ウォルトン(1902−1983)


 ブリテンヴォーンウィリアムズと共に、近代イギリス3大作曲家といえるウォルトン。独学のうえ(長寿な割に)寡作家だが、そのぶん味わい深い。サーやミドルネーム、受勲を全部入れると、サー・ウィリアム・ターナー・ウォルトンOM(メリット勲章)となる。

 よく録音などにもある作品としては、ジョージ6世のための「王冠」とエリザベス2世のための「宝玉と勺杖」という2曲の戴冠式行進曲、そして映画音楽からの編曲であるスピットファイア〜前奏曲とフーガだろうか。協奏曲ではヴィオラに始まり、ヴァイオリン、チェロ協奏曲などがある。またイギリスらしく合唱作品として、「ベルシャザールの饗宴」というオラトリオ、エリザベス2世のための戴冠式テ・デウム、グローリアがある。

 独学ということだが、18歳でオックスフォード大学を退学して作曲に専念してより作曲した弦楽四重奏が1923年にベルクにほめられたということで、注目されたのだろう。6年後の1929年に作曲されたヴィオラ協奏曲から、大家の道を歩んでいるように感じる。

 40代半ばで暖かいイタリアの小島に移住して、その後の半生をそこで過ごしたようだ。

 アメリカに渡ってプロコーフィエフや、ガーシュインと交流があり、ヒンデミットや、指揮者のセルとも親しかったという。

 交響曲は、協奏交響曲(1927/43)という協奏曲風のもののほかに、2曲あって、3番が未完成。この2曲は1番が派手で陽気、2番が現代風な作風への挑戦という意味もあって渋く通好みと、分かりやすくてよい。ここでは1番と2番を。


第1交響曲(1935)

 正当な4楽章制交響曲。演奏時間はほぼ40分以上という規模の大きさを誇るが、非常に明快で明るく、盛り上がって良曲。解説によると、循環形式がそれとなく用いられている。

 1楽章、アレグロ・アッサイ。静かな冒頭から、木管により主題が立ち上ってくる。オーケストラ全体に昂奮は広がり、エキゾチックな薫りも出しつつ、主題を絃楽に移し、展開してゆく。調が一転して、雰囲気は変わらないが、やや暗く推移する。テンポが落ちて、メランコリックな旋律が高い音調のファゴット(だと思う)にて奏でられる。これが第2主題だろうか。それが絃楽などに移って、展開。そこから展開部となって、長大で豪快な音楽的変容が行われる。金管やティンパニを伴った頂点から、ちょっと落ち着いて再現部となるのだろうが、ここでも主題がじわじわと発展して行っているように聴こえるので、小展開が形作られていると思う。不協和音もかっこよく、壮大な音響が迫る。オーケストレーションもカッコイイ! コーダでは、金管の伸ばしの中で特徴的な和音が響き、そこからコーダで盛り上がって、堂々と大伽藍を形成して、ティンパニの連打も飛び出し、幕を閉じる。映画音楽の大家でもあるだけに、盛り上げ方が実にうまい。

 2楽章は プレスト:コン・マリツィア という、ちょっと変わった発想記号。音楽辞典にはあまり出てこない、このマリツィア(malizia)というのは、イタリア語辞典をひくと「悪意、意地悪、邪心、悪知恵、狡猾さ」 などとある。つまりここは、プレスト:意地悪に という意味となる。Wikipediaによると、失恋したのと関係があるとか無いとか。緊張感のあるスケルツォ相当楽章。ホルンの特徴的な主題や、木管の不気味な副主題などが面白い。7分ほどの短い楽章で、終始、悪魔の踊りみたいな諧謔性がある。常に不気味な、装飾的旋律が躍り狂う。

 3楽章は緩徐楽章。アンダンテ・コン・マリンコニア。憂鬱なアンダンテ。その通り、幽霊でも出そうなほど憂鬱な雰囲気(笑) いかにもイギリスの薄曇りの古城。絃楽器と木管楽器による、鬱蒼とした、あるいは荒涼とした主題が、寂しげに流れゆく。英国流リリシズム全開といった端整の良さと、しっかりとした叙情に支えられて、順次盛り上がって悲劇的な側面を醸してゆく。終盤でのため息のようなフルートのソロから、消え入るようにして終わる。

