交響詩「ナイチンゲールの歌」
 

 ハルサイやペトはまあいいとして、3位がこれですか!?

 と言われそうなこのマニアックな選曲。

 でもですね、この曲、面白いんです。
 
 同名のオペラ(1幕50分物でたいへん短い)から選ばれた音楽で、ストーリーは……。
 
 中国の皇帝が、平民を癒しているナイチンゲール(小夜鳴き鳥)を召し出して鳴き声を楽しんでいると、日本の皇帝(天皇)から機械仕掛けのナイチンゲール(メカナイチン)が送られてくる。鳴き比べをさせると本物のナイチンゲールは逃げてしまった。皇帝は怒り、以後、メカナイチンを宮廷専属のナイチンゲールとする。しかし、皇帝は病気になってしまう。メカナイチンも壊れてしまい、精密機械の悲しさか、誰も直せない。皇帝は死の床に臥す。死神の歌。そこへ逃げた本物のナイチンゲールが帰って来て、鳴き声で皇帝は癒され、平癒する。

 こんな具合だったような。
 
 オペラは、第1場を作曲してから中断して、ずいぶん後になって第2幕以降を書いているため、全曲のオペラを聴くと1部と2・3部で本当にチグハグです。

 んなわけで、交響詩ですが、これはほぼ後半の音楽だけで構成され、チグハグさは無いです。
 
 1曲1曲をみると時間とかでアンバランスですが、全体としては20分ほどにまとまってます。あからさまな「チャイナさ〜ん」という中国音階が楽しいし、それがまたストラヴィンスキーふうにぐいッと捻ってあって面白い。京劇のようなチャンチキさは無く、そこはフランス風に料理されている。終結和音を伴った劇的なトゥッティが無く、常にフワフワとした夢幻感に包まれていて、童話を基にした幻想オペラの味をただよわせている。絶妙に各楽器が鳴り合う独特のオーケストレーションはまさにストラヴィンスキーの真骨頂。

 さいしょの10分間ほどは宮廷の騒がしい導入音楽、宮廷への行進とそれにナイチンゲールの歌の場面で、動きがあるしチャイナさ〜んなので楽しいですが、後半の10分弱は急に静かで暗いものになり、つまらないかもしれません。
 
 でもここは物語の重要な場面、日本からの使者が「叫ぶように」献上するメカナイチン(バイオリンの甲高いヒステリックな音形)、それに続くメカナイチンのカクカクした奇妙な歌(主にオーボエ)、本物のナイチンゲールが逃げてしまい、憤る皇帝(ティンパニを伴った中国音階)、死の床に伏した皇帝の場面で、皇帝の過去の仕業を思い出させる死神の歌の様子(静かで不気味な部分)、皇帝はまだ死んでないのに葬式の準備を始めたりする廷臣たち(テンポが倍の中国の行進の部分)を表す場面です。

 皇帝はナイチンゲールの鳴き声で平癒し、最後に、また平民たちのところへ戻ったナイチンゲールを迎える漁師の歌(トランペット)が静かに鳴って、終わります。
  
 マイナー曲ということで解説を先にしましたが、けっこう、3大バレーのオマケで、CDには入ってますので、耳にしたことがある方はいると思います。ベスト5を選んでみたいと思います。
 
 1.ドラティ/ロンドン響
 2.レヴィ/フレミッシュ放送交響楽団(SACD)
 3.ライナー/シカゴ響(復刻:SACD)
 4.ブーレーズ/フランス国立管
 5.ケーゲル/ドレスデンフィル
 
 それぞれ、趣のあるいい演奏です。こういう曲をわざわざとりあげるというのは、指揮者や企画者の見識ですので、そんなにハズレは無いと思います。
 
 作曲者は中途半端なオペラよりもこの演奏会用の交響詩が好きで、来日公演でも取り上げています。録音は残念ながらありません。

 ドラティは、なんといってもスリリングさでダントツです。弦の軋みあいといい、菅打のインパクトといい、ペトリューシュカや、飛躍するとバルトークの「中国の不思議な役人」につながる不気味さがあります。

 レヴィはSACDの特性を出し切ったような、テンポが遅めで究極に内部燃焼したような、ドラティほどの辛辣さは無く、遅効性の毒がじわじわと効いてくるような演奏。響きがよく、構図が分かり、やもすると拷問のように聴こえるほど深遠です。

 ライナーはBMGの復刻盤ですがなんとSACD。音質は最高にリアルだが音そのものはなかなか古めかしい(1956録音)という奇妙な響きになっています。当時のLPってこういう気分なんでしょうか。演奏は、アメリカらしいドライでかつエンターテイメント性に満ちた独特のもので、ある意味ストラヴィンスキーらしい非情緒性が認められます。
 
