12/29

 マーツァル/チェコフィル マーラー:7番(2007 Session&Live)

 マーツァルのシリーズは凄く旋律を歌っていてとても良いのだけど、どうにも微妙な遅れというか、すべてのフレーズやアンサンブルの 「ひきずり」 が気になって、全体に重いとかガクガクするとかいう印象につながり、マーラーのオーケストレーションの機能美やその再現が重視される現代には合わないなあと感じていたので、特にそういう傾向が強い7番にはあまり期待していなかったのだが、とても良かった(笑)

 いや相変わらず鈍い指揮に鈍重なオケ(チェコフィルがまた律儀にその指揮に合わせている。)のだが、リズムと旋律の歌い方が絶妙なので、一昔前の7番によくあったおどろおどろしさや、朴訥とした歌い回しがSACDの音質で再現されなんとも魅力的に。下品一歩手前の懐古的な良さがある。

 特に2・3・4楽章が粋な表現。旋律は楽しげで、なんといっても朗らか。3楽章も不気味ではあるが人情味がありアナログな情感が良い。それでいて音が良く、楽器のバランスは客席というよりステージの中にいるみたいなので、どうか分からないが、ふだん聴こえにくい楽器も聴こえて面白いと思う。1楽章も良いけどちょっとまだ鈍い。

 (そこらへんは 「CDを聴く」 面白さですね。コンサート会場とCDをいっしょに考えて音響がとうのとか楽器間のバランスがどうのと云う人がいますけど、そもそも聴き方楽しみ方が違うまったくの別物ですよ。)

 とにかく流れに澱みが無い。重いのと澱んでいるのとは異なる。そうなると重さというのは重厚な、という褒め言葉と共に良さとなる。しかも弱音の「タメ」も絶妙。4楽章とか。好み。

 5楽章も元気よい。そしてノリノリ。5楽章でリズムが悪いのは地獄。そしてこの演奏は天国! 第1主題部トロンボーンよっしゃ!

 その後も曲独特の長さは当然あるものの(w) 最後までノリは衰えず、緊張感や解放感も弛緩しない。よく分かっている。素晴らしい。

 7番はマーツァルが得意のナンバーだったのかも。○4半。今まで聴いた(4、5、6、7、9)の中でいちばんイイ。


12/15

 ノセダ/BBCフィル マーラー:第10番(クック版)

 けっこう前に出ていたが、ようやく聴く。さいきんはクック版の10番もようやくメジャーになってきた感。

 とゆーか、なんかえらい久しぶりにCD自体を聴く。小品や旧譜とかはちょくちょく聴いてましたが……。

 全体的にザッハリヒに聴こえる演奏。1楽章も粘っこくない。もうちょっと緊張感や退廃感、耽美的表現があっても、1楽章は良かったかなあと、好みとして思う。しかし2楽章はゆっくりめで分かりやすく良い。アンサンブルがさすがに甘い。ちょっともやもやする。しかしうまく楽想をつないで演奏している。ここはもっとギクシャクする部分なのだけど……。

 3楽章の厭味たらしさはなかなか良い、良いぞwww 穏やかの中に刺さる心情。そしてこの短さ……はスケッチだからなのかどうなのか不明なので、なんとも云えませんが。

 そして件の4楽章……。

 
なんとスネア・シロフォンなし!!!

 (私のクック版のページ参照)

 ラトルのやり方を踏襲しているのだな。逆に衝撃的だ(笑) 演奏も良い。けど、後半はなんかダレてるな……。このダレ感はちょっと許せないかもしれない。ギーレンやラトルが神すぎるのだろうけども。

 録音が新しく良いので、打楽器アンサンブルもよく聴こえる。

 
バスドラ、テューバソロまで2回。

 これはスコア通り。ラトルとスコア通りの折衷である。

 それにしてもテンポが速い。

 冒頭部分はサクサク進み、タメが無い。フルートソロから、落ち着く。ここからはたっぷりと聴かせる。なんだ、ここまでの布石だったのか?

