第14回 「近況及び伊福部昭生誕100 年によせて」
語り手 九鬼 蛍(以下「九」という。)
語り手 堀井友徳(以下「堀」という。)
語り手 じゅにあ(以下「じ」という。)
日時 2014年1月2日午後3時ころ
場所 北海道某所
堀井友徳近況
九「1年ぶりの管理人と堀井さんの対談インタビューになりますが、今回は若い伊福部クラスタのじゅにあ氏にもゲストで参加いただいて、初めての鼎談という形になります。よろしくお願いします」
堀「よろしくお願いします」
じ「よろしくお願いします」
九「1年ぶりですので話題がたくさんありますが、まず堀井さんの近況ということで、『3人のフルート奏者のためのオブジェ』『北風のしらべ』全曲版の演奏、『ヴァイオリンと二十五絃箏のためのエレガンツァ』『朗読と室内楽のためのポエジー第2番 黒い翅』そして2014年レジデンスコンポーザーをやられるアンサンブルアープルスの関係で『フルートとヴィオラとハープのための冬への幻想』その他を」
堀「『オブジェ』に関しては前回の対談のときに『鋭意制作中』ということで、経緯は少し話しましたので、今回は演奏後の感想などを。九鬼さんはどう思いましたか?」
YouTube 堀井友徳:3人のフルート奏者のためのオブジェ
九「堀井さんとしては完全な初めての無調作品ということでしたが、無調といっても無味乾燥な音調ではなく、同属楽器なのに音色や曲調、テンポに変化もあって面白く、時間もちょうどよくて、無調の作風も始めてからの堀井作品としては、最高傑作だと感じました」
堀「それはありがとうございます。全編無調で書いたのはこれが初めてでしたので、書くのはちょっと苦労しました。フルート3本という編成も始めてだったし。ピッコロとアルトフルートの持ち替えも試してみたかったです。じゅにあ君はたしか、会場でこれを聴いてくれましたよね」
じ「はい」
堀「演奏は東京音大の若い学生さんがとても上手にやってくれました。ふだんは、こういう現代作品はほとんどやらないらしくて、特殊奏法とかを使っていますので、最初の音出しではちょっとピンと来なかったそうなのですが、やってる内に曲が分かってきて、本番は手中に納めた感じでやってくれて、とても面白いと奏者の方が言ってくれました。無調と言っても完全セリーではありませんから、まだやりやすかったのだと思います。『オブジェ』はタイトルが2、3回変わって、最初は『レオス』にしようと思ったんです。ギリシャ語で『流れ』という意味なんですけども。テンポが流れていく感じなので。タイトルが二転三転してけっこう苦労しました。『オブジェ』は抽象的で、他にも使えると思いますので、機会があったらシリーズ化してゆきたいと思います」
九「編成として三重奏はどうでしたか?」
堀「本当は4人のカルテットでやりたかったんです。トリオというのは、なんの楽器にしても扱いが難しいのです。バランスとか。しかも、同属の同じ響きのトリオというのはたいへんでした。自分でやりたいと言ったのだから、誰も責められませんけど(笑)」
じ「トリオでも、調性と無調では難しさは変わるのですか?」
堀「いや、それは変わりません。響きのバランスとか、構成とかですから、調性でも無調でも同じです。たとえば絃楽でも、四重奏より三重奏のほうが、書くのが難しいです。同じトリオでもピアノ等の鍵盤楽器が1つ入ると、また別なのですが。和音が3つより4つのほうが落ち着くというか」
九「この『オブジェ』という作品は、吹奏楽のアンサンブルコンクールでも、一般の方がフルートアンサンブルで挑戦してほしいと思います。時間的にカットは出てくると思いますけども」
堀「自分としては、特殊奏法もそんなに使っていないし、演奏の技術的な難易度は特に高くないと思います。トロッタは時間的に1人10分前後という枠があるので、この10分というのも書くにもちょうど良いですね」
