第9交響曲

 
 ショスタコーヴィチの「戦争3部作」たる交響曲7〜9番において、最大の肩すかし、究極のおふざけ、最高の悪巧み、ウルトラ傑作なのが、ラストを飾る第9交響曲。ソ連民衆と当局は、戦争の集結を記念し、合唱入りの超記念的大々交響曲を「期待」していた。のが、このありさま。30分程度、ディベルメント的軽交響曲、軽妙で小洒落た曲風。

 内容的には、ショスタコーヴィチの良いところが随所に現れ、しかも無理も無駄もない、とてもすばらしいものです。エッセンスというべきか。肩肘はらずに聴ける分、7番などよりもぜんぜん良い。外観では小交響曲といってもよいのだが、相変わらずの斬新な書法、擬古典的な響き、長いソロイズム、リズムの饗宴、そのどれもがまぎれもなくショスタコーヴィチの特徴を示していて、外観だけ大きな大交響曲よりも、ずっとずっと「大」交響曲だと思う。
 
 録音は、残念ながら、そう多くありません。人気がないのかな?


 ゲルギエフ/キーロフ管
 スヴェトラーノフ/ソビエト国立響
 コンドラシン/モスクワフィル
 テンシュテット/北ドイツ放送響(海賊)
 ケーゲル/ライプチィヒ放送響(海賊)
 
 原則、海賊は控えるということにしているのだが、他にたいした物もないし、内容がすばらしいので、あえて2点、入れさせていただきました。


 2004年現在、もっとも入手しやすく、かつ演奏も最高クラスにすばらしいという事で、ゲルギエフをまず挙げてみます。5番とのカップリングで、5番のほうが評判が高いような雰囲気だが、まったくちがって、9番のほうがぜんぜん良い。テンポはかなり遅めで、特に1楽章はじっくりと鳴らす。正統派ながらも、コッテリとした内容が良いです。


 スヴェトラーノフが意外と、重いというよりかは、速いテンポで激しい。ゴーゴーと鳴り渡る弦、ガーガーと響きわたる管を聴いていると、一般的な見方ではけっこう室内楽的な響きがするはずの9番がまるで7番や5番と同じく聴こえる。ああ、ショスタコーヴィチの交響曲なのだなあ、ということか。そういう意味では。じっさい、9番は厚みが無いだけで書法的には立派に大オーケストラ的なものです。むしろ、1番はまったくほんとうに軽交響曲で、4番、15番のほうが、厚みはあるが書法的には室内楽的なものが多用されている。(まして14番たるや……。)


 コンドラシンも急発進でスタートし、けっこう速めに演奏している。そういうほうが味が出ると思っている様だ。結果としては、どっちもどっちなのだが。この人の指揮らしく、弦楽が特に迫力がある。テンポも良く、録音が少々古いが、それを我慢すればとても面白い。


 テンシュテットのレパートリーは意外と広いが、ショスタコーヴィチはいまのところ5番とこの9番のみ。非常にシンフォニックで、もっとも堂々とした、さらに不安げな部分やふざけた部分が最高に強調された、マーラーのようなショスタコーヴィチ。しかも9番。そのギャップがうれしい。2楽章のモデラートは特にアンダンテにまで発展している! その後のプレストの豪快さと皮肉! 管打楽器の迫力も凄い。私はコレがもっとも好き。8番とか4番とか演奏してほしかった! ラストはまさに狂乱! こんな9番、他に聴いたことなし。

 盤によっては音質に差があって評価が分かれるところだと思います。


 ケーゲルはかなりアクの強いもので、テンポは遅めだと思うが、最終楽章などは起伏が激しく、テンポも超速、不協和音も強調されて、かなりショスタコーヴィチの斬新性を表に出している。ラストの追い込みも激しい。ケーゲルらしいというところか。

 この2点はなぜ正規盤で出ないのか不思議。
 



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