 しかし、やはり、どうしても切羽詰まったような緊張感が足りない。この曲はこんなサクサク進んで良い音楽ではない。朗らかな部分は良いのだが、衝撃的な部分が甘い。

 録音もいいし、★4つかなあ。いや、この緊張感の無さは3つ半。


11/7

 フェルツ/シュトゥットガルト交響楽団 マーラー:7番 2007ライヴ

 新進気鋭の1971年生まれの指揮者ガブリエル・フェルツが放つ瑞々しいマーラー。しかし解釈はなかなか思い切っており、特に旋律の伸びやテンポの凸凹が強い。アラフォーあたりの指揮では無く感じる。

 が、ウェブ評で云われるほど極端なものではなく、むしろふつうに面白い演奏の範囲内。

 1楽章から歌わせ方がうまく、派手さも無い。むしろ誠実な演奏に感じる。確かに、所々に妙な(?)タメがあるが嫌らしくなくむしろ好感的。これは意図的な演出の打ちで健全な方に感じる。

 2・3楽章から4楽章もむしろ順当。ふつうにうまい演奏。テンポの伸び縮みも自然だと思う。

 5楽章が、アプローチが攻め攻めでこれまでの解釈と方向性が少し異なる感じ。これはかなり面白い。5楽章を肯定的にとらえているらしく、純粋なお祭騒ぎにしているよう。この楽章はやはり演奏は難しく、技術的にもそうだが、構成にも気をつけないとただ騒がしく重い音楽をダラダラ続けているだけになりがちで、それを払拭しているのは素晴らしい。軽やかなフットワークも良い。
 
 というか速すぎるwww 突破と一時止揚の落差が激しすぎる。アドルノを否定しておいて、アドルノの術中にはまるアイロニー。
 
 まずまず良かったが、録音がかなり柔らかいのと、オケの技術も1流半ほどなので、★は4つ。


11/2

 テンシュテット/北ドイツ放送響/ゲルバーPf

 1979年4月23日のライヴだそうです。

 リヒャルト・シュトラウス:組曲「町人貴族」
 モーツァルト:ピアノ協奏曲26番「戴冠式」
 リヒャルト・シュトラウス:交響詩「死と変容」 

 現NDRの旧北ドイツ放送響とテンシュテットはあまり長い期間活動していなかったので、貴重な録音なのですが、仲が悪かったわりにすばらしい演奏ばかりなのが不思議というかなんというか。

 問題は、モーツァルトやシュトラウスの新古典主義とも違う復古典主義のような作品は、まっったくの範疇外なので、いいのか悪いのかよう分からん事ですわ。

 そうは云っても、町人貴族なんか時々鋭い表現も出てくるし、まあ面白といや面白いのだが……やっぱりよく分からない(笑) 曲としての魅力が……。演奏はうまいと思います。好きな人が聴いたら★5つと思いつつ、正規盤と比べたら音質がやはり少し悪いので4つ。

 モーツァルトは大時代的ではあるものの、古典派というと純粋に音楽というより音としてやたらとピュアにするのだけが価値と云わんばかりの最近の演奏よりは、しっかりと中身の詰まったもの。楽譜も違うんですけどね。(昔の楽譜)

 それでも26番の清楚で上品な雰囲気は良く出ている。テンシュテットは地味に協奏曲の伴奏がウマイんだけど、ウマイw

 2楽章が最高だ。ピアノもいい。これは★5つ。

 最後が死と変容。特にシュトラウスファンでなくば、マイナーなほうの交響詩かと思います。(他のCD-R盤に同じオケ同じライヴ年のものがありますが同じ音源かどうか不明)

 しかし激しい……このアレグロの呻きはなんとしたこと。冒頭の陰鬱とした表現も独壇場。同じ病人でも、このアレグロではケツに火がついて逆に元気になりそうだwww

 そしてその熱気は最後まで続き、いや、さらに炎の如く燃え上がる!!!


