有馬礼子(1933− ) 


 私が最近耳にする女流作曲家では金井喜久子や田中カレン、大島ミチルぐらいで、有馬は初耳でした。

 有馬は、金井と同じく沖縄旋律、沖縄音楽を素材にクラシックを作っている。しかし、金井が旧姓川平(カビラ)で、琉球王朝の芸能奉行を代々勤めたという沖縄の名家に生まれたのに対し、有馬は生粋のヤマトンチューでしかも江戸っ子で満州帰りでもある。

 1980年代より特に沖縄に魅せられているらしい。

 また、有馬は東京芸大では入れ違いで伊福部昭の授業を受けてはいないが、東京音大で助教授をしていたときに学長として伊福部が招聘され、秘書のようにして従っているうちにいろいろ教えを受け、弟子となったという。

 片や自己の表現に北国の情景を用い、片や南方の歌を用いる。極端ではあるが、生粋の日本民族楽派師弟といえるでしょう。大和は確かに素晴らしいが、北海道人として、日本の極北だって日本じゃないかという強い思いが私にはあるが、伊福部の曲を聴くごとにそういう想いをいや増す。有馬の交響曲も、沖縄の人の誇りとなり、日本を代表する音楽としてもっと聴かれても良いでしょう。

 作者には、日本の交響曲の発展により世界音楽文化に寄与できるよう、ますます頑張ってほしいと思います。


第1交響曲「沖縄」(2004)

 3楽章制なのだが、各楽章がそもそも交響詩やそれへ付随する形で書かれた為、いわゆる交響曲というほどに統一感は無い。もっと気楽な管弦楽組曲的なものだが、規模の点から行って、組曲というには大きすぎる為、やはり交響曲で良いと思われる。

 各楽章にはそれぞれタイトルがあり

 第1楽章「宮古」
 第2楽章「八重山」
 第3楽章「首里」

 となっている。それぞれの土地に伝わる歌や踊りの音楽がそのまま羅列されている点では、まさに交響詩というか、聴いて楽しい系の素直なオーケストラ曲となっているが、色々とシンフォニーを聴き慣れた耳には物足りないかもしれない。

 冒頭、序奏ではトランペットがなにやら沖縄音階で素敵なファンファーレ、もうエイサーって感じ(笑) ゴーヤジュースもってこーい!(うそ)

 フルートが主要主題を奏で、それを弦楽や木管が受け取るのだが、けして有機的発展をせず、対旋律も無いのは完全に伊福部流。まあ単純といえばそれまでだが、非常に効果的である。各楽器に主題が受け継がれる中、打楽器がとても面白くかつ分かりやすくリズムをとっていて、良い。

 これぞ大楽必易の精神的発露といえる。なにせ1楽章と2楽章は初めてオーケストラを聴く宮古島と八重山の人々にオーケストラ入門として書かれたというのだから。これを 「こんな単純な音楽なんか何が面白いんだ」 という人がもしいたならば、ちょっともう少し素直になったらいかがかね、と云ってしまうだろう。

 2楽章はティンパニのトレモロで幕を開け、管楽器のテーマが続き、マーチ調となるが、やや展開が吹奏楽曲っぽい。悪くはないが、響きとしてやや単調か。しかしヴァイオリンソロが主題を変奏するあたりから面白くなってくる。トランペットが変奏を受け継ぎ、管弦楽全体が明るい調子でにぎやかに鳴る中、名前は分からないが地元の打楽器が彩りを添える。中間部では踊りのリズムが現れて、ゆっくりと盛り上がって、終わる。

 3楽章は書き下ろし。終曲に相応しく最もテンポが速い。王朝に伝わった楽想から始まり、変拍子的な中間部を経て一気にカチャーシーに持って行く。あとはTVでよく見るような沖縄の人が陽気に踊っている姿を想像させ、大団円。ただし、コーダは大騒ぎというより、丁寧な造りの交響楽的な響きを重視している。

 2004年の最新作で、有馬の初の交響曲だそうです。





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