エネスコ(1881−1955)


 ルーマニア出身では珍しい世界的作曲家にして音楽家。ヴァイオリン奏者、教育者としても高名である。 ルーマニア語では、エネスク(Enescu)というが、フランスで長く活躍し、大戦後もフランスに事実上亡命した状態で、フランス語表記でエネスコ(Enesco)というそうである。若いころより神童だったが、14歳でパリ音楽院へ行き、作曲をマスネとフォーレに習った。大戦中は故郷ルーマニアに疎開したが、基本、戦後もずっとパリで活躍した。ヴァイオリンの弟子にはメニューイン、ギトリス、グリュミオーという錚々たる面々が並び、作曲(和声)の生徒にはアメリカの「軽音楽の巨匠」アンダーソンがいる。


第1交響曲(1905)

 10代の若書きの交響曲が数曲有り、その後、チェロ協奏曲ともいうべきチェロとオーケストラのための協奏交響曲(1901)という曲を発表したが、反応はイマイチだったようだ。高名なルーマニア狂詩曲の1番、2番を書き上げた後、第1番交響曲に到る。

 3楽章制で30分ほどの曲。冒頭より明るいファンファーレがあり、確かに、フランス風の味わいがあるかもしれない。その後はゆるやかで風雅なアレグロになる。特に民族主義というでも無く、どちらかといえばその音作りの柔らかさでやはりフランスものっぽい。厳格なソナタ形式というより、いくらか自由な形式感を与えてくれるのも、それに寄与するだろう。明るく豪奢で祝祭的気分を持つオーケストレーションも、楽しい。一片の管絃楽序曲の如き第1楽章。

 一転して、悲劇的な様相を呈するのが第2楽章のレント。やがて美しい音楽で、ややエキゾチックな部分も。メイン部になると終始、たおやかな旋律が流れ、ドラマティックな部分は無い。

 3楽章はヴィバーチェ楽章だが、2楽章の雰囲気も残しているのが変わっている。盛り上がってタンバリンも鳴るのがちょっと可愛い。ずっと幻想曲的な調子で、最後はそれっぽくなるが交響曲の締めとしては弱いと感じた。この1番全体がそうすると、ちょっと軽い雰囲気だろうか。印象に残らないというか。

 ルーマニア音楽には詳しくないのだが、全体的にルーマニア色は無いか、あってもかなり薄いと思われる。和声は詳しくはないが、響きは独特。


第2交響曲(1914)

 こちらは4楽章制で45分になる大曲。特に1楽章の規模が大きい。

 冒頭よりシューマンかと思ったが(笑) すぐに動き回るテンポや旋律線が今度はリヒャルト・シュトラウスっぽくもある。つまり2番はドイツ後期ロマン派っぽい調子に変わっている。ところが第2主題あたりから否応なくエキゾチックに(笑) このへんはルーマニア民謡旋律を参考にしているのだろうか。展開部になると、緊迫した様子が続き、やはり自在に変化する曲調が後期ロマン派っぽい。15分ほどもあり、内容の割には私はちょっと長いと感じる。

 2楽章はアンダンテだが、さらにエキゾチックな雰囲気がある。ただし、あからさまな民族派というでもなく、エッセンスていど。主旋律はふつうに西欧音楽していると思う。なかなか複雑な音響も聴こえてき、作曲家の手腕を示す。

 3楽章はウン・ポコレント、マルツィアーレ(勇壮に、行進曲調に)とあり、4分ほどの短い珍しい楽章。なんと、葬送行進曲である。後半はやはりR.シュトラウス調か(笑)

 そのままアタッカで4楽章のアレグロに入るので、導入部といっても良い。こちらもマルツィアーレで、行進曲調の面白い音楽が続く。が、どうしてもこのドイツ臭が気になる。しかも、時折通俗的な(それこそアンダーソン的な)一瞬の響きもあって、かつ、いかにもなフランスっぽい木管やハープも音も混じる。途中からピアノが独奏ぎみに入ってくる。ちょっと長いが、ラストはしっかりしている。


第3交響曲(1918/1921)

 3楽章制に戻ったが、時間は伸びて50分になる。1楽章と3楽章の規模が大きい。

 ブラームスの1番っぽい重苦しい和音とリズム。重厚な主題がアグレッシヴに進んで行く。第一次世界大戦の真っ只中に書かれたこの曲は、先鋭的な面と祈りの静謐な面を持つ。後半には楽天的な希望を思わせるワルツっぽい音調になり、ちょっとラヴェルっぽいなーなどとも感じつつ、讃歌で締めくくられる。

 ヴィバーチェの2楽章は激しく曲調が変化し、戦闘調といえばそんな表現。辛辣な響きが戦争の不安を煽りたてる。どっかで聴いた事あるよーな無いよーなエキゾチックな響きも飛び出し(笑)て来るが、中間部でやおらシリアスな展開に。15分という長さの割には、曲調に変化があって面白い。最後は静かにポツンと消え行く。

 終楽章はレントである。緩徐楽章がフィナーレを兼ねており、混成合唱を伴う。静謐な真の祈りの楽章で、合唱はヴォカリーズ。神秘的で幻想的な気分をよく出している。あまり盛り上がらないで、鐘の音と共に終結へ向かう。

 うーん、なんかどっかで聴いた感がアリアリだが、悪くない響きをしている。ただ、長いわりに構成が軽くあまり感銘はうけない。重い曲が苦手な人は良いかも。エネスコは長い曲は苦手なのかなあ。


 作品表によると、上記のほかに若い時の習作交響曲(1895−98)が数曲、そしてチェロと管絃楽のための協奏交響曲(1901)、最晩年には12のソロ楽器のための室内交響曲(1954)がある。また番号なしで、合唱付の「交響曲」(1917)がある。未完成では、交響曲4番、5番、ヴァイオリンと管絃楽のための協奏交響曲があるそうである。




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