 
全 快 !!


 ★5つ。最後の浄化のテーマがまるで退院祝い(笑)


11/1

 テンシュテット/北ドイツ放送響 

 モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ序曲
 ブラームス:第1交響曲 L1979

 ドン・ジョヴァンニはセッション録音らしい。たぶん初めての音源。

 しかし、うーん、まさにベートーヴェンのようなモーツァルト(笑) 時代を感じるよぅ。序奏は大劇的だし、アレグロも激しい。★5つ。

 そして相変わらずマッチョで神経質なブラームス!(笑) テンシュテットのブラームスの1番はこれで5種類目。テンシュテットはブラームスの交響曲では2番だけないんだよなあ。

 1楽章冒頭は脳の血管が切れそうだし、展開の深刻な事といったらない。第2主題あたりでちょっと(ほんのちょっと)緩やかになるが、全体的に、カロリーがものすごく高いブラームス。枯れた味わいとか皆無(笑) 疾風怒濤の1楽章。

 2楽章の静けさもすばらしい。けして叙情に流されず、しっかりと音楽の基礎が立っており骨太なのもうれしい。これこそドイツ音楽という感じ。内声部も充実しきっている。

 3楽章の優雅さもさすが。他の演奏からはなかなか聴こえてこないハッとした音がさりげなく耳に入るのもテンシュテットらしい。目立たない音を絶妙にコントロールして面白さを際立たせているのだな。ちょっと違う曲に聴こえる瞬間すらある。

 4楽章は悠久の地平線すら見えるwww ブラームスなのにwww なにこのブルックナーやマーラーチックな巨大さは! (ブラームスとしてそれでいいのかどうかは完全に謎である……!!)

 やや録音がやはり時代的に悪いので★4半で。

 ブラームスの1番なんか年に1回聴けばいいけど、でも、名曲なのには変わりない。心からそう思える。


10/24

 マーラーの4番をまた。

 マーツァル/チェコフィル 2006年 セッションとライヴの合わせ録り。SACD。

 アンサンブルがややぶっきらぼうに感じるが、歌わせ方がさすが。時代がかったようにも聴こえるため、現在では好き嫌いが別れるかも。私は好きな方だが、新鮮味は無いといや無い。でも聴いていて、とても安心する。

 1楽章は活き活きとして、ちょっと走る(テンポではなく、勢いというか)やんちゃ演奏にも聴こえる。2楽章も同じくアンサンブルが雑というか、なんというのだろう、えいやって感じで一気に演奏しており、指揮者の寸分違わぬ合わせというより、そらそらどんどん歌いなさいとでも云わんばかりの突き放し型で、好みが別れるところか。楽器の1つ1つのバランスが悪いようにも聴こえるが、それは全体の音形より視点が近いせいかも。

 3楽章はかくやの歌わせ方で、これは良い。主題と変奏がしっかりと受け継がれて堅苦しくなく、マーラーのすばらしい旋律美を味わえる。のびのびとして解放感がある。

 4楽章のソプラノは元気いいなwww ちょっと芝居かかったようなハキハキした歌い方も、全体の味付けには合っている。個人的には、ここは清楚な方が好みですが……。

 ○4つ。好きな部類だが、こう、新鮮な背筋がゾクゾクするような感動はない。録音・音質のきれいさを加味して4つである。


9/27

 珍しくミヨー作品集。

 指揮と演奏はたくさんなので割愛w

 しっかし仏語のタイトルで日本語題を探すのに苦労した。作品番号万歳!

