第7交響曲
人気の点では、5番に次ぐものがある「レニングラード」交響曲。しかしどうも、個人的には苦手な音楽だ。規模的には、それこそマーラー・ブルックナーに匹敵するものがあるが、それほどの感銘は無い。構成に難があり、大曲交響曲に不可欠な主題の緊密な連携が希薄で、中身の無い、外観だけがブカブカ響いている印象が強すぎるのだと思う。結局は好き嫌いの問題だから、この7番が好きというひとに、どうのこうのと云うつもりは無い。しかし私の中では、今のところどのようにすばらしい演奏を聴こうが、この曲の評価は低い。個別には、1楽章と3楽章がたいへんに面白い音楽だが、2楽章はイマイチで、特に4楽章が何をしたいのか分からない。テーマ性があって一貫しているぶん、何かを見失って彷徨っているような10番よりはマシだが……。
人気があるので、いちおうベストには入れておきました。
スヴェトラーノフ/ソビエト国立響
ロジェストヴェンスキー/ソビエト国立文化省響
コンドラシン/モスクワフィル
ゲルギエフ/キーロフ管
ムラヴィンスキー/レニングラードフィル
つらつら挙げてみたが、ロシア人以外では、バーンスタインがけっこう気に入ったものだったです。
スヴェちゃんは旧録のほうなので、音源としては入手しづらいかもしれません。新録では、期待されたわりにはイマイチという風評だった様に記憶してますが、この旧録音は、さにあらず!! 脳天ぶん殴られ、鼻血ふき出しまくり、ウルトラ豪圧の管弦楽による恐るべき戦争の精神が描かれているのでございますです!!
押しつぶされんばかりの阿鼻叫喚の咆哮とレニングラード交響曲の神髄をや聴かん!!
あと、正規で復刻した1978年のライヴも、けっこう仰天の演奏です。ガワだけの演奏になりがちなこの音楽に内側からものすごい圧をかけて、重量感を出している。素晴らしい!
ロジェヴェンは、スタジオ録音は音質があまり良くなかったのであげませんでしたが、1984年のライヴ録音のが、なかなか良く、しかも演奏も良いので、2番目に挙げます。表面上の英雄的な勝利交響曲の裏に隠されたブラックな部分、狂気の部分、すべて掘り起こしている。しかも、強圧的な金管や革打楽器の朴訥としつつも一心不乱で盲目的な鳴り方など、唸ります。
最新盤よりゲルギエフ。かれの目指していたものも、基本的にはスヴェトラーノフと変わらないと強く感じた演奏。ロッテルダムフィルよりの応援を得て吹奏されるラストの強烈なまでの音圧には、参った。背筋がぞくぞくしました。実演で聴いてみたい。
コンドラシンの全集はいまとなってはかなり古いものだが、演奏そのものは、彼らしい微入細穿のもの。楽譜を読み切り、再現をする。この演奏は、やはりすばらしいものです。
現在のところ、ムラヴィンスキー唯一のレニングラードの録音は、1953年のモノラル。ステレオがあったならば究極の名盤となろうものだが、モノラルでもその凄さがビシビシと伝わってくるのだから恐ろしい。ここでムラヴィンスキーがもの云わず棒で訴えているのは、烈火のごとき怒り。この7番も、伝説の演奏です。
以上の演奏は、曲ではなく演奏に感動したものです。この曲をよくもここまで〜〜(T-T)
ま、鳴らしゃいいってもんでもないですが……。
その構成的弱点をあえて把握した上で、これは交響曲というより誇大的な交響組曲であるという聴き方もあるのだが、組曲というにはやはり規模がデカすぎる。そのため、私は連作交響詩ということで良いような気もするが。それにしてもねえ……(笑)
この交響曲を聴いたあとの独特の悲哀感のようなものはなんだろうか。かつておつきあいのあったとあるサイトの方が、それを 空疎 と表現した。ううむ、なるほどと唸った。このウンザリ感、脱力感、何かしっくり来ない後味。
そうか、これは空しさだったのか。
何に空しいのか。あれほどまでの音圧を使用してまで表現したのは、戦争の空しさ。ファシズムの空しさ。そして、もちろん、共産党独裁の空しさ……。
それをショスタコーヴィチが、あえてこの巨大な疑似讃歌に込めたとしたら……。
私は空恐ろしくなった。ショスタコーヴィチという人間とその才能が。
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