 4楽章はフィナーレだが、複雑に音楽が推移する。指定は マエストーゾ〜ブリオーソ・エド・アルデンテメンテ〜ヴィヴァチッシモ〜マエストーゾ であって、ややこしい。ようするに勝利の楽章ということか。明るいファンファーレ主題から始まり、堂々とした明るいマエストーゾで、高貴な印象を受ける。アレグロになって絃楽のフーガに突入。いかにも複雑な進行に聴こえる。さぞ演奏は難しいだろう。管楽器も混じってきて、テンポがやや落ちると、アルデンティメンテか。牧歌的な雰囲気も出しつつ、ブリオーソ(陽気な)で、明るさは失わなずも、2楽章の回想も。金管の激しい一吠えから、テンポが上がって、ヴィヴァッチシモだろう。実に複雑な管絃楽。オーケストレーションが薄くなる部分も出てきて、再びマエストーゾで壮大な音響に突入。も、それはすぐに納まってしまい、またも映画音楽みたいな音調の、延々たるしつこいコーダに。一気に室内楽的となって、トランペットのソロが。そこから急激に盛り上がりに盛り上がって、ティンパニ他打楽器も大活躍。しかし、終結は、寸断される、といった不思議な印象。


第2交響曲(1960)

 3楽章制で30分ほどのもの。1番から25年を経て、久しぶりに書かれた2番は、がらりと性格が異なって、意外に渋い。人によっては、楽想の枯渇は否めず、みたいな感想も。ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー協会からの委嘱。リヴァプール市市政施行75周年の1957年の初演を目指したが、完成が遅れたのだそうだ。

 1楽章はアレグロ・モルト。いきなり主題のつかめない、もやっとした暗い雰囲気の、激しい曲想。戦闘的なアレグロであり、辛辣な響きがするも、同時代は既に12音が台頭しており、「古くさい」などという意味で批判されたという。調性ともとれない、不協和音や無調に近い(?)部分もあって、ウォルトンとしても現代音楽の洗礼を受け、激しい感情の昂りがあったのだろうか。3部形式にも聴こえるが、ソナタ形式だそうである。細かい動機が入れ代わりで激しく複雑に展開してゆくような楽章。いたるところでソロのピアノも印象的に絡んでくる。明快な終結部はなく、唐突に終わる。

 2楽章はレント・アッサイ。ここでも、調の分かりづらい冒頭から、やや調性めいた進行になる。ゆらゆらした、水面を流れるような美しさがある。息の長い旋律が、いろいろな楽器で扱われるが、どことなく茫洋とした、芯のつかめない雰囲気はなんともいえない魅力に満ちている。平安な旋律が現れては消え、幻想的な音調に支配されては現実にひきずり引き戻される。作家唯一のオペラ「トロイラスとクレッシダ」と関連性があるというが、どこの部分かはわからない。頂点では調性的にすばらしく盛り上がって、ウォルトンの意地を見せる。後半は霧の中へ彷徨いつつ、消えてゆく。

 3楽章がまた複雑で、パッサカリア:主題(リゾルート)と変奏、フガートとスケルツォ風コーダ(スケルツァンド〜プレスト)というもの。重々しい主題提示から、またなんとも無調っぽい展開へ。そこから木管を主体にしたゆっくりとした変奏が始まって、一気に速度が上がったり、下がったり。主題を高らかにホルンとトランペットで変奏しつつ、静かな部分ではいつもの幽霊屋敷じみた雰囲気になって木管が変奏してみたり。そこから、主題を分解した音列のような部分がしばし続いて、興味深い。ウォルトンなりに、現代技法を研究していたというが。そこから妙な変奏主題によるフガートへ突入。跳躍しすぎて、そこには、1番に出てきたような歌謡旋律は微塵も無い。ここで、楽想の枯渇とかつまらないとか意味不明とか云われるのだろうが、無調や12音を聴ける人には、むしろ面白い部分だろう。コーダでコチャコチャと展開して、またも冒頭の主題提示が行われる。そこからは、終結まで一気だ。

 派手でもなし、格別に難解というでもなし、しかし、かなり複雑でつかみ所の無い、不思議な聴後感を残す、まさに通好みの作品だろう。






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