 参照 ミヨー作品表

 第1室内交響曲「春」 Op43
 第2室内交響曲「パスラール」 Op49
 第3室内交響曲「セレナード Op71
 第4室内交響曲〜10の絃楽器のための (ヴァイオリン4、ヴィオラ2が2、チェロ、絃バス) Op74
 第5室内交響曲〜管楽合奏のための (ピッコロ、フルート、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、バスクラリネット、ファゴット2、ホルン2) Op75
 第6室内交響曲〜ソプラノ、コントラルト、テノール、バス、オーボエとチェロのための Op79
 バレー「男とその欲望」 4独唱 12器楽 15perc Op48
 ピアノ協奏曲第2番 Op228
 ピエモンテ地方の民謡による北イタリア組曲〜チェロとオーケストラのための Op332
 
 バレー「屋根の上の牡牛」 Op58
 打楽器と小管弦楽のための協奏曲 Op109
 ヴィオラ協奏曲第1番 Op108
 組曲「家庭のミューズ」(独奏ピアノ作品) Op245
 エクスの謝肉祭〜ピアノとオーケストラのための幻想曲 Op83b
 
 室内交響曲は全て数分以内の音楽で様々な室内楽的響きが模索されている習作ぞろい。
 
 男とその欲望はウィンドマシーンまで登場するポリリズム全開の打楽器アンサンブルが面白すぎる(笑) 声楽はヴォカリーズで、オスティナートの効いた伴奏に乗る。これは踊りにくいと思われる。

 ピアノコンチェルトはジャズっぽい要素もあるミヨーらしい明るい佳品。ただし技巧派。

 一種のチェロ協奏曲のピエモンテは、民謡調の旋律を悠々と奏でるチェロに、ミヨー独特のオーケストラ伴奏がつく。こちらも明るい楽しい作品。

 屋根の上の牡牛ってこんな洒脱な音楽だったのか(笑) やっぱバーンスタインじゃダメだなw

 ミヨーの打楽器協奏曲は、数が在るのかないのか分からないけど数ある打楽器協奏曲の中でも相当秀逸な部類。打楽器がちゃんと「音楽」している。ただドンチンカンと叩かれるだけではない。リズムだけで音楽になる。すばらしい。一聴をお薦めする。

 ヴィオラ協奏曲は高い音域を自在に行き来するヴィオラが面白いが、音楽自体も叙情的かつ技巧的。数少ないヴィオラの協奏曲でも、明るい珍しい部類なのではないか。

 ピアノ組曲「家庭のミューズ」は、某世紀末叙情主義の人に似ている。あの人の作風はミヨー的だったのだなあ。吉松隆だけど。ミヨーをもっと叙情的かつ情緒的にしたのが吉松なのではないかな。

 エクスも面白い。この明るいキッチュは、逆説的にミヨーの辛辣な芸術を暴露している。


9/20

 ジンマン/チューリッヒトーンハレ管/オルゴナソヴァSp マーラー:第4交響曲

 相変わらずのSACD高音質だが、これはバランスもいいような。

 この4番は良い! バランス、歌い方、そして明快さ、すべてのレベルが高い。もちろんジンマンらしく現代的ななるべく感情を排した演奏だが、マーラーの書いた音そのもののの良さがスレートに来る。長い曲だとそれが逆に物足りなさに通じる部分もあるが、4番だと弛緩せずそれがうまく伝わる。

 1楽章からフレーズ完璧、流れもスムース、盛り上がりも良く、鳴らし方もゴチャゴチャせず明快明確極まる。理想の演奏。

 2楽章ではホルンソロの音量レベルが高く、デモーニッシュさも強調される。そもそも、全体的に低音が大きく、鋭く、4番が単なるリリカルナンバーではないことを示してくれる。

 3楽章ではやはり、中間部で淡々としすぎた嫌いはあるが、盛り上がるところ、止揚するところ、メリハリがあって良い。なにより美しい。ただし、一種の無機的な美しさではあるが。3番もそうだったが、バスドラのトレモロ・クレッシェンドが地鳴りのようである。

 4楽章も変わらない。歌もいい。ちょっとリリカルな旋律を強調しすぎかもしれない。歌詞のアホさ加減、気持ち悪さをもっと出しても、私は好きだ。

 
なにより全てトライアングルがよく鳴っている!w

 ジンマンの演奏はまったく新しいもので未来への提言に満ちている。旧盤に星の数ほどある名演奏のマネをしたってダメだ。そして、それらと比べてもアプローチが根本から異なるので、意味が無い。無理に比べても好き好きでの聴き比べになる。

