マルタン(1890−1974)


 フランス語系スイス人の作曲家で、オランダでも10年、活躍したそうである。またドイツのケルンで7年、教鞭もとっていた。独自の12音理論も構築し、尖鋭で現代的な作風だが、調性は破棄していない。9歳で作曲したという神童でバッハに傾倒。かなりマニアックな孤高の作曲家だが、渋い交響曲を書いている。年代で云えばミヨーオネゲルプロコフィエフに年が近い。


交響曲(1937)

 正統的な4楽章制で30分ほどの曲だが、中身は濃い。冒頭より立ち上がる無調旋律。ピアノも加わり、不安げな世界情勢を反映する。飄々としたヴァイオリンソロやサックスのソロも面白い。調性はあるが、複調だと思う。この時代らしいモダンさだが、聴きやすい。激しいが流れの良いアレグロや、ハルサイっぽいリズムの強打もある。この1楽章は、交響曲の1楽章というよりやはり、独立した管絃楽曲ととらえても良い。

 2楽章はラルゴで、木管楽器の美しいソロに、無調的な絃楽が切々とからむ。3楽章のスケルツォにおいては、伝統的なスケルツォ−トリオの形式の中にも無調と錯綜するリズムが尖鋭であるが、その中にも叙情があって、調性と無調のせめぎ合いが面白い。管楽器や打楽器の使い方も現代吹奏楽作品に通じるモダンさ。いや、こちらが先を行き過ぎたか。20世紀前半には、12音世界の他に、こういう作風が既に確立されていた……現代の作家はどこへ向かえばいいのだろう。

 4楽章はまたシリアス。ラルゴによるピアノソロや、その後の木管の主旋律は完全に無調だが、伴奏が共和音でそれを支えるアレグロ・リトミコに続く。独自の12音無調はあくまで作曲の一部としての無調であり、無調有きの音楽とは一線を画す。後半部のラルゴでは2楽章の雰囲気が再現される。激しく盛り上がって、ボーンと低音楽器の一声で唐突に終わる。

 終始、たいへんシリアスながら頭痛はしない。


協奏風交響曲(1946)

 原曲はこの前年までに書かれた「ハープ、チェンバロ、ピアノと2群の絃楽合奏のための小協奏風交響曲」というものだが、これは同曲の絃楽合奏を3管のオーケストラへ作者自身が編曲したもの。したがって「ハープ、チェンバロ、ピアノと大管絃楽のための協奏風交響曲」という事になる。はず。

 2楽章構成で、1楽章は短い序奏のアダージョからアレグロ・モデラートに続く。3拍子の鋭い音調が心地よい。協奏という割にはしばらくソロ楽器は目立たないが、10分くらいしてようやくピアノが(笑) 1楽章13分ww

 しかし大オーケストラ版だけあって、独奏が聴きとりにくいかもしれん。ハープはまだしも、どこにチェンバロが……。ま、あくまで「協奏風」であって、協奏曲ではないし……。

 2楽章はアダージョ〜マーチ風アレグレット(アレグレット・アラ・マルチア)〜ヴィバーチェだが、重々しい雰囲気から自然にマーチとなるあたりうまい。ただしシリアス度は変わらないので、どこか諧謔的な死の行進。ここらへんはピアノがまずまず活躍する。そのまま速度を増し、ヴィバーチェでけっこう大団円でフィニッシュ。

 考えたのだが、これってハープ、チェンバロ、ピアノを含めてしまった「大管絃楽のための協奏風交響曲」なのかしら(笑)




前のページ

表紙へ