すぎやまこういち(1931−2021)

 
 ゲーム、アニメ、そして歌謡曲の作曲家として日本を代表する巨匠の中の巨匠、すぎやまこういち。

 そんな彼が、少なからず純粋音楽にも挑戦しているのを知る人は少ない。独学であるので、かなり独特な技法によっているし、高名なクラシック曲へのリスペクトもあるので、評価は多々あるだろうが、魅力的であるにはかわりない。

 絃楽のための舞曲1番と2番(2007年にまとめて5楽章制の1曲「舞曲」に改訂されている)はCDにもなっている。ここでは、珍しいオーディオチェック用にすぎやまが書いた短い機会音楽を紹介する。LPでのみの発売だが、有難いご時世である。ニコニコ動画にアップされている。


第1オーディオ交響曲(1976)

 1976年にレコードが発売されたので、そのころの作曲であると思うが情報不足で不明。

 4楽章制ではあるが、全体で9分ほどの小交響曲。1楽章からそれぞれ、様々なオーディオチェック用の用途に沿って音楽が進行するが、そのまま純粋音楽として聴いても、なかなか面白いのが流石。

 低音から高音、パーカッション、木管金管、そして絃楽と、短いながらもまるで青少年のための音楽入門的な進行で矛盾無く進み、終楽章にはドラムスやエレキもオーケストラをつぶさぬように入り、ジャズテイストもあり、ドラクエのボス戦さながらの音楽に乗って、スピーカーの立ち上がりや音域のチェックをするのだという。

 まさにオーディオ全盛時代の珍品と云えるだろう。

 ニコニコ動画に音源があります。


第2オーディオ交響曲(1977)

 こちらは発売年もよう分かりませんw たぶん1977年。

 これは3楽章制で15分ほどの音楽。
 
 こちらはよりロックのテイストを取り入れた作りで、1楽章からピアノやドラムやエレキがオーケストラに入りまくる。えてして、下品で安っぽいものに仕上がるのがオチだが、すぎやまはもともと歌謡曲の作曲家なのでそうはならない。流石である。

 チェックもより複雑に、左右の鳴り方やさらに細かい立ち上がり方、響きのキレ、音の厚み、音色をチェックするとあるが、パソコンの3000円のスピーカーで聴く時代には、逆説的であろう。

 総奏でレコードの針飛びやブレが無いかチェックというのも時代を感じさせる。

 しかし、正直、「ピアノの余韻感の表現力を見る」とか云われてもね(笑) 

 当時のレコード機器で(真空管アンプ?)本当にそこまで再生できたのかも疑問だが、今のオーディオ趣味が壊滅した時代に、そこまで求められても「ナニ言ってんの」状態ではあろうね(苦笑)
 
 これも何もかも時代でしょうな。こういう珍品を気軽に聴けるもの時代。その内容が、再生環境と矛盾しているのも時代。

 しかも、2番はより交響曲っぽくなっていて、けっこう本格的。2楽章も絃楽主体で、より純音楽。3楽章でまたロック部隊が帰ってくるが、それほど出番は無く、打楽器ソロもあって、合奏協奏曲のような雰囲気。
 
 ラストは大団円のフィナーレ。

 こちらもニコニコ動画に音源があります。


交響曲「イデオン」(第3交響曲)(1981)

 イデオン放送時、私はおもいきり子供で、それっきり実は見てないので、ほとんど内容は覚えてません(^^;

 そんなわけで、サントラもちっとも覚えてないし、作曲がすぎやまこういちだというのはずっと知りませんでしたし、こんなアルバムがあるのも知りませんでした。

 ただのメドレーあるいは組曲とも違い、サントラを主題とした変奏を伴うけっこう本格的な交響曲(純音楽)の作りであり、サントラとクラシックの中間といった試みで、うまくまとまれば良いのだが、悪くするとそのどちらからも不評となる危険性もある。また、4楽章制約40分とかなり長いので、純音楽に慣れていない人はちょっと聴き通すのは辛いかもしれない。

 1楽章はファンファーレから主要動機のエンディング曲「コスモスに君と」を変奏する形式。ソナタではない。全体的にレント・マエストーゾなのでテンポが遅く、変奏もガッツリした本格的なものではなく、分かりやすくロンドっぽくなっている(主要主題が何度も帰ってくる)ので、ちょっとまとまりが無い印象もあるが、旋律を楽しむ分には上々。ちなみにコスモスは宇宙のほうのCOSMOSである。最後は堂々としたコーダで集結する。

 2楽章はアンダンテ・アッサイ。イデのテーマによる。フルートによって示されたイデのテーマがこの緩徐楽章を支配する。変奏というより、音色旋律のように各楽器に受け継がれて行く。中間部ではトランペットのジャズ・アドリヴ風ソロ。トロンボーンとの一瞬の二重奏から木管四重奏に変わる。イデのテーマは無限に流れ続ける。

 第3楽章は「プロコーフィエフ風の」スケルツォ楽章。諧謔的でありおどけた調子。ウッドパーカッションと変拍子、複雑な旋律がそうさせる。ただ、WEB評にある、現代音楽というほどでも無い(笑) トリオでは「チルドレン」というサントラのナンバーがそのまま現れる。シロフォンがこんどはショスタコーヴィチ風で実に面白い。後半部は優しい木管のメロディーが癒してくれる。冒頭に戻り、ディミニエンド。

 第4楽章は主題と変奏。主題は異星人のテーマのようである。13変奏まであるからかなり本格的だ。参考はブラームスのハイドン変奏曲や、第4交響曲だという。

 絃楽によるマーチが主題。
 
 第1変奏 総奏による堂々としたマーチ。
 第2変奏 オーボエ独奏によるテーマの変奏。
 第3変奏 絃楽による穏やかなアンダンテ。
 第4変奏 一転して、金管群とティンパニによる勇ましい調子。
 第5変奏 再び絃楽による短い変奏。
 第6変奏 ホルンの導きにより、深刻なブラームス風の調子で。
 第7変奏 フルート独奏によるアンダンテ。オーボエと第2フルートも加わる。
 第8変奏 金管合奏によるグラーヴェ。ここらへんがすぎやまはうまい。
 第9変奏 アレグロ・モデラート、絃楽と木管による。お城か街の音楽。
 第10変奏 絃楽の主体によるアンダンテとアレグロ。ここからは怒濤。
 第11変奏 マエストーゾ、総奏による。終結のテーマが壮大に示される。
 第12変奏 打楽器アンサンブルによる間奏より、トランペットの荘厳なファンファーレ。
 第13変奏 最後は終結のテーマがアレグロで一気に示される。ティンパニも激しい。

 最後はショスタコの10番みたいな雰囲気もあるが、全体にかなり聴きやすい、かつ、ヴォリュームもたっぷりの大作。しかし、確かに本格的なクラシック聴きには物足りなく、かといってサントラしか聴いてない人には長いかもしれない。サントラ好きな人は、ナンバーが短い曲をたくさん聞くのは平気なのだが、長い曲を聴くのは苦手なのである。

 
 こちらも、動画がある。参考までにどうぞ。

 交響曲「イデオン」第1楽章
 交響曲「イデオン」第2楽章
 交響曲「イデオン」第3楽章
 交響曲「イデオン」第4楽章






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