小オーケストラのための組曲1番・2番
 

 ストラヴィンスキーの小曲の面白さや重要性といったら、他の作曲家にはまず見られないほどに大きい。一般的な現象として、大曲が得意な人はあまり小品を書かないし(例えばあったとしてもブルックナーやワーグナーのピアノ小品や行進曲なんかどうでもいいシロモノだし)小品が得意な人の大曲は大して聴けたものではないのは(例えばリャードフの長い交響詩なんかはCDをかける時間のムダ以外のなんでもない)よくあることだろう。

 ストラヴィンスキーの面白いところは、もう、大曲・小曲・管弦楽・室内楽・原始主義・新古典主義・12音技法、どんな様式のどんな曲を聴いても、ああこいつはストラヴィンスキーなのだな、という如実な特徴が現れている事である。
 
 さらには、春の祭典・ペトリューシュカにも見られる強固な構築性が、たったの1分やそこらの作品にも見られて、それだけを並べても充分にアルバムたることができる。(MTトーマスの作品集・ブーレーズのストラヴィンスキー歌曲集等。)
 
 「花火」から「星条旗よ永遠なれ」から、室内楽では「新しい劇場のためのファンファーレ〜2本のトランペットのための」「パストラーレ」「無言歌〜2ほんのファゴットのための」、楽しみはまさに無限。歌曲も小品が多い。管弦楽での小曲まである。「管弦楽のための4つの練習曲」に、12音技法のいろいろな作品、また、協奏曲の数々。
  
 話はズレたが、そんな小品群の中でも、特にこの小管弦楽のための組曲は楽しめるものだと思う。
 
 1曲で1分とか数分とかではなく、組曲となっていて、ある一定の時間をいろいろな形式の音楽で楽しめるし、それが連続して1組が4曲、2組が4曲も楽しめる。 

 また、ストラヴィンスキーは編曲が大好きで、自分の作品、人の作品、好き放題に編曲して、同じ曲でもいろいろなバージョンが存在する。それは規模が小さくて編曲しやすい小曲に顕著で、小品があふれる結果にもなっている。
 
 そして、この組曲も、編曲作品で、彼は非常な編曲魔だったことが分かる。

 元になったのは、ピアノ連弾用の「3つのやさしい小品」と「5つのやさしい小品」の2曲。あわせて8曲を、2つの組曲で4曲ずつとして、室内オーケストラに編曲している。

 第1組曲 「アンダンテ」「ナポリターナ」「エスパニョーラ」「バラライカ」
 
 これは、1曲目をのぞき、みな各国の舞踊曲なのにお気づきだろうか。しかし、旋律的な意味でのそれとは異なり、リズムのほうにその作曲精神が強く置かれている。全体では静かな印象で、アレ? という内に終わっているかもしれない。
 
 第2組曲 「マーチ」「ワルツ」「ポルカ」「ギャロップ」
 
 こちらのほうが、組曲として古典的な性格かもしれない。また構成的にも、より完成度が高い。音楽的にも、遊びの感覚・寓話的創造性が強い。マーチは勇ましいものではなく、変拍子の不思議な感覚。ワルツは手回しオルガンをイメージしている。ポルカは広場の小僧がヤーイヤーイというのをトランペットの楽しげな旋律が表している。マヌケな曲だが技術は高い。ギャロップはシンバルとバスドラムの強烈な一打。トリオ部はテューバとトランペットの奇妙だが楽しげなデュオ。ダルセーニョして一気に終わる。
 
 これも録音は少ないなあ。楽しい曲なのになあ。
 
 1.アンセルメ/スイスロマンド管
 2.ケーゲル/ライプチィヒ放送管弦楽団
 3.ホグウッド/バーゼル室内管弦楽団
 4.ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
 

 

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