ワイル(1900−1950)

 ドイツのデッサウ州のユダヤ人の家系に生まれたワイルは、ドイツ語読みではヴァイルとなるが、後にアメリカに亡命したので、英語読みでここではワイルとする。

 フンパーディンクやブゾーニに師事し、マーラーシェーンベルクストラヴィンスキーなどに影響を受けながらもドイツ時代から劇音楽やオペラで高名ながら純音楽も残し、1928年のオペラ「三文オペラ」が大ヒットして(何と言っても高名なのは「マック・ザ・ナイフ」だろう)一躍高名となった。が、その後のナチス政権の台頭により、ドイツ国内での活動が不可能になるとまずパリへ脱出。その後、アメリカへ向かった。アメリカでは、それまでのキャリアを投げ打ってブロードウェイで活躍したが、心臓発作により50歳で亡くなった。

 交響曲は2曲あり、1921年作曲の第1番は、ブゾーニに師事し始めたころの初期の作品で、単一楽章制であるという。


第2交響曲(1934)

 ワイルはヒトラー政権の暴力的な妨害によりドイツ国内では満足にコンサートもできなくなり、1935年にパリへ脱出している。この第2番は脱出直前の33年から34年にかけて作曲され、初演はワルターの指揮によりロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団で行われたが、聴衆の反応はイマイチだったようだ。

 20分ほどの小品で、3楽章制。元より大衆的な楽想を得意としたワイルが、純粋音楽・絶対音楽の中でもその楽想を失わず、さらに主題の統一などの工夫を凝らしている佳品となっている。

 第1楽章は重苦しいソステヌートから始まり、トランペットの悲壮的な旋律が印象深い。すぐに、アレグロ・モルトとなる。ワイマール共和国時代の不穏な空気を写し取っているかのような、不気味で緊張感のある第1主題が聴かれる。木管で歌われる第2主題も、テンポを落とさず緊張感を持続させている。提示部から展開部も激しく推移し、緊張感を失わない。第1主題を再現して、サパッと終わる。

 第2楽章はラルゴ。たぶん三部形式。ここも深刻なテーマにより憂鬱感を失わないが、その中にも美しさがある。また、木管や弦楽に聴かれるテーマには、大衆的な歌も見え隠れする。中間部では劇的な盛り上がりも見せ、ある種のロマン派的な残滓も伺わせる。そのなかにも、ワイルらしいドライな感性が光る楽章だろう。

 第3楽章はアレグロ・ヴィバーチェ。深刻な調子を引き継ぎつつ、主題が登場してから段々と明るい展開となってゆくものの、最後まで渋い音調を崩さない。ただ、コーダに至ってややハッチャけそうになるが、そこも爆発しきらないモヤモヤが残って終わる。

 確かに、三文オペラなどの音調を期待すると大外れで、地味というほかは無く、初演がイマイチだったというのは聴衆の期待値と比較して理解できる。が、不安にして不穏な時代の新古典主義作品としては、こんなもんではなかろうか。





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