Alcazar
tcity様よりメールにてご紹介頂いた、YouTubeにてDTM自作交響曲を発表している Paul
Alcazar である。
どうも、アマチュア作曲家っぽいが、バイオグラフィーが無いのでどこの国の人なのか、何歳の人なのか、この名前はペンネームなのか、なんて読むのかも全く分からない。Alcazar は、スペイン語で城、城郭を意味するアルカサルという単語のようなので、スペインの人かもしれない。
第1交響曲(2022)
現代作曲ながら完全なロマン派風であり、作者の趣味が伺える。演奏時間も長く、5楽章制90分である。
結論から言うと、完全にブルックナー+マーラー+ワーグナー÷3に時折リヒャルト・シュトラウスやアイヴズ風味も足して、といったところで、特段の前進性、前衛性、オリジナルな創造性があるわけではまったくない。まさに、完全に同じ嗜好を示しているフルトヴェングラーの作品を、もっと分かりやすくしたようなもの。
しかし、アマチュアの作品としては、純粋に自分の好きなことをやり、好きなことをつきつめている点で好感がもてる。また、ただの自己満足かというとそうでもなく、割としっかりと作られており、他人に聴いてもらうという姿勢に関してもまず許容範囲であろう。
第1楽章から20分を超える緩徐楽章で、26分ほどのアダージョ。完全にマーラー的な趣味を示している。が、音調としてはほぼほぼブルックナーである。冒頭から広がるブルックナー的な音調世界に、好きな人は楽しめるだろうが、なんだこりゃ……と、思う人もいるだろう。そこは、アマチュアなので、こういう趣味の人だと思うほかは無い。
とはいえ、これがなかなかそれっぽくて、感心するやら笑ってしまうやら……。やり方がうまいというか、第3世界の日曜作曲家に、こういう人がホントにいそうだから困る。じっさい、アルカサルはそういう人物なのだろう。金管の扱い方など、完全にブルックナーだ。パロディーを超えて、モノマネ芸人だとしてもかなりレベルが高い。ブルックナー和声がそのまま出て来る部分も多く、引用なのかパクリなのか、意見が別れるところだろう。私は、意識的なパクリだと思うので、引用っちゃ引用の部類か。
第2楽章アレグロ・コンブリオ、演奏時間は17分ほど。激しい音調で、ブルックナーから離れ、マーラーに片足をつっこむ。激しく楽想が入れ分かるところなど、やっぱりうまい(笑) 実にマーラーっぽい。でも、マーラーではない。作曲がうまいというより、技法としてのマーラー様式の使い方がうまいというか。だから、けして褒められた作曲内容ではないのだろうけど、面白いっちゃ面白い。しっかり、軍楽隊調まで飛び出す。やりすぎである。ここを復調でやれば完全にアイヴズなのだが、ふつうに行進曲。その後、冒頭に戻って主要主題が再現され、軍隊調も短く戻る。アダージョ主題も現れ、最後に三度主要主題から軍隊調が現れて、最後は複朝的に扱われて終わる。
第3楽章のアダージェットは、13分ほどの規模。ご丁寧に弦楽合奏とハープから始まるうえ、これもまた音調的に割とそれっぽくて笑える。すぐに木管が入ってきて、田園調、あるいは森林調になって進み、とりとめなくあるいは節操無く弦楽合奏へ戻る。
第4楽章スケルツォが最も演奏時間が短く、8分ほどである。マーラー、ショスタコーヴィチ流のグロテスク風味のスケルツォで、どこかジブリかハリポタっぽい感じもしなくもない。
第5楽章レントで、再び大規模な緩徐楽章フィナーレ、演奏時間は28分にもなる。またまたブルックナー+マーラー風味に戻り、たっぷりと長旋律が流れ行く。悲劇的な音調と音圧で、突如として勃興する感情を挟みつつ、山の高みからの響きが周囲に鳴り渡る。連なる山脈のように音の起伏が激しく屹立し、あるいは哀調の草原を孤独に歩き続ける。レクイエムめいた響きは、開始から20分くらいでマーラーの10番っぽい(言ってしまった)フルートのソロから日射しが差しこみ始め、明るさが滲み出てくる。しかし、それから静寂が現れ、しばしその静寂の中の微かな風音だけを聴く。残り3分でやおら盛り上がり、天の平安の扉が開かれて、今度こそ壮大なる光が差す。金管の使い方がもうブルックナー以外に無いのだが、むしろ潔くて笑ってしまう。短いコーダで、割とアッサリとしたフィナーレを迎えて面白い。
結局はブルックナー様式、マーラー様式を駆使した壮大な模倣品であるが、アマチュアのファンアートとしては、なかなかうまい。駆使できる技法やセンスはある、ということであろう。
Alcazarの第1番交響曲のYouTubeはこちら
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