九「お客さんの反応はどうでしたか」
堀「今までの自分の作風を知っている人は、戸惑ったようです。凄く良いと言ってくれた人もいました。音楽をやってる人からは評判がよかった印象です。全編無調で書いた初めての作品でした。苦労のかいあって、よくできたと思います」
九「次は、北風のしらべを」
堀「これは、一応とりあげますが、特筆するほどのものでもありません。昔の作品です。ちょうど10年前、2003年の曲です。日本木琴協会の札幌支部から依頼されました、機会音楽なんです。演奏会の最後に抜粋というか短縮して演奏されるんですが、昨年、初めて全曲演奏されまして(笑) マリンバが4台とピアノです。完全に歌謡風の旋律作品です。5分くらいの曲です。木琴協会は朝吹英一先生が作られた組織です。私は子供のころ、朝吹先生にお世話になっていました。これは、作品ではあるけど、ま、イベント音楽ですね。木琴協会の札幌支部以外では、演奏されないでしょう」
九「調性と無調と両立できるのが、やっぱり本当だと思います。無調で有名な作曲家でも、映画音楽とか、アニメの主題歌とかで本当に良い曲を書いている例もあります。では、『北風のしらべ』はさらっと流しまして、次のヴァイオリンと二十五絃箏の新作の話を」
堀「YouTube の私の『ロマンツァ』を聴いた方が、それを凄く気に入ってくれまして、最初は『ロマンツァ』をヴァイオリンと二十五絃箏にしたいとおっしゃったんですが、箏は転調が難しいので、けっきょく新作になりました。ですからこれは、ロマンツァの世界観を持った、構成も似せて、最初から最後まで完全な調性です。『エレガンツァ』という題です。初演が5月31日で、自分も行けないのですが、長野でやります」
九「次はトロッタの『黒い翅』ですが」
堀「トロッタでは歌曲をずっとやってましたが、それは本来の木部さんの詩の朗読と音楽というトロッタの様式ではなく、前回の『蝶の記憶』で、はじめて朗読のために音楽を書きました。今回が2回目なんですが、今回は自分から木部さんに、エロティックな音楽をやりたいのでそれをあった官能的な詩を、というリクエストをしました。直接的な描写ではもちろんありませんが、官能的な良い詩ができたので、いろいろ工夫して、楽器編成も変わってて、当初の想定ではソプラノサックスと打楽器とチェロ、ピアノという編成を考えてたんですけどサックスの人が都合で出られなくなりまして、音域の近いクラリネットにしました。打楽器の編成も変わっています。トライアングルと、ギロ、シンバル、グロッケンなどです。ギロはけっこう使いましたよ。長いギロの持続音にチェロのソロがからんだり、感情的に激しくなるとギロの速度を上げたり。これは濡れ場みたいなイメージ(笑) あと、今回は初めて、12音の対位法を使いました。最後の部分に、ですけど。三声で音列を組みました」
じ「12音の作曲は面白かったですか?」
堀「面白かったけど、たいへんでした(笑) あれはシステマティックに作り上げなくてはなりません。12音を久しぶりに勉強しました。音を配列するのにルールがありまして、そのルールを使って自分で和音や旋法を考えなくてはならないので、大変です。それで対位法を作ります。一回、やってみたいなとは思っていましたが、ちゃんとなっているかどうか(笑) 私も12音の専門家ではないので。演奏は、最初は硬かったけど、本番はよくできました。これはピアノが入っていたから、まだやり易かったかな。中間部に調性が出てきますよ。聴いているとちょっと恥ずかしくなるような(笑)」
九「完全に無調ではないんですね」
堀「ほぼ、無調ですね」
九「では、2014年のレジデンスコンポーザー、アンサンブルアープルスについて。チラシに水野修孝先生といっしょに並んで写真が(笑)」
