増田宏三(1934−2006)


 吹奏楽曲にいくつか作品があるほか、オーケストラにも少数ながら作品がある。が、肝心の本人の情報がほとんど無くて驚いた。どうも、パリへ留学後、国立音大で作曲理論などを教え、学内オーケストラで指揮をしていたようだ。作曲に関する教科書も書いている。ネットの書き込み情報では、パリ留学中に和声とフーガで一等、ウィーンで指揮法を学ぶも、日本では指揮で活躍できずに、出身校の国立音大で教鞭をとるようになった、とのことである。また、作曲のほうもいわゆる無調・12音技法とは無縁なため、楽壇でも注目されなかったようだ。

 その中に、アマチュアオーケストラのために書いた交響曲があるのでご紹介する。


二調の交響曲〜中央大学オーケストラと小松一彦氏に捧ぐ〜(1976)

 3楽章制で、演奏時間は約30分。アマチュアオーケストラ用の作品だからか、技術的にも難易度が高いようには聴こえず、むしろ質実剛健とした、骨太の旋律線が特徴的な、平明な作品になっている。もちろん調性曲。

 第1楽章冒頭から序奏無し、行進曲調で荒々しく第1主題が登場。雄々しく突き進む。旋律線が野太くホモフォニックのように聴こえるが、地味に中声部も面白い動きをしている。さすが、作曲理論の先生という感じだ。1分ほどで、いやに鄙びた民謡風の第2主題。ここで、当曲の民族主義的新古典主義という特徴がよく分かる。第2主題は小展開して盛り上がり、第1主題の発展から展開部だろう。第1主題展開はやや引き延ばされて、続いて第2主題が展開する。もっとも、両方とも展開というより分かりやすく変奏の域に止まっているようにも聴こえる。その意味でも、古典的だ。第2主題展開は短く、アッサリと過ぎ去って、再現部で冒頭に戻る。第1・第2主題とも分かりやすく順当に再現され、コーダへ。第1主題の狂乱の中で、踊りながら終結する。

 第2楽章は、全体がたっぷりと民謡調。なのか、実際の民謡から採られたのかは不明。こういう曲調の民謡はよくあるので、聴き覚えがありすぎて分からない。もしかしたら、高名な民謡かもしれない。変奏曲になっていると感じるが、どうだろう。弦楽の動きが実に良い。鄙びていて、穏やかで、かつ平和だ。しかも、書法がうまい。日本の田園とはかくありき、といった風情。ベートーヴェンの、かの第6への素晴らしい精神的オマージュにも聴こえる。日本民謡調の曲をオーケストラ(西洋楽器)で鳴らすのは存外難しく、ようするにチープになる。海草は、海の中では美しいが、陸へ上げるとクタクタになる。海草を陸で味わうには、干す、煮るなどの加工が必要になる。海草とは民謡で、海とは民謡が謡われる田畑や港、山間地帯。陸とは、ステージのことである。「民謡をそのままステージへ上げては行けない」とは、かの伊福部昭が弟子に語った言葉(そのお弟子さんから聴きました)だそうだ。大抵の日本人クラシック聴きが、日本の民謡クラシックを嫌うのは、実はそこにある。日本旋律を格調高く、上品に、そして土俗的味わいを失わずに、まさにドヴォルザークがごとくオーケストラへと写すのは、よほどオーケストレーションと和声に気を配らなくては、三文田舎芝居となってしまう。当曲は、やはり確かな技術があると感じ入る楽章である。

 第3楽章はアレグロ・フィナーレ。ロンド・ソナタ形式だろうか。元気の良い主題がやはり序奏も無く始まる。それから、やはり祭り囃子調の主題が現れる。それと冒頭主題が入り交じって、変形・展開してゆく。簡易な展開ながら、第1楽章と同じく中声部が細かく動き、かつフガートのようにも聴こえるから技術は細かい。ホルンやトランペットなどの金管も活躍し、祭り太鼓のティンパニも合いの手に忙しい。第1主題と第2主題を繰り返し展開し続けながら推移して、確実にクライマックスへ向かってゆく。第2主題の展開が、やや平凡なのもご愛嬌というか、古典交響曲らしいというか。最後は第1主題の展開からそのまま短いコーダへ突入して終結する。

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