シマノフスキィ(1882−1937) 


 ショパンを排出したポーランドは、作曲家だけではなく偉大な演奏家も多数排出し音楽大国と言われているが、作曲家だとショパンと第二次大戦後に活躍したペンデレツキィやルトスワフスキィに代表される現代ポーランド楽派の中間の作曲家というのは、いまいち知られていないように感じる。

 私も、あまり意識していなかったが、当サイトの掲示板にて turgenev さんより紹介を受けて、興味が出てきた次第である。交響曲は4曲あり、いずれも30分以内で聴きやすく更新しやすいというのも、大きかった。

 シマノフスキィは、現在はウクライナにある領地を支配する地主階級であるポーランド貴族(シュラフタ)の家に生まれ、母親はスウェーデン移民であった。幼いころより裕福な音楽環境にあり、親戚筋が経営する音楽学校へ入学して基礎を学ぶと、19歳でワルシャワへ行き、より専門的な音楽教育を受ける。音楽集団「若きポーランド」のメンバーと出会って刺激を受け、卒業後はベルリンやライプチィヒで活動していた。

 解説によると、その創作期は3つに別れ、第1期は当時、どの若い作曲家も影響を受けたワーグナー、リヒャルト・シュトラウスなどの後期ロマン派の影響下にあるもの。

 第2期は1914年よりイタリア各地、パリ、ロンドンなど旅行をして(ロンドンではストラヴィーンスキィに会って影響を受けた)古代オリエント、初期キリスト教、イスラム文化を勉強し、ある種の神秘主義的な印象主義を持つもの。

 そして第3期は、ロシア革命の影響で貴族階級だったシマノフスキィの家は革命主義者に襲撃され、落ちついた後はポーランド民族主義に傾倒した。1921年にパリで再会したストラヴィーンスキィに、民族主義と現代様式が見事に融合したバレエ音楽「結婚」をピアノで弾いて聴かされ、衝撃を受けたことが、その傾倒を決定づけたという。

 1927年よりワルシャワ音楽院の院長となったが、軋轢があり、1932年に辞任。自信で演奏会などを開き、生活費を稼いだ。ピアノ独奏を伴う第4交響曲は、この時期の作品となる。しかし、ピアニストとしては技術不足で、生活は困窮。その後、肺結核を患い、1937年に療養先のスイス、ローザンヌで没した。


 ※この頁の姓表記について

 ロシア人の名前の〜スキィは、元はポーランド由来のもので、ポーランドでも〜スキィと発音するようですが、なぜか日本語表記は〜スキです。指揮者のスクロヴァチェフスキとか。同じく、〜ツキィも〜ツキです。これはなぜなのか、諸説あるようですが、本来はスキィ(スキー)ツキィ(ツキー)にするほうが自然に思いますし、ポーランド系のストコフスキィがスキィで、スクロヴァチェフスキがスキや、ポーランド系カナダ人アイスホッケー選手のグレツキーがツキーで、作曲家のグレツキがツキなのは個人的におかしいと思いますので、ロシア風に準拠して、伸ばしたいと思います。(他の頁で先に書いたものはめんどくさいので直しませんw)


第1交響曲(1907)

 なんと、第2楽章が未完成で、作者自身は破棄(撤回)しており、近年まで演奏も録音も無かった、いわば幻の作品。現在は、第1・第3楽章のみで演奏されている。その両楽章で、演奏時間は約20分。

 後期ロマン派の内、レーガーに特に影響を受けているとされ、作者自身は第1楽章を「対位法的・和声法的・管弦楽的怪物」と呼んでいたという。

 冒頭から、主題の定まらない色彩的な感覚とオーケストレーションで動機が細かく展開してゆく。作者自身が怪物と呼ぶに相応しい、絡み合う短い動機と分厚い和声、そして変幻自在なオーケストレーションは、シマノフスキィの徒ならぬ才能を垣間見せる。そして、確かに後期ロマン派、それもウィーンの風味と薫りが芬々、濃厚に漂う。3分ほどで展開が代わり、音調は緊張感を増してゆく。シェーンベルクツェムリンスキーあたりの、初期作品と言っても通じるような響きだ。5分ほどに、ヴァイオリンの短いソロ。そして、楽章は後半部へ入る。ゆらめくオーケストラがきらびやかに音をかき混ぜ、あるいは静寂さに物憂げで神秘的な音響を形成する。8分ほどからまた新しい動機が発生し、無限増殖的かつ官能的に展開してゆく。次第に明るく、そして膨らみ、速度を増して行き、再びクラリネット、ヴァイオリンのとても短いソロから、一瞬、リヒャルト・シュトラウスの匂いがして、終わってしまう。

