羽田健太郎(1949−2007)


 云わずとしれたハネケンこと羽田健太郎。私は、題名の無い音楽会の司会が特に印象に残っている。てっきりピアノもうまい作曲家だと思っていたが、桐朋学園ピアノ科を首席卒業で作曲は独学ということで、作曲もうまいピアニストであった。

 作曲はサントラがメインで、純音楽は1つもなく、当項の交響曲もアニメのサントラ編曲ものである。しかし、サントラ編曲交響曲はヴォーンウィリアムスの7番「南極交響曲」など例があるので、なんの問題も無い。

 なお、ゲーム音楽のオーケストラ編曲で、交響曲イースと交響曲ソーサリアンもある模様。


交響曲「宇宙戦艦ヤマト」(1984)

 既にハネケンは劇場版第2作からピアニストとしてヤマトに参加していたが、完結編では宮川奏と共に作曲としても共作という形でクレジットされていた。完結編終了後、音楽的遺産としてヤマトで何かやろうという企画が立ち上がり、オペラ、バレエ組曲、ミュージカル、交響詩などの企画が上がる中、ガチもんの交響曲に仕立てようとなり、ハネケンに白羽の矢が立ったというもの。
 
 当時、ハネケン若干35歳。クラシックに詳しいといっても、ピアニストとしてはプロだが、作曲としてはアニメサントラやゲーム、CM音楽中心で、ガチの交響曲を書く、しかも宮川のヤマトのテーマを主題にして……などというのはたいへんな仕事だったようで、かなりの難産の末に誕生したのが当曲である。

 自分は、初演当時は知らなかったが、初演の時の映像作品を90年代にBSで放送したのを録画したのだが、サントラ組曲だと思ってたら、意外やスゴイ本格的な交響曲で、しかも当時の暑苦しい泥臭い演奏wで、驚いて戸惑い、録画を処分してしまった。いま、正規CDやDVDも廃盤になってしまい、勿体なかったと思っている。

 第1楽章 誕生

 当曲は基本的に、ハネケンも作曲に加わった完結編のサントラ主題を使用している。高名なヤマトのテーマを第1主題、イスカンダルのテーマを第2主題とした、純然たるソナタ形式でどびっくり。
 
 冒頭、C音を基調に霧むせぶ……いや、赤い大地と化した地球の様子か……ヤマト誕生の前触れが序奏として奏される。その後、おもむろに第1主題であるヤマトのテーマ。しかし、かなりひっそりと奏でられる上に、既に小展開が開始され、ガンガン変奏される。まるでモーツァルトか何かの、高名な主題による変奏曲のようである。戦闘シーンのように盛り上がって、小展開が続く。ホルンのソロの後、第2主題へ。
 
 第2主題はイスカンダルのテーマ。オーボエのソロによる。こちらは比較的展開せずに、たっぷりと美旋律が鳴らされる。

 ティンパニのトントン……というソロから、展開部。第1主題をまずメインに展開。感動的かつ雄々しく、まさに勇者の進軍だ。頂点で第2主題がドーン! とからんできて、そこへ第1主題の断片が突き刺さってくる。なかなか複雑かつダイナミックな、両主題の展開だ。

 それが一段落すると、再現部へ。両主題とその小展開が再現される。そして、そのままコーダが無く終結する。15分ほども要する、かなり大がかりな楽章だが、これも両主題のスケールの大きさがさせるのであろう。

 第2楽章 戦い〈スケルツォ〉

 完結編、終盤神殿での戦闘シーンの曲とコスモタイガーの曲とによるスケルツォ楽章。これも、かなり長い。AA'BAでBがトリオ。前半部での流麗な旋律の弦楽器と金管群とのかけあいは見事である。スケルツォと題されているが、あまり激しくなく、メヌエット的な印象。AとA'部では2つの主題が複雑に絡み合う。A'部は特に展開部を兼ねている。マーラーが得意とした、スケルツォ・ソナタ形式に近い。

 B部分は第3楽章を先取りするアダージョも兼ねる、祈りの音楽。しっとりと清浄さが歌われ、戦闘シーンが再現されてスケルツォは終わる。

 第3楽章 祈り〈アダージョ〉

 イスカンダルのテーマを主体とする、祈りの楽章。高名なアーアーーー〜というスキャット入り。1楽章第2主題を自由に変奏し、たっぷりと愛と平和と祈りを歌い上げる。3つの部分に分かれ、三部形式ともいえる。安らぎに満ちあふれる第1部分から、小休止で第2の部分へ。第2の部分は転調し、やや不安と影がよぎる。ここは葛藤のテーマであろう。人間は、なぜ戦い続けなくてはならないのか。第3の部分で、スキャットが天から聴こえてくる。宇宙空間に響く清浄なる愛のテーマ。ヤマトの、印象的なシーンである。変奏を加えつつ曲は進行し、静かに幕を閉じる。

 第4楽章 明日への希望〈ドッペルコンチェルト〉

 3楽章まで完成した時点で、終楽章をどうしようか再度ミーティングが持たれ、合唱を入れるか、リズムセクション(ドラムとか?)を加えるなどのアイデアの末に、初演のNHK交響楽団のコンサートマスター(当時)徳永二男のヴァイオリンと、作曲者ハネケンのピアノによる二重協奏曲というアイデアになった。まるで二重銀河である。

 短い序奏の後、第1楽章第1主題すなわちヤマトのテーマを、循環係式として登場させいきなりピアノが大変奏して開始される。そしてヴァイオリンがその変奏を引き継いで、さらにオケとテーマを循環させながらピアノへ戻る。

 そして第2主題として、ヤマトエンディングの愛のテーマ。確かそんな名前。ヴァイオリンとピアノが同時に奏でて、素晴らしい協奏曲として進めて行く。

 それから、展開部へと進む。序奏の後、ヴァイオリンがたっぷりと第2主題を展開する。第1主題の断片もまじり、盛りあがって行く。ヴァイオリンに続いてピアノの大きなソロパート。終盤で第1主題が再現、小展開し、ヴァイオリンから愛のテーマにも移って、二重奏で展開。オーケストラも交えて展開部は頂点を迎える。
 
 そしてコーダで第1主題が堂々と登場! 大合奏で宇宙戦艦ヤーマートー!! を歌い、華麗勝つ壮大なる大団円を迎える。

 大友/東京交響楽団のCDのこの終結部は、ハネケンの家で発見された原典版に依っているとのこと。初演は「ラフマニノフのような(ピアノ協奏曲の2番か?)」終わり方だったというが、記憶にない。






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