 ブーレーズは旧録です。楽器の1種1種が際立つバツグンの解釈は、聴いていて楽しいですし、スリリングさもあります。中国情緒・異国情緒に主観をおくデュトワやマゼールも良いのですが、一歩踏み込んだ奥の深いものです。「フランスのエスプリ」などという枕詞もでてきそう。
 
 ケーゲルはトラックのない1曲モノ。フランス風の洒脱があるとなお良い音楽にはちょっと冷たすぎるかもしれませんが、録音があるだけましでしょう。テンポはけっこうゆっくりめで、ていねいに旋律やあくまで異世界としての客観的な情緒が描かれています。全体としての調和や、雰囲気の統一に努めていると思います。 


 あと、おもしろいのが、この交響詩はCDによって、曲のタイトルもトラックの分け方もトラックのタイトルもバラバラなんです。スコアは見たことがないので、専門家の方はどう認識しているのか知りませんが、参考に手持ちの7種類を分類してみます。

指揮者 タイトル トラック数と小タイトル
ドラティ 交響詩「うぐいすの歌」 1.導入部
2.中国の行進曲
3.夜鳴うぐいすの歌
4.機械の夜鳴うぐいすのゲーム
ブーレーズ(旧) 交響詩「うぐいすの歌」 1.シナの行進曲 
2.うぐいすの歌 
3.機械仕掛けのうぐいすの演奏
ケーゲル 交響詩「うぐいすの歌」 ナシ(ワントラック)
マゼール 交響詩「ナイチンゲールの歌」 1.プレスト
2.中国の行進曲
3.ナイチンゲールの歌
4.機械仕掛けのナイチンゲールの演奏
アンセルメ 交響詩「うぐいすの歌」 1.導入部
2.中国の行進曲
3.うぐいすの歌
4.機械うぐいすの演奏
デュトワ 交響詩「うぐいすの歌」 1.中国の皇帝の宮殿の祭り
2.2羽のうぐいす
3.中国の皇帝の病気と回復
ライナー ナイチンゲールの歌 1.プレスト
2.中国の行進曲
3.ナイチンゲールの歌
機械仕掛けのナイチンゲール
  4.機械仕掛けのナイチンゲール
5.本物のナイチンゲールが去ったことへの皇帝の怒り
6.皇帝の病室
7.本物のナイチンゲールが戻り死神の邪魔をする
8.葬送行進曲とフィナーレ
レヴィ ナイチンゲールの歌 1.プレスト
2.中国の行進曲
3.ナイチンゲールの歌
4.機械のナイチンゲールの歌
5.ラルゲット
6.ピアニッシモ
7.トランクィロ
ヤルヴィ ナイチンゲールの歌 1.プレスト
2.中国の行進曲
3.ナイチンゲールの歌
4.機械のナイチンゲールの歌

 デュトワだけぜんぜん趣がちがいますが、作曲者自身のピアノ編曲版にある序文をそのままもってきているとの事です。(曲の切れ目も上記とぜんぜん異なってます)
 
 ライナーはなんとトラックが8つもあります。レコードのときからこうなのかは知りません。(レコードにトラックはありませんが。)本来の4つの分け方の他に、4つめの「The Mechanical Nightingale」をさらに細かく分けているのが分かります。

 レヴィは途中から速度表記等でトラックわけしてます。なんでだろ。
 
 また、英題は「ナイチンゲールの歌」なんですが、ナイチンゲールは日本では「夜鳴きうぐいす」「小夜鳴き鳥」といわれていますが、ウグイス(ウグイス亜科)とは別種の鳥で(ツグミ亜科)、それを元に正確にいうのならタイトルは「ナイチンゲールの歌」だと思います。

 しかし、舞台は中国であり、登場するナイチンゲールは実はナイチンゲールではなく中国産コウライウグイス科の「コウライウグイス」であり、それはウグイスの一種(全長26センチもあるそうです!)ですので、意訳で「うぐいすの歌」でも良いのかもしれません。
 
 ですが、歌劇盤のコンロン/パリ国立歌劇場管のCDによると、元になったアンデルセン童話のタイトルも「ナイチンゲール」であり、童話の日本語版もその通りなので、「ウグイスの歌」という訳は忘れたほうが良いとのこと。

 いろいろあるようです。 

 ちなみにフランス語のロシニョールが何なのかは知りませんが、たぶんナイチンゲールの事だと思います。
 


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