 第2楽章を未完成で欠いているので、事実上の第2楽章は、第3楽章フィナーレである。調性と半調性のようなゆらめく響きに、豪勢なオーケストラが色彩的に細かい動機を紡いでゆく。どこか近代フランス音楽的な色彩感も、しっかりと伝わってくる。主題というより、もっと短い動機が現れては消え、労作・展開されてまた現れては消えてゆくので、分かりやすい旋律というものは聴こえてこないが、間違いなくこの時代特有の歌がある。フィナーレ後半はその美しい詩的で官能的な歌がより全面に出てきて、ヴァイオリンやホルンなど、さまざまな楽器で奏でられる。この息の長いゆらめく旋律性が、シマノフスキィの特徴とのことである。また、旋律の周囲の、何重もの和声が凄い。コーダではトロンボーンが吼え、打楽器も爆発するが、最後にまた凄くリヒャルト・シュトラウス的な世界が現れるのはご愛嬌か。それから一気に、ホルンの咆哮、バスドラの轟きから、終結の長い和音へ向かう。

 全体的に交響曲というより交響詩の雰囲気が漂うが、この時代の交響詩と交響曲が一体となった世界の空気がよく伝わってくる佳品。


第2交響曲(1910/32)

 シマノフスキィの名をヨーロッパ中に知らしめたという、出世作。1番が撤回とのことで、当時の人が初めて聴いたシマノフスキィの大規模なオーケストラ作品は、これということに。初演の後、後年になって改訂が行われている。出版は改訂譜なので、現在、聴けるのは改訂後の作品であると思われる。創作第1期の代表作であり、やはりレーガーをよく研究した結果であるという。3楽章制で、演奏時間はシマノフスキィの交響曲中最長の約30分。レーガーの他、リヒャルト・シュトラウス、スクリャービンの影響も指摘されている。

 第1楽章冒頭から濃厚な色気と共に、ゆらめく官能的な主題が聴こえてくる。13分ほど。ヴァイオリンのか細いがしっかりとしたソロに、熱い管弦楽がまとわりつく形式は健在。オーケストラ自体が変容してゆくように蠢いてゆく様は、確かにリヒャルト・シュトラウスの特徴を垣間見せている。官能性はスクリャービンだし、執拗な半音進行はレーガーと、偉大な先輩たちの影響をまったく隠していないし、むしろ誇らしげに使用している。動機が波のようなうねりながら進行してゆくのは、間違いなくドビュッシー。6分ほどから展開が変わり、8分あたりで大きく暴れる。描写的には、嵐のような、というふうのになるのだろう。そこからは細かい動きが続いて、さまざまな動機が移ろいでゆく中に、主題が見え隠れする。再度弾けるように盛り上がって、テンポが落ち、ヴァイオリンやクラリネットなどが細く歌い継いで、音量を減らして、小さな終結和音と共に静かに終わる。

 第2楽章は主題と変奏。第6変奏まで描かれる。同じく13分ほど。まず、テーマがレントで奏される。ピアニッシモで、旋律とも言えないような、7部に別れた弦楽の実に渋い半音進行が続く。第1変奏で木管も入ってきて、さらに官能的になる。第2変奏までテンポが変わらない。第2変奏は3/4拍子となって、オスティナートめいて執拗に決まった音形が繰り返される。第3変奏は3/8拍子、スケルッツァンド。同じく3拍子だが、ヒョコヒョコと飛び跳ねるような、明るく滑稽なリズムと旋律が面白い。第4変奏はガヴォット。テンポが落ち着き、ゆったりとした田園の散歩になる。ヴァイオリン独奏の、美しい主題も聴ける。第5変奏はメヌエット。ゆったりとした、大人の雰囲気の舞曲になる。第6変奏はヴィバーチェでカプリッチオーソ。雰囲気が代わって、シリアスな音調で悲痛な響きを演出してから、ヴァイオリンの導きで緊張感を上げて、第3楽章のフーガへ続く。

