山内 正(1927−1980)
「やまうち」ではなく、「やまのうち」ただし である。
略歴によると、学生時代にはヴァイオリニストを目指していたが、戦時動員の勤労奉仕で演奏しすぎて指を痛め、演奏家を断念。その後、作曲家に転じ、1953年(昭和28年)に伊福部昭に師事。その後は、バレエ音楽や室内楽などで多数の純粋音楽を書く一方、テレビドラマ「ザ・ガードマン」や怪獣映画「ガメラ」のサントラなどを手がける。
1980年(昭和55)年に心不全で死去、とある。
伊福部には高名なお弟子がたくさんいるが、当然、無名の人もいる。無名ながら、実力あって良い仕事を残している人もいる。この山内という人も、その中に入ってよいだろう。
陽旋法に拠る交響曲(1961)
山内の楽壇デビュー作品で、日本を素材としたオーケストラ作品懸賞のTBS賞に入賞したもの。アカデミックな音楽教育を受けていない山内であるが、その、旋律性、構成力ともさすが受賞するに値する力量を持っていると思う。3楽章性で、演奏時間も30分程もある立派な交響曲。
このTBS賞というのは、当時(いまもだが)楽壇を席巻していた無調あるいは無国籍の音列音楽に対抗して、日本を素材に、ということで、いかにもいわゆる民謡クラシック的なものを想像しがちであるが、それでは素材に、とはゆかない。題材に、といったところだろう。素材というからには、現代音楽の技法を持って料理しなくてはならない。今回、TBSヴィンテージJクラシックスが日の目を見たことにより、けっこう現代的な曲が入賞しているのが分かった。
この、陽旋法というのは、調べていただければ私などよりずっと詳しい方がいろいろと専門的な解説をしているのでそちらを参考にして頂きたいが、日本の伝統的な民謡・俗楽の五音音階の一種で、半音を含まないもの。半音を含むものを陰旋法という。
つまりここでは、交響曲の主題を作製するのに、日本の五音音階の一種を使いましたよ、ということになる。特段、民謡を直接的に用いたものではない。
1楽章はソナタ形式。低絃から始まり、木管とホルンが答える第1主題。全音階の五音階で進む鄙びた感じが陽旋法ということだが、この部分では特に日本的という感じはしない。それは、意外と旋律が西洋風だからだろうか。しばし第1主題を取り扱って盛り上がると、やおら終結して牧歌的とも云える木管による第2主題。展開部では執拗な動機の反復に旋律がからんできて、それぞれの主題の断片や変形が細かく絡み合う、なかなか技巧的なもの。それが、それとなく盛り上がって(あまり西洋的にババーン! とはならない)、静かに終結する。
2楽章は複合三部形式。これまたずいぶんと鄙びた、いかにも山奥のムラの情景といった旋律が細かく反復される。全音階で作られているはずなのに、どこか半音進行にも聴こえる不思議。技術的に詳しいことは分からない。中間部で夜の雰囲気といった短調のような部分になって、冒頭に戻る。第3部は冒頭の単純な再現ではなく、書法が拡大されている。鄙びているけれども、どこか無人の村のような不気味さも感じさせる。
3楽章、これも複合三部形式。土俗的だが軽いノリの打楽器アンサンブルより始まり、金管の陽気なファンファーレがからんでくる。どこかラテン的ですらある。すべて日本的な旋法で主旋律が作られているものの、西洋楽器によるので、やはり西洋の田舎のような感じもして面白い。中間部ではオスティナートで旋律の一部が繰り返されて発展してゆく。後半では冒頭の打楽器とオーケストラのかけあいが戻って、やや長い打楽器ソリから、終結部へ向かって、短い動機が突如として現れて終わる。
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