ノルドストーム(野沢秀通)(1954− )


 邦人ファンのわたしもまったく知らなかった作曲家。それもそのはず、野沢はノルドストーム(Nordstorm)というペンネームで作曲活動をしているという。

 ちょっと怪しい物を感じてしまった。(パロディ人物ではないのか?)
 
 さらにCDが怪しい。
 
 中古で購入した物だが、レーベルが MARCO POLL 。マルコ・ポーロ(MARCO POLO)ならマニアック曲ファン御用達のレーベルとしてわたしも世話になっているが、マ、マルコ・ポル??? なんじゃそりゃ。しかもですね、ジャケットの作り方とか、そっくりなんです(笑)マルコ・ポーロと。さらにパロディー的なものを感じた。

 でも、演奏が末広誠/仙台フィルだから、それなりのちゃんとしたものらしい。録音も日本だし、原盤所有はアメリカということだが、なんとも不思議なCDだ。プライベート盤ということか。ネットで検索してみても、自分のこの交響曲トップページがヒットするぐらい情報が無い。

 このノルドストーム(野沢秀通)、CD解説を信用するに、なんとシンフォニーを1988年までに17曲も作曲している。これは日本人としては、過去前例をみない多さだ。
                 
 年代順に列記してみよう。全曲にサブタイトルがあり、かつ標題交響曲であるのも見逃せない。

 1975年 交響曲第1番「アパッショナータ」
 1976年 交響曲第2番「エレガンス」
 1977年 ソフィア交響曲
 1978年 交響曲第3番「リリック」
 1978年 ルスティカーナ交響曲
 1979年 交響曲第4番「パステル」
 1979年 カンティレーナ交響曲
 1980年 エスタシア交響曲
 1980年 ノルディカ・ロマンティカ交響曲
 1981年 アイランド交響曲
 1982年 交響曲第5番「オード トゥ ビクトリー」
 1983年 カリオン交響曲
 1984年 交響曲第6番「グローリー」
 1985年 聖マルコ交響曲
 1986年 交響曲第7番「ユートピア」
 1987年 アルカディア交響曲
 1988年 交響曲第8番「エンジェラス」
 
 とりあえず、カナ読みでのみ記しました。それにしても、えらい量ですな! 1番と2番はLPになっているとのことです。CDでは、3番が録音されてます。


第3交響曲「抒情的」(1978)
 
 20世紀のクラシック音楽は、無調、12音が一世を風靡する一方、いわゆるネオ・ロマン主義も台頭していた。
 
 ノルドストームの作風は思いきりロマン派であり、シューマンメンデルスゾーンブラームスの諸派に傾倒し、旋律主義で、ハンソンと吉松隆を足して2で割ったような。

 しかしこのような音楽では、70年代の日本楽壇で勝負するのは、たしかに難しかったろう。
 
 50分に近い大交響曲であり、ノルドストームの交響曲でも最大規模であるという。リリックという副題があるぐらいだから、楽想はたいへんにリリカル。

 モデラート−アレグレットの第1楽章ではいきなり泣けてくるぐらいの美旋律。うはーッ! こりゃすごい。彼の形式も小倉朗のように古典派を意識しており、今交響曲はブラームスとまったく同じ編成をとっている。作り方も、たいへんにブラームスチックで、そういう意味ではドボルザークにも似ているかもしれない。

 あとは延々とこういった抒情的な旋律を楽しむだけ。また、聴く限り、特にソナタ形式でもないようだ。だから、新古典主義というより、吉松の云うところの疑似古典主義なのかもしれない。

 しかしブラームに似ている。特にこれは2番に似ている。

 2楽章はアンダンテ。こちらも、調が変わって、いくぶん気うつげで物憂げな暗めの旋律が、ひたすら鳴り続ける。
 
 3楽章スケルツォぐらい、日本人なら日本的なリズムを使ったらどうだい! と叫びたくなるが、頑固なまでに、保守的な3/4。しかも旋律は抒情的。
 
 そして4楽章、アレグロ・モデラート。全体ではもっとも長い楽章だが、序奏からもう……テンポぐらい変えたらどうなんだい! どこか懐かしいアメリカ民謡のような、ひたすら温厚的な美旋律の嵐! 古き良き世界をどこまでも懐古している。いや参った。恐れ入りました。吉松もびっくり。

 第3に限ってだが、ジャズなわけでもない、打楽器たくさんなわけでもない、多楽章なわけでもない、まるで19世紀へ先祖帰りしたみたいな交響曲。そして、ドラマがあるわけでもなく。戦争があるわけでもなく。ただ平和的に美しい。そういうのが、たまにはあってもいいと思います。
 
 参考にまでに、YouTubeにアップしました。どうぞ聴いてみてください。

 第1楽章 第2楽章 第3交響曲 第4楽章


2015/4/19追記

 ひょんなことから、このノルドストーム=野沢秀通の詳細情報を得てしまった。

 この御方、CDの解説にあった通り、アメリカで活躍した……こともあったのかもしれないが、その正体は、東京の某レコード屋(LP屋)の店主であったという。当時、レコード藝術にもインタビューが載ったというし、知ってる人は知ってる情報なので、何も伏せる必要もないのだが、とにかく話が怪しいので伏せた(笑)

 録音はやはり、全て自主製作で、1番と2番はLP、3番はCDで、さらに4番も録音(CD)がある、ということまで情報を得た。現在も日本に在住だそうである。

 しかし、伺う話が怪しすぎて、17曲(もしかしたらそれ以上)の交響曲はホントにぜんぶあるのかいな、という心境になっているw

 せめて本人が作曲しててほしい、とは、Twitterの知人の言であるw

 続報があれば随時更新してゆきたい。






前のページ

表紙へ