 ここではマーラーの音楽をどのようにきちんと鳴らし、かつ音楽的に組み立て、そして最後にようやく面白い演奏になるかが考えられている。こういう演奏はこれまで無かったし、あっても失敗していた。

 とにかくジンマンの価値は、これまで誰もなし得なかったアプローチに成功しているという点にある。後は、聴く人が、そんなアプローチはつまんないと思うか、すばらしいと思うかだけだ。

 私はすばらしいと思う。

 これは文句無し。○5つ。

 マーラーベスト変えました。


9/19

 ジンマン/チューリッヒトーンハレ管 マーラー:第3交響曲

 まず録音が不思議。音自体はすばらしくきれいで、マーラーの追い求めた自曲に対する「明快さ」を存分に追求できるものだが、前後に幅がありすぎて、打楽器や奥の金管がやたらと遠い。これどういうマスタリングだろう?

 演奏は遅めのテンポでしっかり鳴らしてゆくもの。妙な勿体は無く、ストレートに進みその分、ホモフォックな良さが現れる。1番や2番にあったよそよそしさのようなものもの無い。あんまり情感たっぷりにやると逆にしらける可能性があるナンバーだけに、抑制された音楽が心地よい。

 1楽章から「音のドラマ」を充分に表現しつつ、そこによけいな感情表現は無いので物足りなく感じる人とドラマを充分に感じる人と別れるだろう。求める音の質の違いである。2楽章もきれいな響きと進行が印象的。可憐なふうさえ受ける。3楽章は3番の中ではやや一時止揚部が長く弛緩する場面もあって苦手だが、そこは美しさでカヴァーするしかない。

 その美しさは4楽章・5楽章、そして6楽章で頂点に達する。

 悠揚たるテンポ、茫洋たる響き、そして伸びきらない絶妙のフレージング。かなり良い。5楽章の鐘のなんと愛らしいこと。(これは楽器の鐘じゃなく、ホンモノの教会の鐘かな?)

 6楽章ラストの迫力も満点。ただラスト直前が盛り上がりすぎて、最後の美しい響きが「尻すぼみ」ととらえられても、仕方がないかもしれない。

 全体に遅めの進行なので、もっさりして聴こえる人もいるだろうが、それはそれで効果がちゃんとあるのが良い。

 全体的にちょっと個人的に響きに不思議な部分もあり、打楽器も聴こえにくいので(笑)○4つ。


9/12

 ラトル/ベルリンフィル マーラー:第9交響曲 L2007

 大手オンラインショップのネット評でも賞賛8、非難2くらいで、評判がいい。

 前のヴィーンフィルとのものは、音はきれいだが、何をやりたかったのかイマイチわからない演奏だったが、このベルリンフィルとのものは評判に違わず良い。これが悪いと云ってる人は、ホーレンシュタインがいいだの、バーンスタインがいいだの云っているので、好みが間逆に近く、しょうがない。究極は好みの問題になるから。

 まず録音が最高。どうしちゃったのEMI。

 1楽章の遅めのテンポから生れる緊張感と迫力、ぐいぐい迫ってくる切迫感、動きのある自然なフレージングも素晴らしい。ついにラトルは尊敬するテンシュテットに近づき始めたか。

 2楽章は牧歌的な面を押し出しつつ、狂的なホルンとか低音とかさりげなく強調。なかなかオタッキーな演奏(笑) テンポ間の落差も激しく、なかなか、面白く考えられていると思う。しかしどうしたって表層的な表現ととられると、ラトルという人は何もいえなくなる。そういう人なんだから。今どきバーンスタインみたいな人なんかいないでしょ。