 アタッカで進む第3楽章はフーガ。演奏にもよるが、8〜10分ほど。半音進行の細かい音形による主題が、コチャコチャと弦楽全体にフーガで進んでゆく中に、木管が入ってきて、さらにホルンなどにも引き継がれる。それらが繰り返されながら、次第にオーケストラ全体にフーガは広がってゆく。マーラーならば大オーケストラを駆使して2重フーガ、3重フーガと発展してゆくだろうが、そこはシンプルに、わりとすっきりしている。いったんテンポが落ち、フーガより離れてシマノフスキィ流の官能的な主題が帰ってくる。それが数分ほど進んでから、再びアレグロとなり、フーガ主題を展開する。後はオーケストラが大きく響きわたって、最後にフーガ主題を高らかに奏して終わる。

 第2・第3楽章は、従って古典的な「変奏曲とフーガ」という形式であるが、古典を範としつつ、中身は当時としてはかなり現代的だったろう。


第3交響曲「夜の歌」(1916)

 こちらは創作第2期の代表作で、テノールと混声合唱、オーケストラのためのカンタータ的作品。3楽章制だが、全楽章がアタッカで演奏されるため、1楽章制と捉えられている。演奏時間は約25分。

 ペルシャ時代の神秘主義的詩人、ルーミーの詩のドイツ語訳のさらにポーランド語訳の詩がテキストに用いられている。特徴づけているのは無調(風)、神秘主義、異国情緒、そしてストラヴィーンスキィ的な、多彩を極めるオーケストレーションであろう。

 第1楽章、8分ほど。冒頭から「実にそれらしい」夜の雰囲気。熱帯夜のような、神秘的な朧月夜のような……。寝苦しい感じに、違いなさそうな。序奏からすぐにテノールと合唱の神秘的な歌唱が加わる。それはすぐに消えて、ヴァイオリンのかそけき独奏。息の長い、儚い旋律はまさにシマノフスキィである。音調が変わって、遠くに聴こえる合唱。どこか、近代イギリス音楽にも聴こえてくる世界だ。無調というより旋法っぽいヴァオリンのソロと合唱とによる、夜霧。そこから音響が次第に広がって、合唱も大きく響いてくる。和声はあくまで神秘的で、動きが出てきて音響が爆発する。やはり、スクリャービンに近いかもしれない。そこから雰囲気は冒頭のように静かな音調へ戻るが、急速に速度が上がって第2楽章へ。

 アタッカで続く2楽章も8分ほど。スケルッツァンドとなり、テンポがアップする。軽やか、かつ不安定な進行で主題が奏でられる。1分半ほどで、一気にオリエンタルな雰囲気となる。虫の音のようなタンバリンなども、その雰囲気を演出する。スキャットで合唱も入り、さらに雰囲気は満点に上がってゆく。シンバルの一打からテンポが再び上がって、景気のよい旋律も出てくるが、流れゆく音調は健在。複雑にテンポが変わり、忙しい部分と、神秘的な合唱を伴うスローな部分が交錯する。最後はヴァイオリンとホルンの息の長い二重奏となり、無音となって終結する。アタッカだが、無音(休符)が長く続くので、いったん終わったようにも聴こえる。が、おそらく指揮は動いており、このまま連続して第3楽章へ。

 またアタッカの第3楽章はラルゴ、最も長く10分ほどある。第1楽章に続き、テノールのソロがじっくりと現れる。すぐに合唱も加わり、茫洋とした響きの中で音響が浮遊する。ヴァイオリンのソロも健在で、飛躍した音階で特徴的な主題を奏で続ける。それへ木管のソロも絡んできて、神秘主義の音調を維持。そこへ、ゆったりとテノール独唱が入ってくる。いったんオーケストラだけで盛り上がり、爆発、炸裂して、全休止から小爆発を繰り返し、宇宙の法則は終息してゆく。最後に、テノールと合唱が現れ、静かに世界を閉じてゆく。

 やはり、神秘主義的な音調となると、全体的に浮遊感漂うものになるのは、仕方がないのだろうか。


第4交響曲「協奏交響曲」(1932)

