間宮芳生(1929− )
20代前半に同世代の外山雄三、林光と共に「山羊の会」を結成し、旺盛な作曲活動を行った。パルトーク、プロコフィエフ流の、民謡を分解〜その要素を再構築して昇華する手法は、2021年執筆現在でも現役である。
合唱のコンポジションのシリーズが高名だが、個人的にはやはり吹奏楽コンクールの課題曲だ。1986年の「吹奏楽のための序曲」、90年の「マーチ カタロニアの栄光」、94年の「ベリーを摘んだらダンスにしよう」の3曲のうち、私はちょうど90年のカタロニアの栄光の際、高校3年生でドンピシャであった。が、私のいた高校は結局の別の曲を選択した。
このカタロニアの栄光は、日本産の「スペインもの」曲としても最上級の出来ばえであり、実に素晴らしい。しかもスペインはスペインでも、カタルーニャ地方の味わいであり、またスペインの中でも異国情緒がある。というのも、カタルーニャはかつて君主国として独立していたが、紆余曲折の果てに現在はスペイン王国内の自治州となっている。
さて、そんな間宮に、若いころに作曲して山羊の会で発表した、小規模な交響曲がある。
交響曲(1955)
間宮26歳の力作。3楽章制で、演奏時間は約20分。日本民謡を素材として分解、再構築したバルトーク流の手法と、ソ連音楽系統の新古典主義の結実した傑作といえる。
第1楽章、約8分。不穏な響きから雄弁に音楽は始まり、まるで後年のオペラの響きが既に現れているようにも聴こえる。冒頭主題が発展し、ティンパニの一打により、大きく頂点を形成する。それから民謡風旋律の展開が流れて、冒頭主題と融合してゆく。打楽器から展開が代わり、速度が増して、別の打楽器も加わり緊迫感が現れる。ピアノの扱いなどにも、ソ連音楽の影響が見られる。また、金管やシロフォンの扱いはバルトークの影響が濃い。後半に打活気のトレモロをバックにピッコロの主題がソロで現れ、まるで能管めいて幽玄へ聴く者をいざなう。それから、リズミックなピチカートとティンパニに乗って、ピッコロ主題が祭り囃子となって変形する。それが夜の静寂(しじま)へ消えてゆき、主題の小展開によるコーダを経て、静かに終結する。
第2楽章は、約4分の緩徐楽章。茫洋とした響きの中に、子守歌がどこからともなく聴こえてくる。ここも、やはりオペラ風の味わいだ。はじめは、コーラングレ、そしてフルートが加わって二重唱。経過部から、弦楽がその歌を引き継ぐ。具体には、秋田の神楽囃子だそうである。たっぷりと謡う様は、小山清茂を思い浮かばせる、まさに民族楽派だ。管楽器に引き継がれ、さらには妨害するように重々しく巨大な主題が突き刺さってくる。静かになり、子守歌はまたコーラングレに現れて、引き延ばされて静かに終わる。
第3楽章は、約9分。第1楽章後半のピッコロの主題が循環形式めいてゆっくりとソロで示され、しばし謡われる。それが終わると、経過部として弦楽やビブラフォンが主題を小展開。楽章の半分ほどをゆっくりと進むと、次第に速度アップ。ハーブのグリッサンドを決起に、アレグロとなる。ピッコロ主題を分解し、変奏曲として組み直してゆく。が、それも長くは続かず、速度を落として、長い経過部となる。そこからじわじわと盛り上がって、いきなりコーダへ到る。不思議な進行のまま、終結和音が鳴り響く。
山羊の会における外山雄三指揮の模様がラジオ放送され、参考までにYouTubeにアップしました。
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