堀「2014年は、水野先生と私です。今年は2回演奏会をやりまして、それぞれ新作を書きます。2月の演奏会はフルート、ヴィオラ、ハープです。7月にもありまして、そちらは編成が大きい。絃楽合奏と、フルート、チェンバロです。それがあるので、夏のトロッタは降板します」
九「アープルスの関係で、レジデンスコンポーザーのきっかけ等がありましたら」
堀「はい。昨年の3月に、アープルスで私の昔の作品、『ヴァイオリンとチェンバロのためのロマンツァ』と、『リコーダー、バスガンバ、チェンバロのためのトリプティーク』を、フルート、チェロ、チェンバロ版で演奏してくれまして。それがとても良い演奏で、お客さんの評判も良かったみたいです。当時はぜんぜん私も知らない方たちで、向こうとしても面識も無い人の曲を2曲も取り上げるなんて勇気のあることなので、よく取り上げてくれたなあ、と感謝しています」
じ「当日は、『ロマンツァ』が大人気でした」
堀「はい。『ロマンツァ』はヴィオラの伊藤美香さんも気に入ってくれて、伊藤さんがご自身でヴィオラ版に編曲して、2013年6月にヴィオラ版を初演してくれました。渋い感じで、ヴィオラも良かったです。その2曲が評判良かったということで、今回、レジデンスコンポーザーのお話をいただきました」
九「2月に演奏される『冬への幻想』についてお願いします」
堀「最初は、まず最初に夏の絃楽合奏の作曲をという話だったのですが、その前に、1回小編成でコンサートをやりたい、という話になって、そのコンサートでハープを使うというので、自分はこれまでハープの作曲をしたことが無かったので、ハープをやるならぜひやりたいと云って、急遽、作曲がきまった経緯があります」
九「ハープの作曲というのは、やはり特殊なんですか?」
堀「ハープは、作曲が難しいです。何がというと、ペダリングです。これまでアレンジ物でハープを使ったことはありますが、オーケストラでのハープはたいてい調性音楽で、グリッサンドやアルペジオぐらいしか出てこないんですが、純音楽で、無調となるとペダルが大変。で、これは勉強なので、ハープをじっくり書く機会は少ないですから、調性と無調と両方を1曲の前半と後半でやりました。ハープのパートを書いて、演奏の中村愛さんにまず先に楽譜を送りまして、特に無調の部分が演奏可能なのかどうか確かめてもらいました。ペダルのやりくりがティンパニの比ではありません。ハープは手より足の方が大変ですね」
九「で、演奏は可能だったんですか?」
堀「できるということでした。それで、調性の部分を加えて、最終的に完成しました。フルート、ヴィオラ、ハープと言いますとまずドビュッシーの『ソナタ』になりますが、2月の演奏会もそれがメインのプログラムです。前から書きたかった編成でもあります。願ったり叶ったりで、その編成なら是非、ということで。めったにない機会ですから。タイトルも、久々に標題音楽にしました。最初はただの『ファンタジー』にしようかな、と思いましたが、奏者の方が若い女性ですし、もっとイメージがあった方が良いと思って、久しぶりに題をつけました。冒頭、寒々しい感じもしますし、冬に演奏しますので『冬への幻想』ということで。ただし、具体的に冬を描写した音楽ではありません」
九「テーマありきの曲ではないということですね」
堀「そうです。でも、聴く人のイメージは自由ですので。タイトルといえば、伊福部先生があまりに無味乾燥すぎるタイトルはいけない、と云っていました。ただの『〜のための音楽』とか。単に『無題』とか。反面、具体的すぎる題もいけない、とも。タプカーラ交響曲は標題曲ですが、あれでたとえば、第2楽章『アイヌの哀しみ』とか、そういうのはいけない、と」
九「あと、夏の新作というのは?」
堀「夏は、フルート、チェンバロ、絃楽オーケストラです。15分くらいで、3楽章制のコンチェルトグロッソです。構想はもうできていますので、明日から作曲します(笑)」
