ツェムリンスキー(1871−1942)
ツェムリンスキーと聴いて、まず思い浮かべるのはマーラーの妻アルマの師であるということ。そしてマーラーに影響を受けた作曲家としてのツェムリンスキーだろう。もっと詳しい人は、妹がシェーンベルクと結婚したのを挙げるかもしれない。
ぐぐってみると、ツェムリンスキーはセルビア北部の自治州ヴォイヴォデナに生れ、ハンガリーを経てオーストリアに移ってきたユダヤ人である。元は、ゼムリンスキー(Semlinski)といっていたのを、父親がツェムリンスキー(Zemlinszky
)とスペルを改め、ついでに勝手に フォン をつけて自称貴族となった。
38年にニューヨークへ亡命したが、老後は主だった活動はしていない事から、オーストリアの作曲家として分類したい。亡命からわずか4年めで死去した。
交響曲は若いときの1番(1892)と2番(1897)があるが、なんといっても高名なのは、ソプラノとバリトンとオーケストラのための叙情交響曲だろう。
叙情交響曲(1922)
インドの詩聖・タゴールのドイツ語訳テキストによる、管絃楽とソプラノ、バリトンのための多楽章制の声楽付交響曲である。まずマーラーの大地の歌を彷彿とさせ、また音調や全体の求めるところも酷似しているが、純粋にマーラーの藝術に影響された、といったところで、けしてパクリではない。また、ベルクに影響を与えている。
音楽は7つの楽章で構成されるが、タイトルは出版譜にはついていない。ただ、ナンバーのみであるが、便宜上、歌いだし(詩の第一節)がタイトルのように紹介される場合もある。
面倒臭いのでここでは、楽章数のみとする。
全7楽章で、バランスよく、演奏時間は45分ほど。大地は6楽章で、こちらは1つ多いが、大地も実は終楽章が前半(間奏)後半と別れるので、中身は7楽章と云ってもおかしくはない。
全体に、恋愛の駆け引きを歌い、けっきょく気持ちがすれ違って男女は別れる。調べても日本語訳が出てこないのが残念だった。
第1楽章、ティンパニの独奏トレモロから、深刻な主題が堂々と提示される。そこだけなら映画音楽のようだが、すぐに深い深層心理を描き出す。悲しみと苦悩。第2主題がやや明るく穏やかに提示されかけるも、バリトンが深く静かに哀を帯びて歌う。そこから急にベルク的音調となり、なんとも云えぬ爛熟した香りが漂ってくる。ここは歌い方とかも大地の歌の1楽章に雰囲気が似ているが、あれほどの悲壮感は無い。後半に冒頭のテーマが回帰して盛り上がって、静かに幕を閉じる。
第2楽章、ソプラノによる穏やかな調子。中間部はやや緊迫する。無調っぽい展開に、無調になりきれない時代の中間点を感じさせる。もともとそういう作風ではあるのだが。激しく感情が盛り上がったの地、アタッカ(?)で3楽章へ。
第3楽章、ここでも穏やかな緩徐楽章でバリトンがしっとりと歌う。
第4楽章はヴァイオリンの美しい無調的ソロから始まる。ソプラノもここはかなりセリーっぽい。ような気がする。ツェムリンスキーは旋法から調性から無調からなにからなにまで入れ混ぜてしまうので、ただ聴いている分にはなかなか技法的には特定できないが、全体の音調はとても夢幻的である。
翻って、第5楽章は激しいアレグロ。感情の発露である。2分ほどと、もっとも短い楽章。
第6楽章で、いよいよ2人は別れを迎えるような雰囲気である。音響のうねりが、男女の間を引き裂く。
第7楽章、諦観しきったようなバリトン。ここはもう、自らを慰めている。清々したという風情。大きく、激しく盛り上がりもするが、穏やかな心境で、音楽は平原へ沈む夕日を見て終わる。
悪くないけど、人類の至宝のような大地の歌とどうしても比べてしまうのが難点だな(^^;
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