モーラン(1891−1950)


 本サイト掲示板でGOLDさんより推薦を受けた。日本におけるイギリスの作曲家の認知度の点では、このジョン・アーネスト・モーランはなかなか知る人ぞ知るレベルのマニアック度だろう。

 アイルランド系聖職者の息子であった。幼少よりヴァイオリンとピアノを学び、1913年に英国王立音楽大学へ入学。その後第一次世界大戦へ参戦。そこで頭部に重傷を負う。終戦後は大学へ戻り、歌曲などを作曲した。1920年代を悪友の作曲家・批評家のウォーロックと共にケント州で過ごし、ウォーロックの死後は祖先の地アイルランドに興味を持って、晩年までアイルランドで過ごした。

 しかし戦争の傷跡が影響してか精神を病み、アルコール依存症となって、50歳で脳卒中により亡くなっている。

 作品はオーケストラ、協奏曲、声楽、歌曲、室内楽、ピアノと満遍なくある。交響曲は1番とシンフォニエッタがあり、2番の作曲中に亡くなった。作風はイギリス国民楽派の最後の系列で、民謡を用いた素朴なつくりだが、自由に展開、時には大きな感情の昂ぶりもある。けして単純な民謡クラシック作曲家ではない。


第1交響曲(1937)

 4楽章制で40分を超える大規模なもの。委嘱されたのは1924年で、アイルランドやノーフォークの民謡を取り入れた交響曲にしようと作業を開始。しかし、ケントでの自堕落な生活で一時頓挫。作業を再開したのは1933年になってからで、1937年に完成した。従って、完成まで13年を要した。

 1楽章はアレグロ。冒頭からもの哀しい調子で主要主題が提示され、木管などが派生を受け取りつつリズム良く続いて行く。金管の合いの手もカッコイイ。経過部を経て、第2主題はクラリネットから始まるしっとりしたものだろう。オーボエやホルンが引き継いで弦楽の展開へ移る。この辺は民謡主題に聴こえる。地味な経過部を通過し、ティンパニからアレグロへ戻って展開部か。激しいアレグロからアンダンテへと目まぐるしく変わるが、これは第1主題→第2主題への順番な展開で分かりやすい。それらが交錯して展開部は推移する。だが全体、展開部は地味だ。ギャーン! という不思議な音響で盛り上がってこれまでで最も激しいアレグロとなり、またこれまでで最も穏やかなアダージョとなる。これらは再現部と展開部終結を兼ねているのかもしれない。コーダはスネアドラムも鳴って激しく鳴り響き、一気に終結する。

 2楽章はレント。ティンパニのトレモロの上で金管がしっとりと和音を奏で、木管が乗ってくる。演奏時間的には最も長いと思う。木管の哀しげな旋律に弦楽がからんで、ティンパニや金管な嘆き節を入れてくる。中間部では弦楽のコラールより明るくなってゆくが、それでも天気がどこか悪いのが英国流か。やがて流れるような伴奏に旋律ともつかない音色旋律がゆらゆらと漂う場面となり、ここはかなりフランス音楽っぽい。いや、アイルランドっぽいというか。バックスバントックあたりの響きを思い起こさせる。漂いながら低弦のピチカートで終結する。

 3楽章は短いヴィヴァーチェ。弦楽の刻みにオーボエが楽しげなやや長い旋律を吹いて始まる。ホルンなどの合いの手からまたオーボエの旋律。それを金管が受け取り、木管が新しい旋律を。しかしそれはすぐに弦楽器に分断され、断片的となる。そうこうしている間にその弦楽が新しい旋律を紡ぎ、展開すると思いきや、またフルートが次なる旋律を奏で、さらにハープの伴奏が現れる。いや、これは伴奏ではなく二重奏か? やがてオーボエが戻って、ティンパニが鋭く鳴って終わる。正直、旋律がつながらなさすぎてよく分からない。

 4楽章、レント−アレグロ・モルト。レントは英国流に、順当に暗い。木管がちろちろ不思議な音を出し、弦楽がコラールを奏で、金管がゆったりと答える。クラリネットのソロは牧神っぽい。ティンパニがトレモロを奏しだし、アレグロとなる。ここも、目まぐるしく主題が入れ代わって発展してゆく。木管も金管も雄々しく主題を吹奏し、打楽器も鳴る。この辺のシャンとして貴族然としたかっこよさは、英国独特だ。だが、いったん落ち着いて、また弦楽にコラール主題が戻ってくる。それから木管が舞曲っぽい主題を演奏するが、それもすぐ無くなって、やたらと金管が高鳴る部分となり、それもすぐに消えてしまう。そのまましっとりとコーダへ突入し、静かに終結する……と思いきや、クラリネットがひっそりと歌った後にティンパニが燃えあがってシンバル一発! スネアと全和音が6回鳴って断ち切られたような不思議な終わり方をする。

 面白いしカッコイイけど、モヤモヤ感満載で、すっきりしない曲である。


シンフォニエッタ(1944)

 1番の半分ほどの規模の小交響曲。3楽章制で、25分ほどの曲。1番と異なり基本的に明るい古典的な、アポロ的曲想。本来は2番交響曲として着想されたが、作曲の途中で方針を変更して小規模なものになったという。

 1楽章アレグロ・コンプリオ。序奏無しでプーランクめいた明るい曲想でウキウキの第1主題、すぐにゆったりとして幸福感にあふれる第2主題と流れてゆく。展開部も颯爽として心地よい。ホルンのソロからいきなり冒頭が再現されるが、再現部というわけではなさげ。ゆったりとした世界がすぎて、コーダで盛り上がりつつ、打楽器も激しく簡潔明瞭な終結をむかえる。

 2楽章は主題と変奏。変奏主題と、その6つの変奏を聴くことができる。冒頭序奏無しで弦楽により夜会の舞踊めいた主題が流れる。続いて明かりが暗くなったような木管の第1変奏。ティンパニが色を変えて弦が刻み、トランペットが高らかに歌う第2変奏。テンポが落ちて、木管が静かに奏でる第3変奏。それへ弦が乗ってくる第4変奏。フルートソロの第5変奏。ファゴットのソロが現れると、最後の第6変奏。木管などにより静かな世界のまま終わると思いきや、弦が高らかに鳴り最後に盛り上がって、そして今度こそ静かに終わりゆく。演奏時間は10分ほどで、今曲の半分近くを占める。

 3楽章はアレグロ・リゾルート。祝祭気分で華やかに音楽が弾ける。シンコペーションで突き進み、金管のファンファーレ風テーマも対位法的に突っこんでくる。突然、弦がピチカートを刻み、フガートで主題が展開される。中間部はやや輝きが鈍り、影が差しこむ。やがて冒頭が再現され、経過の後フガートも再び登場。ティンパニの轟きも天に届き、執拗に金管が主題を奏で続け、祝祭気分のまま終結する。

 1番よりかなり聴きやすい佳品。






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