20世紀弦楽合奏名曲勝手5選!!


 20世紀交響曲作家ベストとか日本人交響曲10選とか、勝手にやって遊んでいるのだが、今回は20世紀の弦楽合奏曲5選。

 Wikipediaを見ても、現代物の弦楽合奏曲ってあるようで無く、無いようであるという微妙な顔ぶれ。高名曲では、いわゆるパウル・ザッハーの委嘱したバーゼル室内管弦楽団のために書かれた弦楽合奏曲及び単にザッハーの指揮により初演されたものが多々あるものの、それらをさしおいて一部(裏)名曲として5曲選んだ。

 ・ヴェーベルン:弦楽のための5章
 ・ジョリヴェ:弦楽のための交響曲
 ・ミャスコーフスキィ:シンフォニエッタOp.68-2(シンフォニエッタ3番)
 ・芥川也寸志:弦楽のための3章
 ・ペッテション:弦楽のための協奏曲第3番

 どうよ、この(笑)

 R.シュトラウスや、オネゲルや、バルトークや、ストラヴィンスキーシェーンベルク、ベルク……20世紀弦楽合奏曲で、もっと高名で確かに素晴らしい曲はあるし、武満やペンデレツキィや、バーバー……現代物でももっと高名なものもあるが……あえてこれ。譲れない想い。

 では以下小文を。


 ヴェーベルンの弦楽のための5章(1909/1929)はもともと絃楽四重奏(1909)だったものを作者が弦楽合奏に編曲。全5楽章で演奏時間約10分という聴きやすさ。ウソ。聴きやすくありません。気づいたら終わっている。

 これは他の4人と比べてもかなりメジャーであるが、意外と聴いたことのある人……というより、どんな曲か覚えている人は少ないように思う。まだヴェーベルンが厳格な12音技法に至る前の無調時代の傑作だが、なんといっても、「こんな無調の最初期作品と同じような曲を未だに書いている現代の作曲家とは〜」という命題を思い起こさせ、さらには「そんなこと言ったら調性音楽だってみんな古典派ロマン派と同じような曲ばっかり書いてんじゃん〜」という命題までも思い起こさせ、しまいには「現代でクラシックを作曲する必要ってあるのかな……」などとなってしまうとゆー、まことに罪深い作品。


 アンドレ・ジョリヴェの弦楽のための交響曲(1961)は意表をついてジョリヴェにこんな曲があるんだという感じだが、これがイイ。紹介した5曲の中では最も新しいが、まさにバリバリに現代の響きである。

 弦楽のための交響曲というジャンルはけっこうあって、弦楽セレナードなどと共に、弦楽合奏曲の中でも、さらに1つのジャンルを築いている。けっこうあって、と云っても、高名どころでは数曲ていどではあろうが。Wikipediaに出ているだけでも、コリリアーノ、バーシケッティ、アッテルベリ、W.シューマン、オネゲル、マリピエロ、が認められる。その他ではポポーフの3番、ハルトマンの4番が弦楽。ジョリヴェの弦楽のための交響曲は、2014年末の執筆時点でWikipediaには載っていない。

 3楽章制で20分ほどという、新古典的・伝統的なフランス流交響曲そのもの。アレグロの第1楽章からガリガリの不協和音アレグロが心地よい。テーマはあるが無調に近い。中間部でテンポがやや落ちるが、またアレグロへ戻る。この緊張感と構築力こそ現代音楽であり、交響曲である。

 2楽章の緩徐楽章でも調性は破壊されていつつ、完全なセリエリでもない。叙情的無調ともいうべく、ベルクに近い手法。いっさいのロマンや甘美を廃しているが、厳しく美しいアンダンテ。

 3楽章の高速アレグロでは再び工事現場のような音が戻るものの、短い動機が現れて、少しは点描風となる。一気呵成に終わり、気持ちがいい。


 交響曲を27曲も書いたニカラーイ・ミャスコーフスキィにはただ単にシンフォニエッタと題された曲がオーケストラ、弦楽(1曲め)、弦楽(2曲め)と3曲もあり、小交響曲の割に演奏時間が30分くらいあったり、肝心の交響曲に20分とか15分とかのものがあったりで、どこが小なのか分からない。番号が無いので作品番号で言うとOp.68-2になるが、分かり易く仮番号をつけるとシンフォニエッタ第3番(1946)となる。

