藤掛廣幸(1949− )
愛知県立芸術大学、同大学院において、石井歓、中田直宏、保科洋に師事。1977年に、エリザベート王妃国際音楽コンクールで1位をとっている。
作品は多岐にわたり、オーケストラ、吹奏楽、オペラ、ミュージカル、マンドリン合奏、合唱、映画音楽、シンセサイザー、放送音楽もある。
交響曲もあり、自身の公式ホームページにおいて公開している。全曲公開は2曲ありその他一部公開や、吹奏楽曲をシンセで試演して一部公開などしている。YouTubeが充実している。
交響曲は、2017年執筆現在で下記の通り。そのうち、2曲がYouTubeに上がっている。
銀河交響曲(1979年)(シンセサイザー)
Symphony JAPAN 交響曲「岐阜」(1993年)(オーケストラ)
交響曲「出雲」(2004年)(オーケストラ/吹奏楽)
Symphony JAPAN 交響曲「岐阜」(1993/2003)
作者のFacebook に、当曲作曲の経緯がある。初演した岐阜県交響楽団が、創立30周年に團伊玖磨に交響詩「長良川」を委嘱したもので、その40周年記念に、岐阜出身の藤掛へ交響曲を委嘱したのだそうである。4楽章制、30分の古典的な国民楽派ふうな作風で、もちろんのこと完全調性。初演の映像を観るに、編制はたぶん4管だと思う。ただ、4楽章に和太鼓が入っている。標題交響曲だが、具体的なイメージは無く、聴衆が自由に想像してよい、とのこと。50周年記念演奏会で再演され、そのさいにオーケストレーションを改訂された。
1楽章は、雄々しい導入部より、山本直純の大河ドラマ「武田信玄」のテーマっぽい第1主題が軽やかに、かつ力強く鳴り響く。小経過部を経て、第2主題はホルンが雄大で爽やかな音色を奏でる。すくに絃楽に移って、しばし展開した後、本格的に展開部へ突入する。絃楽フガートより、管楽器にもフーガが移って、颯爽と進む。モティーフを繰り返しながら、第1主題、第2主題を順に展開してゆくので分かりやすい。再現部では第1主題が現れ、小展開も行いながら進んで、導入部も巻きこんでコーダへ。再び第1主題が現れ、終結する。
2楽章から4楽章まではアタッカで進められる。2楽章は緩徐楽章だが、そこは短くて、同規模のスケルツォ3楽章に到る。しかし、3楽章後半が2楽章の後半部のような形となっており、全体で見ると、スケルツォを中間部とした長い緩徐楽章とも云え、フランク様式にも通じている。そうなると、1楽章10分、2・3楽章10分、4楽章10分と、分かりやすい形になっている。
第2楽章は、美しい主題が聴こえ、作者によると自然讃歌であるが、これは特段、映像などをイメージしたものではなく、純粋音楽である。たっぷりと歌われるが、演奏時間は意外や短く、5分ほど。後半部はホルンに旋律が移って、朗々と奏でられる。伴奏というか、対旋律の絃楽もよい。旋律は続いてトランペットで再現されるが、展開しないのでこれも分かりやすい。
そこから唐突に、サクッと第3楽章へ。激しいスケルツォ楽章に、岐阜の民謡「おばば」の旋律も登場する。強烈な打楽器アンサンブルも登場して、かなり激しい。スケルツォ主題に、祭り囃子も混じって、ティンパニの連打だ。冒頭へ戻って、新しい主題が登場し、第2主題が再現されて、ここで大きな1つの楽章のように構成されるが、それから再びテンポはプレスととなり、コーダへ突入して、終結する。
4楽章は、岐阜地方の民謡だろうか。オーボエやクラリネットでひっそりと提示され、そこから壮大な終楽章が出現する。導入部が終わると、和太鼓が登場する。和太鼓ソリがやや続いて、絃楽から主題が提示される。それは西洋的で、和太鼓の合いの手とよくからむ。リズムは従って日本的な要素を孕む。主テーマが登場して、金管により高らかに繰り返される。調は輝かしいものとなり、讃歌となる。日本の、岐阜の、自然讃歌だろう。リムショットでリズムをとり、しばし経過部があって、再びテーマが展開されて続けられる。どんどんテンポが速くなって、コーダではプレスととなり、冒頭が再現されて、大きく盛り上がって伽藍を築き、大団円和音で終結する。
交響曲「出雲」(2004)
出雲大社の宮司、千家尊裕の委嘱により作曲。岐阜交響曲より一転して、2管編制。こちらも標題交響曲だが、岐阜よりももっと標題製が強く、具体的に日本神話を題材としている。4楽章制で30分ほど。作者の言によると、「一旦完成したものを破棄して何度も書き直し、やっと納得出来る仕上がりになりました。鶴が自分の羽をむしって織物を織る「夕鶴」というお話がありますが、作曲というのは正に自分の命を削って作品を紡いでいく作業だな、と実感します。」とあるので、かなり作曲に苦労したようだ。
初演の映像を見ると、オーケストラにシンセサイザーが加わっている。どうも、諸事情により、ハープと打楽器がそろわなくて、それをシンセでやってるっぽい。とも、思ったが、なんか旋律も弾いているし、よくわからない。とりあえず、会場録音なのでPAがでかい。
第1楽章「天地のはじまり」 は、7分ほど。これは言うまでもなく、伊耶那岐神と伊耶那岐神の天沼矛で混沌をかき回し、日本列島を生み出したとされる部分だろう。そのわりに、あまり神秘さは無く、なんかカッコイイ、アニメのオープニングのような雰囲気。シンセで代用している太鼓の音は、どうも、鼓系の和楽器ぽい。主要テーマが繰り返し登場して、特にソナタ形式とかでは鳴いように聴こえる。従ってそのテーマがひとしきり現れた後、ぞんがいさっくりと終わってしまう。
第2「愛の八重垣」 は8分ほど。詳細は分からないが、素盞鳴尊が日本で最初に読んだとされる和歌「八雲立つ
出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」と関連すると考えられる。絃楽の甘く切ない旋律が立ち上り、フルートがそれを受け継ぐ。低絃へ移って、いよいよ地平は開け、全体に甘美な世界が広がる。まるでオペラの二重唱だ。
第3楽章「八岐のオロチ」 これは激しい戦闘シーン。6分ほど。激しい打楽器に導かれ、蠢く八岐大蛇。そこから雄々しいテーマが現れる。それが素盞鳴か。ゆったりとした英雄のテーマと、激しい打楽器が交差する。終盤ではそれらが入り交じって、大蛇と素盞鳴の激しい戦いが表現される。その頂点で、愛のテーマが鳴り響く。素盞鳴の勝利である。
第4楽章「夢の飛翔」 11分ほどの終楽章。長く英雄的な序奏から、突然エキゾチックな音調に変化。アレグロで、打楽器のオスティナートを伴奏に、紀行音楽めいた主題が重層的に流れる。そしてここでも2楽章の愛のテーマ。そこからフガートとなる。フガートからは、英雄のテーマとも言える主題が朗々と響きわたり、そのテーマが執拗に繰り返される中、霧の中に溶けこむようにして、ふいっと終わる。
全体的に、交響曲というより、何かの番組のテーマ音楽集のような感じがする。が、それもまた交響曲なのであって、鳴り物交響曲として、面白い出来だと思った。循環形式っぽくもあるし。ハープや打楽器もそろった完全版を聴いてみたい。
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