ片手で抜き打ち、ただちに立ち上がって左の敵を低い姿勢で斬る技。

5 戸脇(とわき)
 自分の前に戸(または襖)があり、その右前の戸の影に敵が潜んでおり、さらに自分の左側または左斜め後ろに敵がいるのを、まず水平に抜刀して左後ろの敵を突き、ただちに右前の敵へ斬りつける技。

6 棚下(たなした)
 棚の下や縁の下、天井の低いところなどで、その低いところを出た前方に敵がいる。立膝より頭を下げてできるだけ低い姿勢で右足を前に出しながら抜刀し、刀を背負いながら前に出て、振りかむって敵を斬る技。

7 両詰(りょうつめ)
 両側に障害物があり(両側が詰まっている)刀が普通のように抜けない場合、刀を前方に抜き、まず敵の腹部を刺し、刀を引き抜くと同時に振りかむって(振りかむり方が少し通常と異なる口伝あり)上段より斬る技。
 
8 虎走り(とらばしり)
 逃げる敵を小走りに追い詰めて抜きつけ、倒れるところを上段より斬る技。後退しながら斬る技と両方やる。


 立業(たちわざ)の部。

 13本。

1 行連(ゆきつれ)
 不法に連行されるような場合、左右を敵にはさまれて歩いている途中、機先を制して一歩、敵を先に歩かせて右、左と順番に斬る技。座業の戸詰に同じ要領。
     
2 連達(つれだち)
 行連と同じように左右を敵にはさまれて歩いている場合、左(左後ろ)の敵をまず抜刀して突いて、ただちに右前の敵を斬る技。座業の戸脇に同じ。

3 惣捲(そうまくり)
 一応5人の敵が前面にいるとして、第一の敵が正面から斬りこんでくるのを、自分の刀ですり上げて左へ受け流し、左袈裟に顔面を斬る。次に第二の敵を右肩より袈裟に斬り、第三の敵を左胴に斬り、第四の敵を右胴に水平斬りにして、最後の敵を上段より真向に斬下する技。足はすべて歩み足。ようするに複数の敵を臨機応変に切ってゆく技。
 
4 総留(そうどめ)
 せまい板橋、土堤、細道、階段など、両側に体を自由にかわせないような場所を進行中、前面に複数の敵がいるのを、低く敵の足めだけて抜刀して順番に倒す技。
 
5 信夫(しのぶ)
 暗夜の技。前方に敵がいて自分に向かってくるのを、体を低くして、刀で見当違いの場所をトントンと叩いて敵がそちらに気を向けるか驚いてすくむのを、ただちに斬下して倒す技。

6 行違(ゆきちがい)
 前方より二人前後して向かってくる敵へ対し、すれちがい様にその合間へ入り、後の敵の顔面へ柄当てし、前の敵が驚いて振り向くのを、こちらも抜刀しつつ振り向いて胸を突き刺し、さらに柄当てをした敵へ向き直って上段より残でする技。前ろの敵を振りかえって突く場合のほか、片手で斬りつけるのと、上段より振りかむって斬下するのと、2つの替技がある。

7 袖摺返(そですりかえし)
 前方に群衆がいて、その向こうにめざす敵がいる場合、歩きながら静かに抜刀し、刀を刃を上にして関係のない人が傷つかぬように持って両腕で群衆をグンとかき分け、めざす敵へ向かって斬る技。
 
8 門入(もんいり)
 門の内外に二人(あるいはそれ以上)の敵がいる場合、門の中に左足を入れ、真横に振り向いて横に抜刀し、自分より左の敵をまず突いて、ただちに後ろを向いて右の敵を上段より斬る技。門とか梁とか鳥居とか、上がつかえている場所での抜刀方法。
 
9 壁添(かべぞい)
 左右どちらか、あるいは両方に壁があって刀を自由に使えない場所で前面に敵がいる場合、歩きながら(止まっていてもよい)両足をそろえて爪先立ち、真上に抜き上げて背中に切っ先がつくぐらいに振りかむって斬る技。

10 受流(うけながし)
 進行中、正面から敵が斬ってくるので、刀を右斜め前に抜くや敵の刀を受け、瞬間に受け流して敵の首や肩を斬る技。初伝・流刀と同じ要領だが、正面から敵がくるのが違う。
 
11 追いかけ斬り
 伝書にはあるが、現在は行われていない。

12 両士引連(りょうしひきつれ)
 上に同じ。

13 暇乞(いとまごい)
 奥伝中唯一の正座技。お辞儀をしながら、急に抜刀して敵を倒す。お辞儀をどれぐらいするかで上中下と3種類あり、現在はこの3種類を含めて13種類。基本的にサムライは大刀をつけて座らないので、大刀ではなく小刀での応用技と考えられる。


 オマケ

五方斬(ごほうぎり)

 進行中、周囲に5人の敵がいる。まず横に抜刀して左の横の敵を突き、180度ふり返って右の敵を斬り、刀を戻しつつ右斜め後ろの敵の胴を水平に払いつつ90度ふり返って後ろの敵を斬り、さらに180度ふり返って正面の敵を斬下する技。地鎮祭で場を清めるのにも行われたらしい。神伝には伝わっていないが、直伝でもできる人が少ないとのことで教えてもらった。

 神伝流二人形居合〔位どりの武〕という、2人で行う形もあるが割愛する。

 
すべての解説は山蔦重吉先生著 「夢想神伝流居合道」を参考にしました。

 居合

 
後の祭