伊福部昭生誕100年をむかえて〜演奏会
九「それでは、後半は今年2014年、伊福部昭生誕100年ということで、いろいろ演奏会やCDの発売もあります。それについて、話せる範囲で話してゆきましょう。あと、我々40代前半世代と、20代前半世代との20年の伊福部受容の差を」
堀「今年生誕100年は、邦人の有名どころでは、あと小山清茂と早坂文雄ですね。早坂文雄は札響で『ユーカラ』をやりますが、英断だと思います」
九「そうですね、『ユーカラ』は滅多にやりません。早坂自体が、あまりやられていませんが」
堀「早坂文雄は著作権も切れて、使用料なしで演奏できるはずなんですが、あまり演奏されません。東京交響楽団で9月に準メルクルさんが『左方の舞と右方の舞』をやるようです」
九「純粋音楽となると、メインではやりづらいのでしょう。メインでは『ユーカラ』と、『管絃楽のための変容』くらいでしょうか」
堀「『ピアノ協奏曲』は大作だし、とても良い曲ですけどね。あと、小山清茂も、大きな会をやるとは聞きませんね」
九「小山清茂は小品が多く、これもメインではやりづらいし、個展もやりづらいのかもしれません。では伊福部になりますが、演奏会はたくさんあるので、オーケストラ曲で、東京でやるものと札幌でやるもの、かつプロオケに限定させていただきましょう」
堀「まず2月1日に西君(音楽評論家の西耕一氏)が中心になって企画されている百年紀コンサートシリーズVol.1で、映画音楽のコンサートをやります。齋藤一郎指揮、オーケストラ・トリプティークです。内容は『ゴジラ』『海底軍艦』『地球防衛軍』『銀嶺の果て』『国鉄』を映画音楽のスコアをアレンジして、組曲にしています」
九「この、『国鉄』組曲というのはなんですか?」
じ「むかし、国鉄で作った記録映画からの抜粋です。全曲、作曲家の鹿野草平さんの編曲によります。『国鉄』という映画があります」
堀「他に『つばめを動かす人たち』と『雪に挑む』ですね。オーケストラの人も、体力が凄く必要です(笑) これはスタミナを消費します」
じ「3管編成オーケストラ90人のフル編成なので、迫力がありますよ」
堀「Vol.2 が5月にありまして、SF交響ファンタジー1、2、3をやるようです」
九「そっちも凄いですね(笑)」
堀「Vol.1 は、映画音楽に特化したのが面白いです。客層も楽しみですね」
九「次に、2月末に井上道義指揮、日本フィルハーモニー交響楽団で伊福部特集がありますね。曲目は『オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ』をマリンバソロ安倍圭子で。『管絃楽のための日本組曲』そして映画音楽『ゴジラ』『ビルマの竪琴』『銀嶺の果て』『大魔神』より です。」
堀「マリンバの安倍圭子さんはお元気ですね。『日本組曲』のオーケストラ版は日フィルシリーズの初演コンビですので、期待できます」
九「5月31日の伊福部昭の生誕日には、高関健指揮、札幌交響楽団が定期公演で『日本狂詩曲』『ヴァイオリン協奏曲第2番』『土俗的三連画』『タプカーラ交響曲』を。ヴァイオリンは加藤知子です。同日、井上道義指揮、東京交響楽団で『SF交響ファンタジー第3番』『ピアノと管絃楽のためのリトミカ・オスティナータ』『二十絃箏とオーケストラのための交響的エグログ』『交響頌偈 釈迦』です」
堀「札響は5月30日と31日の両日やりますので、30日札響を札幌で聴いてから東京へ戻り、31日は東響を聴くという人もいるでしょう。1月から5月までに集中しているのが、ちょっと通う方にしてみれば、厳しいかもしれません。札響のヴァイオリン協奏曲2番はレアです。何年か前に大阪でやりまして、それ以来だし、東京ではずっとやっていないと思います。1番はけっこうやられてますが、2番は珍しいと思います。タプカーラは札響の得意だし、高関さんの解釈も良いです。土俗は演奏が難しい。1管編成の室内楽ですから、それぞれがソロイスティックで、トランペットも音が高いし、体力が必要です」