 3楽章は明るい雰囲気が狂気的な楽章に馴染まないような気もするが、純粋に音楽として演奏の魅力に満ちている。しかし、中間部の「一時止揚」した部分で緊張感が途切れる部分あり。ここはかなり気をつかわないと、どんな指揮者でもこうなる。マーラーの一時止揚(盛り上がった後のパッと開けたような、気が抜けたような静かなまったく新しい部分)はどの曲も扱いが難しい。

 その分アレグロでのアンサンブル力と突進力は流石だと思う。

 4楽章はここぞと歌ってくる。この陶酔感はしかし、ラトルの個人的な陶酔であって、バーンスタインやテンシュテット、カラヤンの全人類を陶酔させるような迫力は足りない。

 それはどうしたって、ラトルの性格なのだろうなあ。

 でも、基本的に悪くない、とっても美しい4楽章です。

 ラトルらしい、主観的な感情をなるべく排しつつも音楽的表現の面白さを追求した、現代ではとても良い演奏の部類に感じます。なによりオケが超絶ウマイ。それを統率するラトルもやっぱりうまい。★4半。


9/1

 コンドラーシン/モスクワフィル マーラー:第9交響曲 L1971

 プラハの春音楽祭でのライヴ。ステレオ録音だが音質はさすがに悪い。

 1枚もので早めの演奏。コンドラーシンのマーラーは全体的に速い印象がある。

 速いといっても、テンポが速いというよりフレージングの間のとり方が速い。つまりベタベタモタモタもったいぶらない。そのくせ、ドラマはある。この音楽独特の寂寥感は、健在である。1楽章は無限旋律に近いが、動機そのものの区別はハッキリしているので分かりやすい。音楽は連続性を保ちつつ、無駄な部分を切り捨てて行く。
 
 2楽章もメリハリがあって良い演奏。9番の2・3楽章は楽譜の指示も少なく音楽を無視して勝手気ままに指揮したり、逆にのんべんだらりとなったり、当曲の鬼門です。

 3楽章が速い。12分。ここは暴力的な魅力もあるから、わざと荒々しくグチャグチャにするというのは手である。グチャグチャといってもアンサンブルはそれなりに整っているのか流石だが、ソ連流のガタもあるにはある。しかしつっこんですべっているのは、この場合そういう効果を狙っていると観て良いのではないか。

 3楽章の狂気があってこそ、4楽章の平安がというか平安への渇望が活きるわけです。この狂気はソ連の狂気に通じる。

 4楽章も勢いがありグイグイ迫ってくる。伸ばすところはちゃんと(楽譜通りに)伸ばすが、最後まで緊張感があって独特の音。コンドラーシンはリアリスト。

 音質★3演奏★5なのでトータル★4にします。


8/21

 ザンデルリンク/BBC交響楽団 マーラー:第9交響曲 L1982

 もちろんザンデルリンク父のクルト・ザンデルリンクなわけでありますが、重厚かつ濃厚な、今となっては懐かしい演奏。堂々として豪快、そしてクドイ。1楽章なども芝居がかって最高。しかも、それでいて遅いようでCD1枚。

 こういうたいへん音楽的な演奏を、ひどく貶める人というのがいまだにいて、大手通販サイトのWEB評とかでも然り顔で持論を展開しているが、そういう人が好む演奏というのがやたらと楽譜の表面のみを追い求めて面白くも何ともないのだから好みというのは千差万別である。

 2楽章もずっしりとした構えで、それでいてリズムが死んでいない。昨今のサラッとした軽い調子の演奏のくせに2楽章でリズムが死んでる指揮なんかもあるが、雲泥の差だ。こういう音楽は重かろうが軽かろうが、活き活きとしているかどうかが重要だと思います。

 この曲では、2楽章が良い演奏で3楽章が悪いのはあまりない。この2つの中間楽章の善し悪しで9番が決まると思っている。1・4楽章は、やるからにはみんな気合いれてやるから、たいていは良い。

 ズンズンというよりズシズシという進み具合がなんとも音楽に合っている。ザンデルリンクの魅力がたっぷり詰まっている。最後の方も凄い迫力。ちょっと後ろに引っ張るようなフレージングでどんどん速度が上がって行き、巨大なものが無理やり走る感覚が生れる。

