南 弘明(1934− )


 東京藝大の先生だった南は普通の管弦楽や合唱も書くが、アナログ時代からの電子楽器の探求者らしい。アナログのシンセサイザーなんてあなた、何音しか出ないのにでかい家具ほどの大きさがあって、しかも値段も今で云うと1000万円ぐらいもした……らしいです。吉松隆が云うには(笑)

 12音技術が未来の音楽語法ということでソフト的な未来音楽だったとすると、まさにハードの面から未来を切り開く画期的なマシーンとして登場したであろう電子楽器はしかし、クラシックではまっッッたく普及せず、ロック・ポップス分野で大きく花開いたのは皮肉というほかはないだろう。

 けっきょく特殊楽器も含め、生オーケストラこそが究極の音響合成マシーンであったという事実は興味深い。(だからその語法を客観的に探求できる交響曲って面白い!)

 さてそのような中で、南の書く電子交響曲はどのように位置付けられるのか??


第3電子交響曲(1987)
  
 1番と2番はアナログ時代の作品だそうです。いまでは演奏不能ということか。3番からが、デジタル楽器を使用とのこと。まあようするにシンセなんですが。いまでこそヤマハだのローランドだのの電子ピアノや電子オルガンが安価に普及し、あまつさえ、電子弦楽器に電子管楽器に電子ドラムすらあるのだが、1970年代当時としては目新しい試みだったにちがいない。
 
 将来的には打楽器も次々と電子化され、電子ティンパニや電子マリンバ、究極は電子カスタネットに電子マラカス、電子トライアングル、電子タンバリン、電子鈴と……どんどん無意味になっていってほしい。たぶん最後は電子饅頭までゆくでしょう。

 さておき電子交響曲は3楽章制で、内容は未来的でも形式的には古典的だから面白い。だいたい、電子音楽でわざわざ作成する音楽がクラシックの権化「交響曲」だという時点で、本当は矛盾するのだが、その矛盾こそが楽しいし、芸術の醍醐味なのではないだろうか。中身がそれに伴うかどうかは、別の問題でしょう。

 昭和62年(1987)東京芸大創立100周年の為の作曲らしい。
 
 第1楽章はノイズ音楽によるもので、まあこれは、銭湯で人々の発する音が入り交じったらこんなふうに聴こえるという感じ。むかしの万博にありがちな音楽というか。……音楽なのか? 音楽なのだろうなあ。
 
 第2楽章はいちおう「緩徐楽章」だそうです。どういう理論で作曲されているのか非常に興味がある。素人が適当にシンセを鳴らしてもこんなのができそうに聴こえるが、きっとちがうのだろう。12音?

 第3楽章は、人間による楽器演奏では不可能な速度だそうで、超プレスト。そういう意図がちゃんとあると、電子楽器も価値が出てくるだろう。

 ……とは聞こえが良いが(笑) 意図はあっても意味不明。うーーーん……私が保守的なのかなあ。宇宙戦艦のほうのヤマトに、敵の惑星に着いたらこんな音が鳴っていたような気がする。もっともあっちのほうがアナログだったが。この電子音で「人では演奏不可能な」と云われても……。不可能にきまってる。


第4電子交響曲(1991)

 さて4番(1991)では、ついに人間の演奏ではなくコンピュータソフトによる自動演奏になってしまう。現代では作曲ソフトの電子音ですらだいぶん生音に近づいてきているのに、機械に電子音楽を演奏させる意味はすっかり無くなってしまったように感じるのは私だけだろうか。

 3つの楽章が、ミクロコスモスを表現している。各楽章にはそれぞれ作曲者により内容が示唆されているが、惑星や星雲の具体的描写では無いという。

 第1楽章 爆発を繰り返す小宇宙
 第2楽章 さまざまな光を出す小宇宙
 第3楽章 拡散する小宇宙

 まあ、そんなような偶発的音色による音楽。ちょっと前のNHK特集のBGMの雰囲気。
 
 しかしウィンドウズ前のPC9801でよくこんなもの作ったなこの先生は。


第5電子交響曲(1998)

 平成10年(1998)の東京芸大の奏楽堂移転に伴い、新奏楽堂の開館記念演奏会において芸大の美術学部の先生のレーザー映像とのコラボレーションで発表されたとのこと。

 また小宇宙もので、同じくPC9801で動くソフトによって作曲されている。ウィンドウズになってからは、作曲はされていないのだろうか?

 第1楽章 未発達の小宇宙
 第2楽章 歪んだ小宇宙
 第3楽章 躍動する小宇宙

 使用した音源が異なる為音色は異なるが曲の印象は4番に同じ。

 個人的には最初期の「ティンパニと弦楽の為の交響曲」のほうが気になる……。






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