中村滋延(1950− )

 
 愛知芸大で石井歓、中田直宏に学び、その後、ドイツに留学している。現在は九州大学の大学院で、芸術工学研究院で教授をしている。作風はいわゆる現代音楽で、受賞歴や作品数も多い。なんと交響曲が5曲ある。(2017現在)

 交響曲第1番「アニマ」(1979)
 交響曲第2番「トーテム」(1990)
 交響曲第3番「レリーフの回廊」(2002)
 交響曲第4番「ラーマヤナ 愛と死」(2006)
 交響曲第5番「聖なる旅立ち」(2011)

 現代音楽作家においても、こういった形式的な古典主義(つまり交響曲や協奏曲、ソナタなど)にはまったく興味を示さない、完全な自由形式を好む人と、意外と形式主義的な面に興味を持ち、そういう曲を書きつつも、中身は現代音楽という人がいる。中村は後者のように思う。メディアアート系の映像とのミックス音響作品や、電子音楽作品もある。

 ちなみに前者は、たいてい曲のタイトルが過度に詩的で謎めいており、自作を解説することを好む傾向にある。聴いただけでは分からないから、いろいろ聴かれるためか自分から先に云うのではないかと分析している。 


交響曲第3番「レリーフの回廊」(2002)

 タイトルは、作者のサイトより。「アンコールワットの回廊のレリーフに霊感を得て作曲。」とある。

 古典的・伝統的な4楽章制で、全体で20分ほど。現代音楽作家としては、驚くべき新古典形式だが、音響としてはやはり現代のもの。

 YouTubeに演奏があるので、紹介したい。ラジオ音源で、アップしてくれる方には感謝。たいへんにありがたい。この演奏では、15分ほどで終わっている。

 解説によると、楽章ごとにもタイトルがある。これらは、みなレリーフの場面のこと。4つの楽章は、聴く限りアタッカで進められる。

 第1楽章「乳海攪拌」 混沌とした絃楽が神秘の海を予感させる。管楽器がオルガンめいて重層的に重なってきて、不協和音も心地よく、やがて厚い音響が連続して奏でられるも、すぐに冒頭の響きへ戻ってゆく。3分ほどの短い、導入部のような楽章。
 
 第2楽章「神々の戦い」 激しいアレグロの戦闘音楽。調性めいて、まるで映画音楽のような格好よさ。冒頭部を2回繰り返して、やや落ち着くも次の場面へ。打楽器も動員され、戦いは盛り上がるが、合間合間に一瞬のレントも挟まれる。中間部では霧がむせび、その中から大軍団が突如として現れる。それも繰り返され、戦いが終わった静謐へと続いてゆく。

 第3楽章「天国と地獄」 戦いはまだ続く。激しい和音のぶつかり合い。茫洋とした雰囲気の中に平和をみるが、戦いの余波が混じる。後半は一転して緊張感のある部分へ。3部形式で冒頭に戻りつつ、それを導入として新たな展開へ。不気味な旋律が飛んできて、不安と恐怖を示す。地獄の描写だろうか。

 第4楽章「アプサラの森」 最後は、天女の森に紛れ込む。オスティナートで執拗に反復される動機は、群れる天女か。それが少しずつ変容してゆく。楽器が重なってゆき、規模が大きくなってゆく。そこから、静かに回廊は唐突に終わりをつげる。

 中村はこの作品しか聴いたことは無いが、現代作家といえども、この曲に関してはかなり聴きやすい。やはり形式感があるからだろうか。展覧会の絵ではないが、順次現れる遺跡のレリーフを見てゆく様の心象。大きく盛り上がる様子は感じられなく、淡々とした印象がある。





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