レスピーギ(1879−1936)


 イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギは若いときにボローニャの音楽学校でマルトゥッチに作曲を習い、ヴィオラ奏者としてサンクトペテルブルクに赴任したときはかのリムスキー=コルサコフに管弦楽法を習った。ゆえにストラヴィンスキーグラズノフと同門ということになる。かれの上手なオーケストレーションはそれへ由来する。作品中最も高名なのはやはり交響詩「ローマ3部作」だろう。ローマの泉、ローマの松、ローマの祝祭と名づけられた一連の作品は録音も多い。

 以外では悲しいかな急にマイナーとなってしまうが、中では、組曲「鳥」や、古風なアリアと舞曲集が高名か。吹奏楽ファンには「シバの女王ベルキス」組曲が、永遠の定番。しかしこっちも、吹奏楽よりオケのほうが断然イイ!! 「教会のステンドグラス」「ブラジルの印象」なども、面白い作品。

 そして1曲だけあるシンフォニー。

 時は西暦1914年、イタリア産交響的作品の復興を旗頭に書かれた気合の交響曲。

 イタリアはかつてシンフォニアの本場中の本場で、元祖で、発祥の地だ。ドイツなんかよりずっとむかしから交響曲は書かれていたんだーい! という子どもの癇癪みたいな発想が微笑ましいのだが、他の管弦楽曲では見事に復興を遂げたレスピーギだったが、シンフォニーはこれ一発で終わってしまった。理由はよくわからない。たぶんウケなかったのだろう。

 その、レスピーギの手による交響曲は、なんとその名も劇的交響曲

 どこがどう劇的なのか、聴いてみたい。


劇的交響曲(1914)
 
 3楽章制。60分の大曲。
 
 1楽章 アレグロ・エネルジーコ(情熱的に・速く)
 2楽章 アンダンテ・ソステヌート(音を充分に保って・やや遅く)
 3楽章 アレグロ・インペトゥオーソ(激情的に・速く)
 
 もう、各楽章の表記記号ですらコレ。 
 
 第1楽章でまず20分を超える。いきなりティンパニの連打で幕を開け、そのテーマがリズムパターンとして繰り返される中、情熱的に突き進む。たしかにイタリアは情熱の国かもしれないが……どことなくつきまとう暗い感じは、第一次世界大戦の勃発前夜ということに起因するのかもしれない。イタリア産交響的作品の復興というわりに、イタリア的には聴こえない。何をどうすれば「イタリア的」なのかという定義も疑問だが、20世紀初頭の普通の不安シンフォニーではある。

 クラリネットソロも交えつつ、経過部を経てホルンから金管に移り、冒頭動機を執拗に展開して行く。第1主題がこのような重苦しいのならば第2主題はたいてい明るくて軽いものだが、ここでは第2主題もメランコリックで深刻だ。提示部で7分ほど。繰り返しは無く、静かになってから第1主題の展開へ突入する。アンダンテとなって、たっぷりと第1主題の変奏が続く。第2主題も展開も続いてたっぷりとアンダンテが担う。ここから、10分間ほど第1主題と第2主題が少しずつ入り交じって展開されるが、意外に地味だ。長い展開部がこんなに地味だと、聴くのはちょっと辛い(笑) 展開部後半ではひっそりとオルガンまで鳴って、厳かな音調となる。そこから深刻な雰囲気へ戻り、再現部っぽくなるが、展開部の最後かもしれない。いや、これは展開部と再現部も兼ねたコーダになっているのだろうか。主題を変奏しながら壮大に盛り上がって、ローマの〜〜みたいな響きも垣間見せつつ、ヴァイオリンソロが転調して明るい幸福的な音調となって第2主題展開。そのまま、しっとりとした世界の中で楽章を閉じる。

 第2楽章は17分ほど。しっかりした造りの、硬質なアンダンテ。どこか幻想的な雰囲気を醸しているのは、レスピーギの趣味だろう。弦楽からはじまり、クラリネットのソロにハープ。重厚な和音を金管が。どこかエキゾチックな装いも。だが、全体的にやはりほの暗い。幻想的でありつつ、中間部にかけての悲劇的な盛り上がりは狂おしいほどだ。そこから音量と編制が落ちて、レクイエムめいたヴァイオリンソロから、後半に入る。後半では少し音調が変わって牧歌的となる。と、みせかけて、曇天が。1楽章第1主題の断片も現れて不安を煽る。その派生動機だと思われるテーマが展開され、盛り上がる。そこからは終結部となって、静かに終わる。

 第3楽章は18分ほど。ここも長い。冒頭からシンバルも鳴って雄々しいファンファーレ的な主題が響きわたる。第2主題はクラリネットを主とした木管で軽やかに。経過部で音調を押さえつつ、不安げな響きが支配する。第2主題も現れて互いに展開してゆくが、なにせ経過部が長い。どういうわけか……レスピーギは交響詩などではサクサク進む素敵な旋律や展開が、協奏曲やこういう交響曲では形式にこだわりすぎるためか、ちんたら長いのである。ここでも、アレグロ楽章だが中間部のアンダンテのほうが長い有様。単調で切々と流れるこの悲哀はいったい……!? 展開部後半から終結までは行進曲調になって、重々しい敗軍の逃走めいた曲調から、そのまま悲劇的に幕を閉じる。

 同じくヨーロッパで、マーラーの9番や10番、ドビュッシーの交響的素描「海」が作曲されていた時期の音楽としては、やはり2流……いや、一流半の観は否めないかな……。ちょっとだらだら感が強く、劇的というより、悲劇的交響曲だ。レスピーギは標題性を持った曲が強く、純粋音楽はいまいちな印象である。

 



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