九「東響のほうは、これは、昨年に引き続き東京交響楽団で初演した伊福部曲の再演という趣旨のプログラムです。札響と同じく4曲やりますが、こちらはヴォリュームが凄いですね。あと、CDは『子供のためのリズム遊び』の入ったピアノ作品集の第3弾や、今月には『リトミカ・オスティナータ』の初演の模様を収録したものと作年の『プロメテの火』と『日本の太鼓 原典版』のCDなど、色々と出ますが、こちらは後日のネタにとっておいて、じっさいに聴いてからまたやりましょう」
3人の伊福部受容史
九「では、次に我々三人の伊福部受容ということで、ちょうど20年世代が離れていますし、それぞれ特徴がありますので、それを比較してゆきたいと思います」
堀「まずは、若い世代のじゅにあ君の伊福部との出会いなど、興味ありますね。我々の世代、つまり1970年代前半生まれはゴジラの映画がちょうど終わって、伊福部のゴジラが再び始まったのは1991年でした。もともとの特撮好きの人はともかく、少年時代に特撮からゴジラに入るという環境ではなかった。まして、今の20代の人はどういう経緯で伊福部に入ってきたのか、一例として教えてほしいです」
じ「伊福部昭との出会い、というのは、中学二年生のときにまずオーケストラにはまりまして、中学校の美術の先生にマーラーのCDを借りました。それでマーラーにまずはまりまして、あ、オーケストラっていいな、と思いまして、それから色々とオーケストラ曲を聴くようになりました。でも、その中二が2006年ですから、もう伊福部昭は亡くなっていました」
九「まさに世代間格差です(笑)」
堀「その、色々と聴いていたのはCDですか、それともYouTubeですか」
じ「まだCDです。YouTubeが出てきたのは、高校に入ってからです」
堀「もっと若い世代は、CDすら聴いていません。まずYouTubeとかです」
じ「伊福部昭を最初に聴いたのは、図書館から借りたタプカーラ交響曲で、キングレコードの日フィルシリーズでした。シリーズの1、2、3を借りて、その中でタプカーラを最初におっ、と思ったのは、2楽章でした。その後、3楽章がよくなって。日本組曲はそんなにピンときませんでした。でも七夕は好きです」
九「緩徐楽章好きなんですね。珍しい。伊福部ファンは普通、アレグロから入りますから。我々もそうでしたが(笑)」
じ「緩徐楽章とアレグロ楽章の格差というか、ギャップが凄く好きでした」
堀「我々もそうですが、伊福部の音楽はこのようにCDやレコード、映画などの録音物からファンになる人が多くて、コンサートで生の演奏を初めて聴いてから好きになる人というのは、少ないと思います。何回も聴かなくては良さが分からないのかもしれませんが、そうなると、録音物というのはとても大事な要素になってきますね。いま、あまり売れないからとCDを新しく出すのが減っていますが、新しいファンを開拓するのには難しい状況なのかもしれません」
じ「それが中三から高校にかけてで、高校ではブラスバンドでユーフォニウムとチューバをやっていました。で、伊福部も低音が多いですし。大学に入ってからはヴィオラを少しやりましたが、それはすぐに止めてしまいました」
堀「だいたい、みんな中学から高校にかけてはまるようですね」
九「ゴジラは観ましたか?」
じ「ゴジラはミレニアムシリーズのゴジラです。あまり観ていません(笑)」
