関 泰久(1975− )


 Twitterにて、さめいく氏(マンガ家の鮫葉いくや先生)に教えてもらった、群馬県出身でアマチュアトロンボーン奏者の関は、作曲でもいわゆる日曜作曲家。それはマーラーもそうだったので悪くはないが、専属作曲家に比べて技術的に劣る人が大多数なのも事実だろう。作曲は高校時代に少し基礎理論を習ったが、あとは独学とのこと。MIDIで作曲し、コミケ等で同人CDを売っていた(今も活動している?)ようだ。

 ところで関は、アマチュア作曲ながら交響曲を書いてしまっているので紹介したい。


第1交響曲「碧き清流」(2002)

 作者のサイト office ACER に解説とニコニコ動画へのリンクがあるので参考までに。初演はアマチュアオーケストラのようである。

 日曜作曲家の交響曲で演奏されて音源になっているものでは稲熊匠があるが、境遇としては同じようなものか。やっぱりというか、こちらのほうが稲熊より10年も前の作曲だが、曲想や音調はほとんど同じだ。つまり、完全調性でしかも長い。交響曲は調性でなくてはいけないということはないのだが、70年代以降生まれの人の発表する交響曲は、2017年執筆現在、プロアマ問わず「調性の大曲」が多い。やはり、世代的に流行ってるのかもしれない。

 またそれはアメリカやヨーロッパの交響曲もそういう傾向にあると思うので、王道というか正しい当世の姿なのかもしれない。

 この交響曲もまた4楽章制で50分を超える大曲である。長良川の清流に取材した、一種の標題交響曲といえる。もはや演奏時間はブラームスの1番をこえてマーラーの1番に匹敵するが、果たして……。

 1楽章は15分ほど。序奏無しで可憐な第1主題。かなり歌謡旋律である。この楽章はこの主テーマをひたすら繰り返す形式。複雑な展開も無く、ただ1つのテーマをオーケストラ全体や各楽器で延々と繰り返す。だが、3分半ほどでフルートに派生のテーマも聴こえてくる。作者によるとソナタ形式らしいので……これが第2主題なのか? その後の展開部は、ほぼ第1主題を分かりやすく扱って、あまり展開しない。10分を過ぎたあたりから再現部で、第1主題と第2主題(やはりフルートの旋律が第2主題のようだ)を再現して、典型的なコーダへ入って結ばれる。

 2楽章はスケルツォ。ヴィバーチェ。6分ほど。古典的な三部形式。イギリス古民謡ふうの牧歌的な舞曲。日本らしい部分はまるで無し。完全な西洋調といえる。幸福感にあふれているが、中間部トリオで短調になって、湿っぽくなる。ここが日本的といえるかな? ただ、テーマそのものは変わっていない。トリオであっても変奏されている。冒頭に戻って激しいコーダへ向かっておしまい。

 3楽章は複合三部形式のアンダンテ。9分ほど。複合三部形式とは、ABA' C(コーダ)のようにに別れている部分の主部それぞれがさらに3つに別れているというもので、A[121] B[343] A'[1'2'1']のようなイメージ。分かりやすいようで同じような曲調が入れ代わりとなり、意外と分かりづらい。愁いを帯びた音調で、1楽章第1主題よりの派生と思われる主題をメインに進み、終始穏やかな音調のまま大きな変化も無く平和裡に終わる。

 4楽章、アレグロ・エネルジーコ。17分もある。もともと、作者が高校生のときに長良川河口堰の環境問題を意識したのが作曲の動機とのことで、問題提起というか、ちょっとこれまでと変わった音調となる。雄々しい主題がソナタ形式で展開される。短調なので、どこか悲劇的な雰囲気もある。第1主題をしばらく展開するが、そこは日曜作曲家の限界か、展開力に難ありなのは曲全体を通して云える。ずーっと同じ主題が延々と流れている印象。その中で、少しずつ変化はある。そういう形式の曲もあるので、意図的なのかどうかは分からないが。ソナタ形式とのことだが、ずーっと第1主題が流れているように聴こえる。ちょっと長いわりに細かくて分からない。中間部では転調しつつ、テンポを落としてアンダンテとなる。それが数分ほど続いて、やおらドラの一打と共にアレグロが復活。さらに豪快になってる。ここはうまく展開できており、なかなか燃える。しかし、一本調子なのは変わらず、それがサントラみたいな盛り上がり方をして、ゲネラルパウゼ。アンダンテとなって、フルートにより生で第1楽章第1主題の派生が再現され、ホルンなどへ引き継がれて静かにコーダへ向かう。大海原へついに清流はたどりついたか。終結部は海に沈む夕日を見て大団円。

 稲熊でも思ったが、ここまでベターな曲調というのは、アマチュアリズムにあふれていて、逆に開き直って清々しい。こういうのを書きたいんだよ! という熱意が充分に伝わってくる。誰に依頼されるわけでも無く……強制されるわけでもないのだ。ただ、藝術作品としての評価は難しいだろう。







前のページ

表紙へ