 ピアノとオーケストラのための作品で、日本語訳では、協奏風交響曲とも言えるだろう。第3期の代表作にして、ヴァイオリン協奏曲第2番と並んで、シマノフスキィ最後のオーケストラ作品となっている。

 当初はピアノ協奏曲として作曲していたが、途中から交響曲とすることに改められた。純粋なピアノ協奏曲にしなかったのは、おそらくピアノの役割が協奏曲ほど独立してソロイスティックではなく、あくまでオーケストラの中の1つの楽器として雄弁だったから、ではなかろうか。

 しかし、とは言うもののピアノの役割は大きく、協奏曲的な性格もしっかりと有している。3楽章制だが、第2・3楽章はアタッカで進められる。演奏時間は約25分。

 解説によると、意見と方針の対立によりワルシャワ音楽院を辞任に追いこまれたシマノフスキィは、当曲をひっさげ自作自演のソリストとして演奏旅行を行って生活費を稼いだが、素晴らしい出来ばえに引っ張りだことなり遠征を重ねて体力を消耗したうえに、演奏者としては何年も再演されるというほどではなかったようで、次第に演奏回数も減り、必然収入も減って困窮。しかも、持病の肺結核が悪化し、数年後に亡くなっている。

 演奏者としてはイマイチだったというが、この曲のピアノパートはなかなか難曲で、これが弾ければ充分だろというか、自分で弾くならもっと簡単に作曲しろよ、という気にならないでもない。そこは、作曲家としての自分を優先したのだろうし、自分の中で作曲家の比重が重かったのだろう。 
 
 第1楽章、モデラート。9分ほど。弱音のリズミカルな伴奏に乗り、さっそくピアノのソロ。旋律は美しいが、進行はやはりシマノフスキィ節で少し不思議。各種木管のソロも支えに入ってきて、室内楽的な響きに。鋭いトランペットから、オーケストラ全体が動き出す。テンポを激しく変えながら、3分ほどで進行が穏やか、かつ神秘的となり、ピアノもそれへ合わせて揺らめくようなものに変わるが、すぐにテンポが戻って速い部分に。オーケストラ全体が速度感のある経過部を経て穏やかな音調となって、ここでは、ピアノは伴奏あるいは内声部の支えに徹する。またテンポアップ、機械的な印象を放ちつつ、アレグロで進み、ピアノの短いカデンツァ。すぐにオーケストラも復活し、勢いよく進みながらまたピアノソロが現れて、一気にコーダへ突入し終結する。

 第2楽章はアンダンテで、同じく9分ほど。まさに神秘的なという形容に相応しいピアノのソロ、半音進行のフルートとの二重奏、さらにホルンなどが入ってきて、美しい風景が広がってゆく。ヴァイオリンの、泣けるように綺麗だが、けして泣きの入らないドライなシマノフスキィ節。ピアノが常に鳴り響いて、それらを装飾する。4分ほどで、ようやくオーケストラ全体が動き出す。ピアノの無窮道的な動きの中でオーケストラが大きく揺らめきながら流れ、再び冒頭の音調となる。ピアノとフルートの二重奏。そしてピアノだけへ。不安定に聴こえるよう計算されつくしたピアノの音形にヤキモキしていると、そのままアレグロへ突入する。

 第3楽章はやや短く、6分半ほど。第2楽章から、アタッカで続けられるアレグロ。弱音で続く、機械的な打楽器や弦の刻み。シマノフスキィが研究した、ポーランド民族舞曲のリズムが多用されているという。色彩的な扱いで楽器が増えてゆき、オーケストラ全体まで増殖する。それを前奏にして、ピアノがその勢いを引き継ぎソロで登場。しかし、開始から2分と経たずにモデラートへ推移。ヴァイオリンの蚊の鳴くような音形とピアノ、クラリネットなどが綾に絡みつきながら、印象派的な揺らめきを出しつつ、また次第に速度を上げる。あとはそのまま、終結まで突っ走る。スネアドラムも勢い良く、オーケストラは大きく何度もうねりながら、ピアノはその波に乗って滑り行き、非常にお洒落な、フランス的な音調で終わりを迎える。






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