 そうなると、4楽章はいわゆるネットリ系(笑)

 好き嫌いは分かれるだろうが、西洋ロマン派音楽の正しい解釈だと思う。マーラーにベーレンライター版は無い。

 そうは云っても、中間部(管楽器がフレーズをつないで行くところ)がやたらと淡々として鄙びているのも面白い。またすぐ絃楽器メインのあの濃〜い部分に戻るんだけど。

 楽譜をきれいに鳴らすのは確かに凄い技術だが、それは楽譜をきれいに鳴らしているだけで、音楽の演奏ではない。こういう演奏をする指揮者が、21世紀には現れるのだろうか。

 これはたいへん素晴らしく★5つ。

 当たりが続くなあ。


7/31

 ヘルビッヒ/ザールブリュッケン放送交響楽団 マーラー:第9交響曲 L2003

 ヘルビッヒ御大のマーラー。CD-R盤。ずいぶん前に6番を聴いて以来、久しぶりに聴いた。6番はなんかセカセカした「明るい」印象で、馴染めなかったが、この9番は凄くいい。1枚物なので、速い部類ではあるのだが、ぐいぐい引き込まれる。ライヴだからか、ザッハリヒの中にも独特の粘っこさがあり、感情の起伏があり、1楽章の盛り上がりも騒ぎすぎず大人の語り口で最高だ。ホルンやティンパニの雄弁さも素晴らしい。

 2楽章は遅めのテンポながらリズムはよく走り、活き活きとしてこれも良い。後半ほどテンポアップし、焦燥感も元気もある。ティンパニが豪快。3楽章も同じ。ただしこちらは冒頭より走る! 凄い圧迫感と焦燥感だが、この中間両楽章はそういう音楽だ。流石によく表現している。素晴らしい。

 しかもアンサンブル崩れないwww

 というかティンパニ自重www

 
と、思ったらラストのシンバル1拍ズレたwwww

 4楽章の濃厚さもテンシュテット級。でも、ドロドロネチネチではない。スッキリしたしかも濃厚な、けっこう奇跡なんじゃないだろうか。旋律は美しく、かつ粛々と進行する。変に勿体ぶらない。しかし、やる気の無いセッション録音のような無気力さは無く、どこまでも切々と訴えてくる。

 最期まで凛とした気品あるとても良い演奏だと思いました。

 健康的というかこちらも基本「明るい」んですが、9番は死を通じて生を歌っている、基本明るくても大丈夫な部類の音楽と思います。★5つ。

 最期拍手がフライングなのがちょっとだが、これは万国共通か……。


7/24

 マーツァル/チェコフィル マーラー:第9交響曲 SACD

 マーツァルのマーラーシリーズの1枚。

 チェコフィルのマーラー9番となると、ノイマンの名演があるが、あれよりさすがにアッサリ気味ながらも、なかなか集中力があって美しく響いている。

 しかしそれ以上、心に訴えてくるものは無い(^^;

 どーもこのマーツァルのシリーズは、私としては合奏の美しさ以外はイマイチ魅力がないなあ。高いのになあ。

 2楽章は重みが無く、従ってしつこさが無い。それが良いのか悪いのか……。私は執拗な焦燥が無いのでは魅力半減と思います。

 3楽章はしかし、なかなか良い……。野暮ったさがありつつ、洗練されている。2楽章のような軽さも少ない。というか、こっちはあまり重くない方が良いのかも。ノリ(リズム)もいい。

 4楽章が最もいい。集中しており、合奏はきれいで、迫力があり、なにより真摯。切々と訴えてくる音楽はけして甘くなく、切実な語りかけがあって胸に残る。
 
 結果として、1・2楽章はまずまずながらも、3・4楽章が美しいだけではなく、実に心に迫ってくる良い演奏だった。

 ○4つ。


7/12

 メキシコへ亡命したスペインの女流作曲家、マリア・テレサ・プリエト交響作品集を聴く。W杯スペイン優勝記念(笑)

