ショソン(1855−1899)


 ドビュッシーのちょっと前の世代に属するショソン(ショーソン)は、自転車事故(一説には自殺)のため44歳という壮年期に亡くなっており、残された作品は中途半端な数で、メジャーなのはヴァイオリンとオーケストラのための「詩曲」ほどだろう。

 ちなみに 「パイ生地に中身を乗せ、二つに折って焼いたフランス菓子」 も同スペルでショソンという。

 弁護士の資格をとって後、パリ音楽院入学前後の23歳ころよりマスネーに作曲を習い、フランクにも傾倒。音楽的な影響では熱烈なフランキストであると同時にバイロイトへ通いつめ、立派なヴァグネリアンだった。

 そのわりに、音楽は新古典派のやや叙情寄りといった具合であるのも興味深い。

 そのショソンのオーケストラ作品に、交響曲が1曲残っているのは僥倖だ。また、2番のスケッチも進められていたが、亡くなったため、世に出ることは永遠になくなった。


交響曲 変ロ長調(1890)

 フランキストだけあって、フランク流の3楽章制。各楽章の発想記号は以下の通り。

 第1楽章 ラン(緩やかに)−アレグロ・ヴィーヴォ Lent - Allegro vivo
 第2楽章 トレ・ラン(きわめて緩やかに) Tres lent
 第3楽章 アニメ(快活に) Anime

 スペルと意味をみるに、ランというのは、レントのことである。発想記号はたいていイタリア語が標準で、ドイツの交響曲ですらそうなっているが、フランスの交響曲はしばしば頑固にフランス語を使うので、ちょっと困るw またアニメというのもよく現れるが、アレグロというより、アニマートのことだろうと思われる。30〜40分ほどの演奏時間を有する。

 1楽章冒頭は、ラン、つまりレント。深刻な調子で重苦しい歩み。トランペット、木管、絃楽により重厚で悲壮感あふれる音楽がしばし続く。盛り上がって低音金管からオーケストラ全体で悲歌が高らかに歌われる。1楽章は10分ほどだが、このランの部分は序奏を超えて、約半分近くも占める。

 が、やおら、ぴろぴろぴろっという一転した導入から、穏やかで速い第1主題が現れると主部となる。ティンパニの合いの手を伴って発展し、勢いは続く。フルート〜木管の主導によるリズミカルな第2主題。展開部も、第2主題がメインのように聴こえる。ランの旋律も混じった感じで、なかなかシリアスにくんずほぐれつして展開してゆくのは聴き応えがある。しかし、ドイツ音楽のような劇的なふうではなく、そこはおしゃれにあっさりと再現部へ。コーダでもベートーヴェン流に少し展開しながら、盛り上がって、晴れ晴れしく終結!

 2楽章は完全に緩徐楽章で、スケルツォの混じるフランク式とは少し異なる。1楽章冒頭のランの雰囲気をそのままに、じっくりと主題を繰り広げてゆく。9分ほどで、淡々と進み、葬送行進曲のような趣もある。だが、最終部分にいたって調が変わり、フルートの語りかけ(1楽章第2主題か?)から明るい感じになって、幸せな調子で雲が晴れ、すっきりした気分となる。

 3楽章、アニメが最も長い。劇的な行軍調。特徴ある主題が各楽器によって受け継がれてゆく。中間部辺りで、執拗にテーマを短く展開するあたりは、個人的にはやや散漫だが、展開部ってたいていこんなものだろう。そこから主部が再び盛り上がり、複雑な音響とカッコイイテーマが織りなす高揚感がたまらない。そして、突如として敬虔なコラール。トランペットの歌は、第1楽章からの循環主題だろう。そこから最後までゆったりと盛り上がってゆき、光が満ちてゆく。ラストは、祈りの中へ。

 フランスの交響曲はどんなに盛り上がっても、斜に構えて変に淡々としているところがまたなんとも、フランスらしいというか(笑) 





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