マーラーとっかかり入門〜「つまみ聴き」のススメ(小文)


 クラシックは聴くが、マーラーは聴いたことないという人に、どれから薦めればよいか、という考察。

 一通り長い曲も聴くことができるほどの人ならば、何番、何番と1曲丸ごと薦めるのも手だが、正直マーラーは1曲の中でも明るい暗い、長い短い、大オーケストラ総奏から室内楽的用法までと、乖離が激しく、それが面白さなのだが、自分のように何かのきっかけで強烈に最初から 「よくわかんないけどマーラーを聴くったら聴くぞ!」 という人はよいと思うのだが、「マーラーって、何がいいんですかねえ」 程度の人では、混乱して逆効果も考えられる。

 そんな状況では、意外に楽章だけの 「つまみ聴き」 も良いと思っている。

 ※あくまで 「つまみ聴き」 によいと思う楽章であり、この楽章が最も出来がよいとかいうものではない。  

1番 2楽章  1番は4楽章だけがやたらと長く、全体としても構造的に平易に書かれているので通には飽きが来やすいのがネックだが、旋律の楽しさがあり、初心者には逆に飽きない部分も多い。その中では、2楽章が最も楽しそうで、うきうきした情感もあり聴きやすい。1楽章は構造的にぼんやりしているし、3楽章はグロテスクで、マーラー聴きになってしまってはよいが最初はお勧めしない。
2番 1楽章  2番で最も聴きごたえがあるのは、当初は交響詩として独立していた1楽章だ。2楽章のほうが愉しく、3楽章のほうが深いし、4楽章のほうが美しい。そりゃ分かる。しかし1楽章の、いかにもマーラー的な大仰なドラマを頑張ってまず聴いてほしい。5楽章は、入門者には論外。2番のおおいなる壁。マーラー通のみが愛する。
3番 5楽章  3番は難しい。1楽章が最も器楽的で変化もあり楽しいが長い。2楽章も牧歌的でよいが、やや大人しく存在感に欠け通好み。3楽章もちょいとダラダラ長い。4楽章・5楽章は短くてよいし、マーラー的な歌曲と合唱曲が味わえる。白眉は6楽章だが、これもやや長い。となると、5楽章が明るくて毒もあって合唱の使い方もいかにもマーラー的であり、つまみ聴きにはお勧め。
4番 4楽章  4番の白眉は実は3楽章と思っているが、どうしたって長いので、やっぱりここは、歌曲の妙をじっくり味わえる4楽章でつまみ聴きは決まりだろう。4楽章は歌詞の意味も毒だし、時間的にも聴きやすい。4番の象徴の鈴もある。1・2楽章も素晴らしいが、4番を代表するのは、やっぱり4楽章なのだ。なぜなら、4番は4楽章が最初に出来上がっており、マーラーが4楽章ありきで1〜3楽章を設計したのだから。
5番 2楽章  5番といえば4楽章だろうが、私は2楽章をお勧めする。1楽章でもいい。マーラー伝統の葬送行進曲と、そのあとのマーラー的激情。実によい。4楽章も当然良いが、ほら、どこかで聴いたことがあるかもしれない。「ああ、これか」 では、新鮮味に欠ける。5楽章も良いが、それまでの動機がたくさん出てくるので、いきなり聴いても魅力が半減する。3楽章は論外。長いというより、複雑すぎて初心者には向かない。
6番 2楽章  これは、新全集版でアンダンテのほう。6番も難しい。つまみ聴くという程度の楽章が無い。1楽章と4楽章は6番のキモだが、長いし疲れる。つまみどころか魚と肉が両方あるような超メイン。3楽章スケルツォは時間的にはいいが、これもなかなか、つまみには重い。となると、やや長いがアンダンテが、安らぎと昇天の描写が良いし、旋律もいい。落ち着いて聴けるし、盛り上がる部分もある。カウベルもあってマーラー的だ。
7番 2楽章か4楽章  いわゆるナハトムジークと題された楽章。7番全体の副題ではない。これはどっちも愛らしく、しっとりとして実に趣深い。夜の曲と云われれば、そうとも聴こえる。夏の夜という印象。執拗なリズムの繰り返しによる、「舞踏の聖化」マーラー版ともいえるもの。1・3・5楽章は、それらとの対比であり、それだけ聴いても7番の魅力にはあまり寄与しないと感じる。単独でつまみ聴くには、やはりナハトムジークだろう。
8番 1楽章  1楽章というか、1部。これはぜひ1部を聴いて、人間はこれだけアッパーになれるものかというのを感じてほしい。ドカーン! バーン! ぶわーっと行きますか!! これに尽きる。2部のリスト、メンデルスゾーンに通じるカンタータ的な世界もマーラーだし、この1部の爆発力と、その中での第2主題のしっとり感もいかにもマーラー。ついでに、この惰性的な経過部は本当に必要なのか? という部分もマーラー。
大地 3楽章  1楽章と悩むが、ペシミズム過ぎる。2・4・5楽章も、1楽章ほどではないが同様。6楽章はマーラーファンでも通の中の通が味わうものの1つで、陰鬱を通り越して催眠術だ。すると必然、大地はまず3楽章で素直に 「西洋人の描く」 ちょっと歪な桃源郷を楽しむのが、つまみ聴き程度では最も良い。
9番 なし  残念ながら、9番だけはつまみ聴きそのものをお勧めしない。つまみ聴くものが無い。1・4楽章は9番のキモなのは6番にも似ているが、9番の2・3楽章は、それだけ聴いてもねえ、9番を聴いてみたいと思うようになるかなあ、といったところ。
10番 クック版は2楽章  全集版は1楽章しかないので、それを聴いていただくことになるが、それはもうつまみではない。クック版は、実はチグハグな2楽章なんか、けっこうつまみにはよいと感じている。4・5楽章はほとんどアタッカだし、3楽章はつまみ以下のボリュ−ムしかない。それは演奏時間という点だけではなく、内容も。

 以上、我ながら、悪くないと思うのだが。
 


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