九「私はゴジラを始めて映画館で観たのは1984年のゴジラで、小学生でした。中学でビオランテで、伊福部昭という人がいるはずなのになんで音楽がちがうんだろう、とは思ってました(笑) 田舎でレコードも売ってませんでしたし。初めて映画館でゴジラの音楽で伊福部を聴いたのは1991年のゴジラVSキングギドラで、そのころはもう大学生で、元々特撮ファンではなかったので、あまりはまりませんでした。しかし、フォンテックのCDでむかしレコードだったものが再発売されたのもそのころで、それで芥川也寸志や矢代秋雄、他に武満徹の作品集を買ってきて、それから邦人にどっぷりはまって現在に至っています。伊福部にはまったのは、2枚組の喜寿記念のCDの、日本の太鼓です。キングギドラの曲も好きなんですが(笑) それからタプカーラ。ですから、私も伊福部は純音楽から入ったといっていいです」
堀「私と九鬼さんはかぶってますね。完全にCD世代で、しかも最初期。我々より数年上の世代はレコード世代です。私も同じ2枚組の喜寿記念のCDからです。日本の太鼓でお弟子さんがいっぱいいて。伊福部先生が指揮を振っておられて。私はVHSも買いましたよ。タプカーラの2楽章は難しくて、最初は良く分かりませんでした」
九「私もです。音楽に聴こえなかった。綺麗な音が鳴っているだけで。3楽章もうるさくて。でも、何回も聴いていたら、たまらなくなった。堀井さんの初伊福部はやっぱり特撮ですか?」
堀「ゴジラVSキングギドラのサントラのほうです。当時久しぶりに伊福部先生がゴジラに復帰するというので話題になりました。私もゴジラ世代ではないのですが、宇宙船という特撮雑誌をずっと講読していて、それで伊福部先生の名前は知っていて。オーケストラで、ユニゾンを多用するのに驚いて、それではまってしまいました。伊福部先生のプロフィールに東京音楽大学の学長だったと書いてあって、当時高校生でしたから、音大に入ったらお会いしたいなあ、と思いました」
九「意外かもしれませんが、私は最初は、武満を集めていて、武満ばっかりCDを買っていました。音楽自体は、面白いかというと難しいのですが、響きが好きだった。ノヴェンバーステップスとか、雨の樹(レイン・ツリー)とか。そのうち、伊福部にシフトしました」
堀「伊福部昭のように、世代を超えて熱いファンがいるという作曲家は珍しいと思います。昔からの特撮映画からの人はもちろん、いま、ネットなどで接して純音楽から入ってくる人もいる。あと10年くらいしたら、今の小学生が伊福部昭が好きなんです、と出てくるでしょう」
九「ネットで、ボーカロイドで伊福部をやる人もいるし、それを聴いて伊福部にはまる人もいるだろうし、需要の根っこはますます広まるでしょう。これからは、図書館で調べたり、ネットで調べたりという世代の人が勃興してくるということで」
じ「分からない作曲家で、まず図書館やネットで調べて、だいたいは聴けます」
堀「それが羨ましい(笑) 我々の世代は、まずCDを買わないと、何も聴けなかったですから」
九「買いましたね。買って聴いて、それっきりというのもザラで。買って失敗したCDがどれだけあることか(笑) ただたくさん持っているだけではないですよ。雑誌で調べて、輸入元に大学の公衆電話から電話して、直接通販で買ってました」
堀「じゅにあ君から最後に何かありますか? やっぱり、じゅにあ君も北海道の人だから、伊福部に共感する部分があるとか?」
じ「そうですね。北海道にいたときよりむしろ、関東の大学に進学してから、たまに聴くと、とても郷愁をさそいます」
堀「たとえば、タプカーラの2楽章や寒帯林の1楽章は、ちょうど今の季節の北海道の雪景色に通じるものがありますよね」
九「伊福部に対するそういう味わいは、北海道の人間だけの特権かもしれません。十勝のランドスケープもそうですが、夏の霧にむせぶ太平洋岸の海岸線とかも、感じます。では、時間になりましたので、今回はこの辺で」
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