イベール(1890−1962)
イベールに(標題)交響曲があったなんて、その曲が入っているCDを10年以上所有しておきながら最近(2011)知った(笑) イベールは日本では15分ほどの組曲「寄港地」だけで語られる嫌いもあるが、意外と作品集もたくさんあって、もっと聴かれても良いと思う実力ある作曲家である。メジャー指揮者ではマルティノンやデュトワが個展を残している。フランス6人組と歳が近いが、彼らとは一線を画している。フルート協奏曲は高名だし、「バッカナール」のはじけっぷりも素晴らしい。皇紀2600年祝典曲の「祝典序曲」も力作だ。交響組曲「パリ」も瀟洒で、劇付随音楽から編まれた室内管絃楽のための「ディヴェルティスメン(ディヴェルティメント)」も面白い。「架空の愛のトロピズム」という不思議な作品もある。(以上管絃楽曲)
海の交響曲(1931)
この標題交響曲は、本来なら映画音楽組曲あるいは映画音楽由来の交響詩としてまとめられるものを、出版の際に「海の交響曲」というタイトルとなった。イベールはオネゲルと並んで、フランス(いや、ヨーロッパでも)最初期から映画音楽をてがけていたが、これは「S.O.Sフォック号」という短編映画の音楽だったものを、交響的作品としてイベールが編曲したものである。
映画は遭難したフォック号をフランス海軍の巡洋艦が嵐の中救出するというもので、カッコイイ音楽がつけられている。イベールは演奏を前提としていないで書いたようなのだが、没後にミュンシュがこの題で出版して初演した。従って、元の題は分からない。また、「S.O.Sフォック号」を観ていないので、映画音楽がほぼそのまま用いられているのか、映画音楽に由来する主題から編曲されているのか、それも不明である。
15分ほどの音楽で、上記の通り交響曲というよりかは、映画音楽からの自由な編曲作品である。
サックスの官能的で頽廃的な響きに導かれ、一瞬の静寂の海原は、次第に荒れ狂ってくる。アンニュイなサックス独奏がなんとも趣がある。まあ、ドビュッシーの海っぽい雰囲気であるといえばあるのだが。
それを破るのが、ファンファーレから行進曲調による巡洋艦の出撃。(か、どうかは分からないけど。)
サックス独奏も激しくアレグロになる。その音形をファゴットや絃楽が受け継ぎ、どんどんと波を超えて突き進んで行く。その中にも、小洒落た感覚を失わないのがフランス音楽の正統たるイベールの仕事である。
けど、それがずーっと続く。どこまで進むんだ(笑) フォック号ってどこで遭難してるんだろう。
と、やおら静かになり、サックスの官能的なソロが戻って来る。もしかして……もしかしてこれは、もう救出し終わったのだろうか(笑)
パパーンと祝祭的な音楽が鳴り、そのまま終わる。どうも、救出は成功したようだ(^^;
終始軽くて効果より音楽優先のような響きが、またなんとも最初期の映画音楽がまだ劇音楽やバレー音楽との境が無かった事を示唆させて興味深い。
オマケ
ボストニアーナ(1955)
ボストン交響楽団75周年記念の委嘱で、イベールは本式の交響曲を書こうとしていたのだが、長時間作曲に費やし、結局、完成させる前に死んでしまった。完成していたのは、第1楽章だけだったという。それを惜しんだミュンシュが、「ボストニアーナ」というタイトルの管絃楽曲として、第1楽章のみを出版し初演した。
成立の過程から海の交響曲より、こっちのほうがよほど真の交響曲であろう。
6〜7分ほどの楽章で、今となっては単一楽章。
ティンパニの強烈な一撃から、イベールとは思えぬ辛辣で衝撃的な展開に。その序奏から、半音階進行と不協和音バリバリのオネゲルみたいな激しい主題が現れる。第2主題はテンポが落ち着いてから、絃楽によってアンダンテぎみに提示される。やはりシリアスなもので、すぐに金管が受け継いで、ティンパニも登場し盛り上げる。フルートのテーマもアンニュイだが、次第にテンポよく大きく盛り上がってゆき、最後の和音で一気にイベール節に。
全体にとても激しく尖鋭な響きが印象的。これに続く交響曲が完成してきたら、名曲になっただろうなあ、と強く思う。
なお作品表によると、他に「オーボエと絃楽合奏のための協奏交響曲(1948)」という作品が認められる。
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