石桁眞禮(1915−1996)


 新字で「石桁真礼生」とも。戦前から活躍していた。いま、ちらちらと作品集があるが、そう体系的に発表はされていないようで、勿体ない話だと思う。作品ジャンルは多岐にわたる。
  
 中に、幸いにも交響曲の録音があって、わたしはとてもうれしい。


ハと嬰へを基音とする交響曲(シンフォニア)(1957)

 下総皖一に学んだ石桁は、戦後は12音技法の先駆者だった。その意味で、仲間には入野義朗柴田南雄がいると思う。1957年にいちど「シンフォニア」(TBS委嘱)として完成したが、破棄され、1965年に現行の交響曲として再構成(いちおう改訂ということになるのだろう)された。それは下記する。
 
 しかし12音といっても、それが音楽のすべてを支配しているのではなく、例えば今交響曲においては第1楽章にのみ使用されており、彼が12音をただの「作曲の方法」としてしか使用していないことが注目される。つまりそれは、元祖シェーンベルクと同じ意味合いを持っている。12音にあらずんば音楽にあらず、といった捻じれた前衛風潮からは一線を画していたということなのだろう。

 第1楽章 フガート
 第2楽章 コラールとインテルメッツォ
 第3楽章 バーレスク
 第4楽章 オスティナート 

 以上の4楽章制で、演奏時間は約25分ほど。

 フガートである第1楽章は、12音列音楽となっている。しかし、もともと戦前は、5音階や9音階を作製していたということで、旋律っぽく聞こえる12音といった印象。無調的で重厚な総奏と、コケティッシュな旋律が繰り返されてから、旋律がフーガを奏でる。形式的には古典だが、12音なので、けっこう辛辣で晦渋。旋律もいわゆる調性音楽の「メロディー」ではないので、なかなか把握しづらいものがあるが、響きとしては面白いもの。冒頭の重奏へ戻って、特段の終結部もなく終結。

 2楽章はコラールより始まる。ここは、調性っぽい。調性というか、旋法か。木管による鄙びた響きも良い。インテルメッツォすわなち間奏曲は、コラール主題の変形であるというから、主題と変奏にもなっている。変奏は、つまり間奏曲は緊張感を増して無調的な展開をしつつ、最後はまたコラールへ戻るも、不安感が増している。しかし、最後は安堵感に融ける。

 3楽章はバーレスク。スケルツォ楽章。コケティッシュな短い旋律と、楔めいた総奏が繰り返されてから、トリオのような、歪んだワルツのような部分もあって、ロンドとしてそれらが繰り返されながら進んで行く。とてもいびつな、マーラーのような印象の音楽。楽想や構成としては、下総の師であったヒンデミット流といえるだろうが。

 4楽章はオスティナートとなっている。最も規模の大きい、演奏時間の長い楽章。ここも、音列っぽい。旋律は一般的な意味でのメロディーの形をせず、辛辣に聴こえるもの。またここも、主題と変奏になっている。変奏は短いものが22も続くということである。主題と変奏なのに何をオスティナートする(繰り返す)のかというと、これもよく分からない。むしろこの音列っぽい単旋律が繰り返されつつ変容して行く様が、オスティナートということだろうか。中間部ではテンポが落ちて、アンダンテほどとなる。フルートの奏でる旋律が印象に残る。そこからオーケストラがまた速度をあげて、アレグロとなる。終始調性感のある無調のような響きで進み、不協和音により終わる。


嬰へとハを基音とする交響曲(1965)

 いちおう、かつて作曲した交響曲の改訂版ということになる。

 専門的には、音列を構成する12音のうち、楽曲を構成する基音の順番がひっくり返っている。これが、基音の順番が入れ代わるというのがどういうことか(何を意味しているのか)というと、よく分からないのだが(笑) (音列の前後が入れ代わって逆になっているということか?) とにかく順番が変わっている。また、楽章の構成の順番が、これもすっかり1楽章から4楽章までが入れ代わっている。

 第1楽章 オスティナート
 第2楽章 バーレスク
 第3楽章 コラールとインテルメッツォ
 第4楽章 フガート
 
 規模も拡大され、演奏時間は4楽章制で30分ほど。5分程度、長くなっている。特にフガートと、コラールと間奏曲が、規模が拡大されている。
 
 改訂前と同じく、12音は4楽章だけということであるが、1楽章から主題はけっこう音列っぽく響く。それは前作と、音調は変わらない。打楽器がかなり増えているかな、というのがまず第一印象。音列っぽい短い旋律が変奏されて行く。中間部ではテンポが落ちて、演奏にもよるだろうが、アンダンテよりややゆっくりな調子となる。フルートが重要なのは変わらないが、伴奏が厚くなっている気がする。そこからオーケストラが速度を上げ、大量の多楽器を伴って盛り上がり、前作にはなかった打楽器のソリを経て、さらに追加された長い終結部が続く。改作前と比べると、終結部がまったく異なる。

 2楽章はスケルツォに相当するバーレスク。楽想時代はあまり変わっていないが、やはり追加された打楽器が激しく活躍。奇妙な音形が旋律を形成する。変拍子が楽しいが、音色としては不安げなのは、改訂前と変わらない。テンポが疾走して、最後へむけて突入する。

 3楽章コラールも不安げに響く。霧中の音楽に聴こえる。コラール主題は古典的なもので、とても美しい。西洋的な要素と東洋的な要素がうまく絡み合った旋法に聴こえた。ここも、全体としてあまり改訂前と変わらないように聴こえる。コラールに続いて、木管の美しい響き。間奏曲は、変奏を兼ねている。前作に比べてコラール主題の扱いが拡大されているように聴こえる。演奏時間的にも増えている。

 4楽章は、相変わらずぜんぜんフーガには聴こえないが(笑) 楽想はあまり変わらない印象。総奏の不協和音から、短いテーマが音列で示される。しかし聴きづらいものではない。すっきりとしたオーケストレーションで、上品だ。フーガが始まると、音列フーガはやはり辛辣だ。しかし、全体にヴォリュームアップされた響きが、なんとも豪勢。やはり打楽器がかなり追加されているように聴こえる。短い動機が繰り返され、最後はやはり冒頭の重層的な響きが引き延ばされて終結を兼ねる。

 全体で30分弱の音楽(ただし、唯一の録音がけっこうゆったりしたテンポ設定)だが、構成は古典的で、音響にボリュームが有り、なかなかの傑作交響曲だと思う。



 あと、個人的には「ティンパニーとシンフォニックバンドのための協奏曲」と「チェロ協奏曲」も気になるところだ。





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