 ホセ・ルイス・テメス/コルドバ管弦楽団/カルロス・プリエトVc

 交響的印象(1940)
 交響曲第1番「アストゥリアーナ交響曲」(1942)
 交響詩「チチェン・イツァ」(1944)
 交響曲第2番「短い交響曲」(1945)

 アダージョとフーガ(1948)(カルロス・プリエトVc)
 交響曲第3番「ダンサ・プリマのための交響曲」(1951)
 バレエ組曲「パロ・ベルデ」(1967)
 静物画(1965/1967)
 十二音技法による主題変奏とフーガ(1967)

 チェロのカルロスはマリアの甥だそうです。牧歌的民族主義的なものから、題名どおり12音まであり、これで彼女のすべてのオーケストラ作品らしいです。

 作品集は作曲年代ごとに収録されていました。2枚組。

 12分ほどの交響的印象は牧歌的なまさに印象音楽。中間部にはピアノ独奏も入り、名曲BGMのような雰囲気に。第3部では舞曲風となる。最後はフーガから壮大な祈りの音楽へ。

 第1交響曲は全作品の中でも最大規模を持つもので、30分3楽章制。牧歌的かつ民謡的な序奏から、民族舞曲のような主題となる。まさに民族交響曲の上質な味わい。名前の通りとして、これはアストゥリアスの民俗音楽を使っているのだろうか。1楽章はその民謡主題が幸福そうにずっと続く。たまーに不安な変化もするけど(笑) 2楽章は緩徐楽章。なんという牧歌山岳民謡(笑) 太鼓がなんとも素朴。3楽章はせめてアレグロをと思ったら期待通りアレグロ。しかし古典的だ。この時代の割にはコテコテの古典的作風かも。ドヴォルジャークっぽいかも。

 交響詩「チチェン・イツァ」ってういうから原始主義のズンドコものかと思ったら、素晴らしくネオ・ロマン派ふうのしっかりした調性もの。このほんわかというかはんなりとした牧歌的雰囲気は、この人の特徴なのだなあ。7分ほどの小曲だが、ヴォリュームはある。

 第2交響曲もまるでハイドンのような作風。これは凄い。スペインの古典派といっても悪くない。15分ほどのその名の通り小交響曲だ。朗らかで悪意も何も無い悟りきって澄みきった旋律が魅力。もしくはダンディか。歌がとても美しい作品。ラストはミュージカルみたい。

 8分ほどのオーケストラとチェロのためのアダージョとフーガは雰囲気が一変し、重々しい暗い作品。フーガに到るとなんとも宗教的で荘厳な雰囲気となるのは、正しいバッハの系統。アダージョとフーガを何回か繰り返す構造。

 18分ほどの第3交響曲も、実に華麗で古典的な舞曲風音楽。これはダンサーのための音楽のようで、バレー音楽からの転用か、架空のダンサーのためのものかは不明。3拍子の暗い雰囲気のうらぶれたダンスの1楽章が何とも(^^; 2楽章も3拍子でスケルツォ。3楽章にはサックスも出てきて、ちょっと違う頽廃的な雰囲気。悲しげな独白のような、なんともいえぬ詩情は健在。

 バレー音楽「パロ・ベルデ」も同じ感じ(笑) これは新古典的だ。そうかストラヴィンスキーが褒めたのは、この新古典的精神か……。いまさら気付いたぞ。

 7分ほどの「静止画」……なんとここに来て無調www 完全な無調ではなく調性との狭間を行ったり来たりですが。プリエト先生、どうしちゃったんでしょ。

 そしてその名も「12音技法による主題変奏とフーガ」(笑) 10分ほどの曲だが、うーむ……なんとも渋い。しかし空虚なものではなく、12音でもそれなりに旋律っぽくなっているのが、元はガチ新古典派の名残というか、なんというか。

 





前のページ

表紙へ