歌と踊りによるブルレスケ「狐」


 これは「兵士の物語」時代の、戦争(第一時世界大戦。)の影響によって小編成の作品を書かざるを得なかったときのもので、室内楽と2バス・2テノールのための作品。舞台作品だが、舞台上の登場人物はパントマイムをするだけで、歌はオケピットに入った歌手が歌うのでオペラではなく室内カンタータといえるらしい。(兵士の物語と同じ形式)
 
 物語は狡猾なきつねが雄鳥をねらい、他の動物や軽業師にやっつけられるというもの。ふつうフランス語だが、英語の録音や、原語ロシア語のものもある。
 
 15〜6分ほどの作品で、特に音楽的に奇抜なことは無いのだが、この時期ストラヴィンスキーはハンガリーの民族楽器「ティンバロン」の名手に出会い、その響きに魅了された。ティンバロンは打弦楽器の一種で、打楽器のように両手に専用のマレットをもって、むき出しの弦を叩くもの。コダーイが「ハーリ・ヤーノシュ」で使っている。
 
 ティンバロンはその独特の音色を民族にではなく現代的に扱われて、ジャロロロン……と、乾いて不気味な響きになっている。琴のようにも聴こえ、異国情緒もかもしだし、さらにはきつねの狡猾さも表している。また、名手と出会ったのに合わせ、グラスという、ロシアの古い民族楽器の音色を再現するのにも、ストラヴィンスキーはティンバロンを使ったそうです。
  
 佳作だが、興味深い重要作でもあり、楽しい一編の音楽絵巻でもある。
 
 15分間一気に聴かせる勢いも嬉しい。 
 
 1.アンセルメ/スイスロマンド管(英語)
 2.サロネン/ロンドン・シンフォニエッタ(ロシア語)
 3.ストラヴィンスキー/コロンビア響(何語かわからん)
 4.コンロン/パリ国立歌劇場管(ロシア語)


 アンセルメはなんといっても初演者の強み。リズム捌きが見事なだけでなく、なんともいえぬ味がある。(アンセルメの新古典主義モノは本当にすばらしい。プルチネッラや兵士の物語とかも、リズムは走らずむしろ遅めでしかし躍進力の妙味があって最高だし、フレーズひとつとっても絶妙なニュアンスがある。)

 他にもブーレーズとか、あるようです。


 ごんぎつねではありません。



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