ティケリ(1958− )


 メールにて keigo様よりご紹介いただいたアメリカの作曲家、フランク・ティケリ。アメリカの作曲家、特に現代の作曲家はまったく門外なので、いろいろな方にいろいろと教えていただいて非常に助かる。もっとも、吹奏楽などのアメリカの現代作曲家は交響曲を大量生産しているので、とても追いつけない。

 ティケリは現在、南カリフォルニア大学の作曲科助教授とのことである。オーケストラ、吹奏楽、室内楽、コーラスと作品は幅広い。交響曲は2017年執筆現在で、オーケストラで第1番と3番「海岸」、吹奏楽で第2番の3曲がある。YouTubeにおいて、主に2番を聴くことができる。


第1交響曲(2001)

吹奏楽版

 本来はオーケストラのための曲だが、作者の公式サイトに吹奏楽版の音源があったので、本来であれば本項にあっては単純な吹奏楽編曲は載せないが、参考までに記す。編曲は Gary D. Green である。オーケストラの音源はYouTubeに1楽章と4楽章をそれぞれ別の人がアップしてるのを見つけたが、2、3楽章は分からなかった。4楽章には、テノールもしくはバリトンにより独唱が入る。4楽章制で、約30分の曲。

 第1楽章は打楽器の印象的な導入より、短い動機が入れ代わり立ち代わり現れる。自由な形式で、サントラっぽくもなりつつ、また滑稽な雰囲気も見せつつ、様々に変化して行く。速いテンポにより幻想曲めいて進行するが、基礎主題のようなものが一定して流れているので把握しやすい。

 第2楽章は緩徐楽章。美しい旋律が流れるが、やはりどこか幻想的な雰囲気がつきまとう。鐘も鳴り、不協和音の厳しい旋律も響く。終結部においても鐘が鳴る。

 第3楽章はスケルツォに相当する速い楽章。不気味な立ち上がりから、打楽器も激しいアレグロが続く。主に金管が荒々しい主題を提示し、中間部では木管が地獄の運動会みたいなおどろおどろしい部分に突入し、速度を上げてコーダとなる。

 4楽章では、独唱が入る。テノールもしくはバリトンとの指定がある。日本語で資料が無いので、テキストは分からない。一転して穏やかな音調となり、ネオロマン的な、音階のしっかりとした古典的な音楽が展開される。後半は打楽器も入って、テンションもアップする。コーダは器楽のみで盛り上がって、ゆったりと夕日の奥へ消え入る。


第2交響曲(2004)

 これは、吹奏楽の為のもの。2006年にウィリアム・D・レヴェリ記念作曲賞を受賞。宇宙をテーマにしており、各楽章にはタイトルがある。3楽章制で、20分ていどの曲。このウィリアム・D・レヴェリ記念作曲賞は、2015年にはマッキーが交響曲「葡萄酒色の海」で受賞している。

 第1楽章「流れ星」

 1番と似たような導入。鋭い木質打楽器を伴って短い動機が音色豊かに流れる。三部形式。中間部はテンポが落ちかけ、音調が変わるがすぐにテンポアップして満天の星空のひろがりを感じさせるような音調となるも、すぐに冒頭の鋭い動機へ戻って終結する。終始スピード感を重視した楽章。

 第2楽章「三日月の夜の夢」 

 緩徐楽章。タイトルにある通り、夢幻の様子をしっとりと奏でる。木管を主体として、けして甘美な旋律だけではない辛辣な部分も現れるが、基本的に豊かで静かな情感を聴かせる、アメリカ音楽特有の楽章。アメリカの現代音楽界は、無調とか12音とかは、どこかに行ってしまっているのか。後半は不思議な感触で盛り上がる。これは、悪夢なのか? だが夢は再び落ち着き、まどろみの中へ消える。

 第3楽章「解き放たれたアポロ」 

 アメリカだから、アポロ計画のことなのだと推察。もしくは、太陽の神アポローンか。打楽器の緊張感と共に短い動機で導入となる。すぐに勇ましいテーマと共にアレグロとなる。しばしそのテーマで推移した後、曲調が変わって響きが厚くなり、ゆったりとしたテーマの中間部へ。しかし、伴奏として冒頭のテーマが背後に鳴る。いや、これは伴奏というより二重奏というか、対位法的なもの、というか。冒頭へ戻り、中間部も小展開しつつ繰り返してコーダへ。打楽器も盛り上がってフィナーレとなる。

 正直、各楽章のタイトルは内容とあまり関係無い気がする。1楽章のみ、それっぽいが、標題というよりあくまでイメージ的なものかもしれない。






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