栗山和樹(1963- ) 


 国立音楽大学を出て、主に劇版の分野で活躍している栗山だが、純音楽で面白い委嘱作品がある。それが交響曲「北の大地」だ。これは作者の公式サイトにも出ていないので、知る人ぞ知るという存在であろう。

 札幌オリンピックのテーマ曲「虹と雪のバラード」の作詞者でもある詩人(で医者)の河邨文一郎(1917−2004)の詩に音楽をつけたカンタータ作品で、様々な経緯を経て栗山にお鉢が回り、10年越しの詩人の想いが結実したもので、NPO法人北海道国際音楽交流協会(ハイメス)内に実行委員会が設けられ、2003年に初演。その模様はTVで放映され、自分もそれを見た。まさかCDになっているとは思わなかったのでスルーしていたが、CDを最近入手したので、紹介する。


交響曲「北の大地」(2003)

 初演コンサートのプログラム解説(そしてTV放映での解説)によると、詩に感動した黛敏郎が作曲を申し出て、詩人はもちろん大作曲家の提案に快諾し、心待ちにしていたが黛が急逝。

 その後、音楽化の夢あきらめきれずにご当地物で高名な團伊玖磨に作曲を依頼。團も快諾するも、2001年に團まで急逝。ついには詩人も病に倒れるという有様であった。

 そこで指揮者の尾高さんが栗山を推薦し、詩人が病床で喜ぶ中、10年越しの念願叶い曲が完成。(たしかTV放映でそんなシーンがあったような)

 ハイメスの協力もあり、初演にこぎ付けたのである。

 ※ちなみに、北海道立苫小牧南高等学校の校歌が作詩:河邨文一郎、作曲:黛敏郎であり、当初はその縁だったのではないかと推察される。

 で、栗山だが。

 ふだん劇版仕事で嫌というほど平易なメロディック音楽を書いている人が、やたらと純音で張り切って音大時代を思い出してかけっこうゲンダイ調で作曲するのは多い事例に思われるw

 栗山もその例に漏れず、プログラムによると、いちおうオーディションで集められた素人合唱団が、さいしょはあまりの難しさに 「ど肝をぬかれた」 ほどで、特にテノール部が激しく技術的に難しかったそうである。

 と、いいつつも(笑)

 本当のセリー主義のゲンダイオンガクに馴染んでいる人にしてみれば、これはもう完全にほぼ調性。シリアスで格調高い曲調ではあるが、普通のカンタータだ。

 4節に分かれた原詩のとおり4楽章制。ソプラノ、バリトン、混声合唱とオーケストラのための交響曲。詩は長いのだが音楽としては短く、全体で20分ほどである。実際かなりの部分、詩が割愛されており、オーケストラや合唱の規模の割には、小交響曲と云ってもいいだろう。

 第1楽章「陽がのぼった」は、最も長く規模の大きな楽章で、北海道全体の自然をうたい上げる。序章も兼ね、混声合唱とオーケストラの神秘的な 「海峡に 陽がのぼった」 というリフレインから始まり、ソプラノとバリトン独唱が猛々しい北海道の大自然を賛美する。歌唱と絃楽のユニゾンに金管や打楽器が荒々しくかぶってくる様子はまさに波濤。北海道各地をめぐる原詩の中間部をバッサリとカットして、音楽は静かに終わる。

 第2楽章「神の領土」 すなわちアイヌモシリを賛美する、アイヌ視点での楽章。スケルツォぽい諧謔風リズムもあり、面白い。アレグロも勇ましく、アイヌの人々の生活を歌う。トリオでは荘厳な光が差す。原詩が短いせいか、そのまま全てに作曲されていると思う。「思いおこせ、はるかなむかし ぼくらの島は、炎だった」 のフレーズが印象深い。

 第3楽章「北の冬」 冬から始まり、移ろう美しい北海道の四季を讃える。アダージョ楽章が来るのが順当で、じっさいアダージョだが、全体で最も短い。アダージョに重きを置かない初期ロマン派のメンデルスゾーンあたりの交響曲のようだが、原詩のほとんどをカットしている。ここはさすがに、もうちょっと作曲者は頑張ってほしかった。ワンフレーズというか、冒頭しか歌っていない。音楽は美しいが、正直、ここは酷い。

 第4楽章「鐘が鳴る」 激しい叩きつけるリズムが、「鐘が鳴る。千年、朝がそのつど新しいように」 とリフレインする。ティンパニの激しい連打に、ソロとオーケストラの対話。合唱も加わり、複雑なリズムを処理して行く。劇的な効果は流石に劇判上手だが、何せ(全曲に渡り)ご丁寧に旋律に伴奏が同じ音形と音量で重なるので歌がよく聴こえない(笑) コーダも盛り上がって、一気に終わる。


 作曲者自身は自らの力量不足で詩を割愛せざるを得なかったと残しており、確かに、詩の規模ならこの倍の時間のグランドカンタータになるだろう。黛や團なら、そうなっていたかもしれない。尾高さん、推薦するにもなんで栗山やねんって感じだが、いろいろ思うところがあったのだろう。曲自体は悪くないので、構成の悪さは残念であった。横綱(詩)に音楽(前頭筆頭)が果敢にむかうも、善戦虚しく余裕で寄り切られ、といった感。


 興味のある方は、NPO法人北海道国際音楽交流協会(ハイメス)にまだCDが残っているかもしれないので、問い合わせてみてはいかがだろうか。







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