大島ミチル(1961− )


 いまや劇判の女王の地位を確固たるものにしている大島ミチルだが、まだ数は少ないが純音楽も手がけ、得意の旋律性でなかなか良い出来のようである。国立音大時代の若い時に交響曲を1曲書いている。これからはもっと純音楽を手がけるつもりだそうで、頑張ってほしい。

 なお、2015年に 交響曲第2番 since1945 が初演された。


交響曲「御誦」

 資料不足で作曲年代が不明なのだが、学生時代の作という事なので、1981〜83年くらいだと思われる。御誦は「おらしょ」と読み、ラテン語で祈りという意味のオラシオ(Oratio)が訛ったもので、長崎県生月島の隠れキリシタン用語だそうだ。長崎出身の大島が取り上げるべくして取り上げた主題と云える。2管くらいのオーケストラにピアノと混成合唱がついて、3楽章で17分ほどの曲。全体的には律動主義と平易な旋律性でオルフに作風が近い。また、共に長崎の隠れキリシタン主題を使っている点で、年も近い作曲家・伊藤康英の交響詩「ぐるりよざ」(1990)も彷彿とさせる。ぐるりよざのほうが圧倒的に知名度があるが、こちらが先。ちなみに「ぐるりよざ」という言葉も「おらしょ」とおなじく聖歌グロリオーザ(Gloriosa)が日本風に訛った隠れキリシタン用語であり、ぐるりよざは数あるおらしょの1つ。

 1楽章はいきなり主題が荒々しく歌われる。なんの「おらしょ主題」かは分からないが、原始的リズムが心地よい。民謡風の味付けに現代的な装飾もいい。壮大に盛り上がって後、静まってバス独唱から「アヴェ・マリア」が切々と歌われる。それからまた冒頭のアレグロがコーダで現れ、かなりオルフ的な詠唱で短く幕を閉じる。7分ほど。

 2楽章は5分ほどの緩徐楽章で、伊藤の「ぐるりよざ」の第2楽章と同じく、おらしょ「さん・じゅあん様の歌」主題が使用されている。というか静謐な管絃楽を伴奏に混成合唱がそれを歌う。

 あー前はな前は泉水やなあ
 後ろは高き岩なるやな
 前も後ろも潮であかするやなあ

 あーこの春はな この春はな
 櫻な花かや 散るじるやなあ
 また来る春はなあ 蕾(つぼむ)開くる花であるぞやなあ

 リフレインされて盛り上がり、切なく、そして力強い。

 ただし、曲としては、まあそれだけの歌曲である。

 3楽章は5分ほどの強烈な民族的アレグロ。打楽器はピアノも激しい。合いの手も気持ちが良い。この澄んだ旋律は既に大島節。ソプラノソロと合唱がおらしょを歌う。これも何のおらしょか不明だが、歌い方がやはりオルフ調である。コーダでは大きく讃歌として盛り上がって、壮大なオラトリオと化す。

 全曲に渡り主題の展開はほぼないに等しく、管絃楽法もおおざっぱで、技術的には拙いが、パッションが素晴らしい。学生が書いたにしては、かなり良い出来。


 未CD化なのだが、なんとニコニコ動画にLPの(?)ライヴ音源がアップされていて吃驚仰天。時代だなあと感じ入った。

 交響曲「御誦」 第1楽章 第2楽章 第3楽章

 





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