 これは4楽章制で約30分の、こうなるともう立派な交響曲。これも、事実上は弦楽のための交響曲であろう。1楽章から重厚なロシアの響き。弦楽器だけでこれほどの重厚さと神秘さが出せるのが凄い。叙情とメランコリックもあり、アレグロ楽章といいつつ、ほとんどオルガン的祈りのアダージョで、聴き応えがある。

 スケルツォを欠き、2楽章はアンダンティーノ・グラツィオーソ。ロシアの民謡ふうの主題を静かに繰り返し、変奏して行く。

 3楽章はすばらしいアンダンテ。テンポ良く、ロシアらしいやや暗めの、メランコリックで甘美な旋律があふれでる。次第に気分は沈んでゆき、旋律も低弦へ移ってゆく。

 アレグロ・コンフォーコの第4楽章、激しさの中にも北の叙情あり。弦楽器のみとは思えないこの表現! 現代っぽい第1主題からメランコリックな第2主題。展開部も激しいアレグロで、第1第2主題を順に扱う。そのまま、再現部から一気に終結する。

 ミャスコーフスキィの実力が遺憾なく発揮されたロシア的良品。弦楽合奏としても、かのチャイコーフスキィの弦セレより構成的にずっと良い。さすがに小交響曲と名のるだけはある。


 日本人作曲家で弦楽合奏というと何と言っても武満徹の「弦楽のためのレクィエム」だろうが、ここはやっぱり芥川のトリプティーク(1953)だ。弦レクももちろん名曲だが、武満としても、もっと良い曲もあるし、弦楽合奏としての完成度はこちらのほうが断然高い。

 13分ほどの3楽章制の組曲で、1楽章アレグロは小気味の良い、いかにも日本風(と、芥川の趣味でソ連ふう)の音楽。第1主題と第2主題が現れるが、三部形式にも聴こえるもの。

 規模の大きなアンダンテの2楽章は、唄いのような節回しが特徴的な日本風ともとれる旋律が紡がれて行くもの。ボディノック奏法もあり、リズム感が強調される。

 プレストの第3楽章では最も速いリズムとテンポの旋律が小粋に走り回る。走り回って、てやんでい! と音楽が終わる。日本人として武満流の侘び寂びもいいが、こういう庶民の気質を表した音楽というのもまた良い。


 最後に、我輩が現代弦楽合奏で最高傑作と信じている、アラン・ペッテションの弦楽のための協奏曲第3番(1957)を紹介する。これは内容もさることながら、演奏時間もおそらく弦楽合奏の中で最長。これに匹敵するのはマーラーが編曲したシューベルトの「死と乙女」の弦楽合奏版くらいではないか。

 なんといっても演奏時間50〜60分。しかもふつうに3楽章制w カンタータのような、ストーリーがあるもので長いのは分かるが、これただの現代音楽ですから……。

 だいたい現代音楽は短い。それはおそらくヴェーベルンの様式の影響なのだろうが、それも極端として、こっちの、この長さは異常だ。ペッテションは交響曲でも、1楽章制で70分とかやたらと長く(しかもノンストップ)、こういう初期の作品からその萌芽はある。

 1楽章は20分に近いアレグロ・コンプリオだが、伝統的な外観を有しているようで、厳密なソナタ形式ではないと思われる。ペッテションらしく、無調のようで調性感もある不思議な響き。アレグロだがテンポも変化し、現代音楽ではあるが、主題を律儀に変奏して行くので、その意味で古典的。速い主題が第1主題、ゆっくりな主題が第2主題とすると、ソナタ形式になっているのかもしれない。中間部には、ペッテション流の叙情部も少し出てくる。

 2楽章「メスト」は、このメストだけで録音されたり演奏されたりする場合もある。30分近い大曲で、これだけでもこの3番を聴く価値はある。調性感の残る無調もの緩徐楽章。ひたひたと迫る暗黒。捨てきれない叙情。強迫観念。孤独。戦いの最後の最後に、かならず儚い希望があるのもペッテション。たいてい、それは幻なんだけども。

 3楽章は10分ほどのアレグロ。ひとつの主題を徹底的に追い込んで、叙情と辛辣とを行き来する。

 弦楽だけで50分以上をもたせる演奏もたいへんだろうが、音楽がそれを感じさせない多彩な響きと緊張感。凄くいい。






参考 日本人交響曲のページ
    邦人作家録音希望コーナー!!
    日本人のチェロ協奏曲
    これだけは残したい日本の交響曲10曲!
    20世紀の交響曲作家ベスト5&日本人の交響曲作家ベスト5


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